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相続トラブル百科

マイナンバー始動 新しい相続トラブルの可能性も 司法書士 川原田慶太

2015/10/9

 社会保障・税番号制度、いわゆる「マイナンバー制度」がいよいよスタートし、各家庭への通知の準備が着々と進められています。市区町村に住民票をおく人が対象となる広範な制度ですから、むろん相続の分野とも無縁ではありません。

 開始当初は相続への影響は、おそらく限定的なものとなるでしょう。まず「社会保障」「税」「災害対策」の分野での導入が先行しますが、しばらくの期間は個人番号にひもづいて蓄積されるデータはまだまだ限られたものです。

マイナンバー制度で相続の現場が変わるかもしれない

 相続だけ切り取ると、遺族年金の申請や相続税の申告などの手続きでマイナンバーを添えて提出するような局面が想定できないわけではありません。また、住民票などの書類について、手続きの際に、マイナンバーを伝えるだけで原本の提出が不要になる仕組みも順を追って整備されていくでしょう。

 しかし、大部分は手続き上の、あくまで実務的な話のレベルにとどまります。従来の相続の体系を根底から変えてしまうような、劇的な構造変化はしばらくはないと思います。ただ、いつまでも無風状態が続くわけではありません。

 先行する3分野(社会保障、税、災害対策)の次に予定されている、「預貯金口座」「医療」へのマイナンバー適用がスタートした時が、ひとつのターニングポイントとなるでしょう。とりわけ預貯金口座への適用は、見えてくる景色を一変させるような爆発力を秘めているといえます。

 預金口座のマイナンバー管理が進めば、資産の「名寄せ」が容易になります。相続の際に「故人がどこにどれだけ預金をしていたか」を一元化して調べられる方法は、これまでは確固たる仕組みは存在していませんでした。税務署のような強い権限をもった公的機関をしても、全国の金融機関をくまなくローラー作戦で調べるといった原始的な方法しかなく、現実的な作業量の問題としてすべての口座を把握することは難しかったのです。

 ところが預金口座へのマイナンバー利用が定着していけば、名寄せ調査の問題はたちどころに解決してしまうでしょう。しかも故人の口座だけでなく、家族名義の口座などの全体像も、すぐに把握することができます。

 マイナンバーが振られた所得税などの申告データとも照合しながら、誰に、どのようにお金が流れ出たのかが、相当クリアになるはずです。いわゆる「名義預金」(家族の名前を借りてためた故人のお金)も、これまで以上に捕捉されやすくなるでしょう。

 また、相続人にとってもマイナンバーを利用して故人の遺産が把握できるようになれば、「亡くなった親がどこに口座を持っていたのかわからない」という類いの、相続の現場でありがちな風景も大きく変わる可能性があります。

 「遺産がこんなに少ないわけがない。どこに隠した、出せ!」といった相続トラブルが減るのか。あるいは逆に明確に判明してしまうことで「遺産がこんなにあるじゃないか。もっと取り分を増やせ」「お前だけ生前にたくさん入金された記録が出てるじゃないか。今回は遠慮しろ」といったもめ事が増えるのか……。

 どちらに転ぶかはわかりません。いずれにせよ、マイナンバーによる遺産の名寄せが現実のものとなれば、これまでとは違った行動をとる相続人が現れることは確かでしょう。

 いまのところ、口座にマイナンバーをひもづけするためには、本人の同意が必要という任意の設定なので、スタート直後から、すべての既存口座にいっせいに番号が振られるわけではありません。とはいえ、マイナンバー制度の趣旨からすると「もれなくひもづけしなさい」という力が大きく働いていくことは予測できます。

 そうなれば、マイナンバー導入以前と以後で、故人の遺産調査を取り巻く環境は劇的に変化することになるでしょう。環境が変化すれば、新しいタイプの相続トラブルも続々と登場してくるかもしれません。

川原田慶太(かわらだ・けいた) 2001年3月に京都大学法学部卒。在学中に司法書士試験に合格し、02年10月「かわらだ司法書士事務所」を開設。05年5月から「司法書士法人おおさか法務事務所」代表社員。司法書士・宅地建物取引主任者として資産運用や資産相続などのセミナー講師を多数務める。

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