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日本を背負って働きたい 人気コンテンツを海外へ 日経GLOBAL GATE

2015/10/19

2013年に発表した「妖怪ウォッチ」の大ヒットにより、日本を代表するゲームソフト会社となったレベルファイブ。現在、同社はこの「妖怪ウォッチ」を海外展開するため、米ロサンゼルスに新会社を立ち上げ中だ。そのリーダーに任命されたのが早川ゆかりさん(2015年8月31日より、レベルファイブ アビーCOO)。会社の使命を背に海外に向かった彼女の前には、どのような「荒野」が広がっているのだろう。
レベルファイブ アビーCOOの早川ゆかりさん(写真:戸井田夏子)

■日本を背負って仕事したい

海外展開のための適任者を探していたレベルファイブの日野晃博社長の目に留まり、ヘッドハンティングのような形で移ってきた早川さん。

現在立ち上げ中の新会社は、自社コンテンツを海外に広めるレベルファイブにとって、まさにグローバル展開の要。それだけに早川さんの責任は重く、重圧も感じているはず。けれどもお見受けしたところ、本人はそんな現状を楽しんでいるようだった。

早川さんは親の仕事の関係で、小学4年生から中学2年生までをオーストラリアで過ごした帰国子女。社会人になってからもヨーロッパで1年、アジアで半年ほどの海外赴任を経験した。

「早くから海外で暮らして客観的に日本の良さを知ったので、いつかは日本を背負って海外で働きたいという思いが強かったんです。おそらく帰国子女の中には、そのような考え方の人は多いと思います」 

英語も堪能で、今回の任務にはうってつけ。一方の早川さんのほうも、最初から乗り気だった。

■大学4年での作文が現実に

(写真:戸井田夏子)

決心した理由は、もうひとつある。早川さんは、中学時代からコンテンツ業界で働きたいと思い続けてきた。大学4年の時に書いた『10年後の最高の自分・最低な自分』というテーマの課題作文にも、その思いを明確に記している。

「『10年後の自分は、日本で大ヒットしたコンテンツを海外でもヒットさせるために、ロサンゼルスで活躍する国際プロデューサーになっています』って、自分でもかなり具体的に書いたなあと思います。今年(2015年)はその作文を書いてから9年目。今回の話をいただいたときに作文を思い出し、まさにチャンス! もうこれはやるしかない、と」

海外が好きというよりは、むしろ大の日本好き。海外経験は豊富だが、できれば日本で暮らしたいと思っているという。

「ただ、人生でひとつやり遂げたいことがあるとすれば、日本のものを海外でヒットさせること。だから『喜んでやります!』と即答したんです」

■絶対なめられたくない

インタビューをしたのは、アメリカ出発からおよそ3カ月が過ぎたころ。現地ではどのような毎日を送っているのかと問うと、「びっくりするぐらい、いろいろなハプニングに見舞われている毎日」だと笑う。

「常に何かの案件が“炎上”している感じ。こうしてお話ししている間も自分のメールボックスの中は、すごいことになっていそうな…そんな日常ですね。でも『あーどうしよう』なんて悩んでいる暇はない。すぐに具体的なアクションを起こさないと、あっという間に物事が進んで、気がついたら相手にハンドルを握られていた、なんてことが普通にあるんですよ。本当、気の抜けない毎日です」

世界経済の中心であるアメリカにあって、特に競争の激しいコンテンツ業界。その場その場で問題を解決しながら進む毎日は、聞いているだけでもエキサイティングだ。丁々発止のやり取りも日常茶飯事。

「アメリカは広いということもあり、電話会議やスカイプ会議をすることが多い。日本では、電話会議で、お互い相手の声が聞こえないぐらいの怒鳴り合いの大げんかとか、まずないですよね。アメリカでは、しょっちゅうあります」

とにかく、「なめられたら終わり」だと、常に身をひきしめる日々。ただでさえ、アジア人の若い女性というだけで足元を見られがち。そのうえ、日本では有名企業のレベルファイブも、アメリカではまだ知名度が低い。企業人にとって一種のアイデンティティーである、会社のブランドを頼りにするわけにもいかないのである。「日本にいた時には考えられないほど、毎日、臨戦態勢です」と言うのもうなずける。

■成功を確信できる仲間たち

立ち上げ業務に携わって3カ月。手応えを感じるにはまだ早い。だが、一緒に仕事に取り組む仲間やパートナー企業がポジティブなため、恵まれていると感じている。

「たとえ会議中は大げんかになっても、最後には『本当にいい会議だった。絶対にぼくたちは成功するよね』と、そんな言葉を投げかけ合って会議を締めくくるんです。単なるポーズなのかもしれないけれど、アメリカのそういうところ、とても好きです。こんな心強いメンバーがいるなら成功間違いなしという気にさせてくれる。だから、必ず成功するという確信を持ちながら仕事ができるんです」

それだけに、会議が終わればぐったりだ。けれども、「いい運動をした後のような、心地よい疲労感に包まれる感じ」と笑う。

■トラブルは燃える

(写真:戸井田夏子)

国内外を問わず、新会社や新規プロジェクトの立ち上げにはトラブルがつきもの。だが、早川さんの話を聞いていると、とっても楽しんでいるように感じるのだが…。その問いに、笑顔でうなずく早川さん。

「何かを立ち上げることは好きだし、カオスの中にいたり、トラブルがあったほうが燃えるかもしれません。むしろ何もトラブルがないと、どうしたんだろう、今日はなんだか静かだな?と思ってしまうことも。不測の事態が起これば起こるほど、アドレナリンが出る気がします」

いやはや、実にアグレッシブなことをおっしゃる。おそらく現場では、水を得た魚のようにいきいきしているに違いない。

「自分は日本ではアグレッシブで浮くタイプかもしれませんが、外国人と比べるとかなりマイルドな方だと思います。それに、私が驚くほどアグレッシブな日本女性は、海外にはまだまだたくさんいますよ」

大和撫子、恐るベしというところか。

■「自分の言葉」を持とう

現在の早川さんは、アメリカでは通訳を介さずにやり取りをしている。やはりそれほどの語学力が必須なのかと思えば、そうでもないという。そう言えるのは、社会に出て最初の海外赴任での体験に基づいている。当時、英語にはそこそこ自信があったにもかかわらず、実際のビジネスの場では自分の英語があまりにもたどたどしく、語学力がもっと必要だと感じたことがあった。

「でも実は、単に話す内容に自信がなかったから、たどたどしかった。それを語学力のせいにしていたんですよね。だから必要なのは、話すべき内容をきちんと自分の言葉で言えるかどうか。いまの自分は通訳がいない方が伝えやすいので、そうしていますが、話す内容に自信がありさえすれば、通訳を介してビジネスをしたって恥ずかしくもなんともないと思います」

リスニングに関しても、相手の言うことすべてを理解できているわけではない、という。

「でも、聞き漏らしや勘違いがあったら致命傷になりかねない。だから相手が発言するたび、自分が理解できているかどうかを相手に確認しながら事を進めるようにしています。聞き漏らすことで次に話す内容に自信がなくなるぐらいなら、会話の流れを止めてでも、確認した方が良い。実際、『あなたが言ってるのは、○○○という意味で合ってる?』と、一回の会議中に何度も尋ねますが、それを馬鹿にする人はいないです」

「自分の言葉」で伝えることの必要性は、なにも外国語でのコミュニケーションに限ったことではない。早川さんの言葉は、言語は単なるツールだということを、改めて認識させてくれる。

■コンプレックスよりも誇りを

早川さんが責任の重い新規の海外事業にまったく臆せず、むしろ果敢に、それも楽しく挑んでいるように見えるのは、やはり帰国子女で海外経験あり、という経歴からくるのだろうか。

明るくインタビューを受ける早川さん。左は日野晃博社長(写真:戸井田夏子)

「必ずしもそんなことはないと思います。私たち日本人が海外で不安を覚えるのは、なんだかんだコンプレックスがあるからだと思うんです。英語に自信がないとか、アジア人であるとか。でも、そんなものを感じる必要は一切なくて、むしろ日本人であることに誇りや自信を持っていいと思っています。だって、これだけおいしい食べ物があって、トイレがハイテクで、ゲームや漫画や小説など自国のコンテンツであふれかえっている国は、ほかにないんじゃないでしょうか。算数も理科も、日本人の小学生が外国に行ったら、あっという間にクラスの頂点に立てる。海外での困難に直面した際は、そういった日本の素晴らしさを噛み締めながら立ち向かうと、不安が拭えるのではないでしょうか」

日野社長が、「ものすごく勢いのある女性で、彼女なら何とかするだろうという安心感を抱いた」と評する早川さん。話してみれば、なるほど納得である。到底、海外で屈しそうには見えない。早川さんに率いられた「YO-KAI」たちが荒野を切り開く日は近いだろう。

(ライター 笹沢隆徳)

[日経GLOBAL GATE 2015 Autumn記事を再構成]

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