若手蔵元の個性的な酒に脚光 型破りな「共同醸造」も

日経トレンディ

日本酒全体の製造量がピーク時の半分以下に落ち込む一方で、実はここ数年、醸造アルコールを添加せず、米と米こうじ、水だけで醸す純米酒は製造量が伸びている。

造り手の世代交代が進むなかで、従来の大量生産で画一的な味わいを待つ普通酒などからの転換が加速し、クラフトビールのように酒蔵ごとの味わいが個性化。かつての地酒ブームを牽引(けんいん)した「淡麗辛口」だけではなく、爽やかな酸味やふくよかな米の甘み、少々のガス感を楽しめる新世代の純米酒が増えている。しかも、使用する酒米は、王者の「山田錦」(主に兵庫産)だけに頼るのではなく、地元産を重用。「テロワール(その土地ならではのもの)」を重視するワインの世界に近づいた。今、20~40代の若手が醸す本物の地酒が、実に面白い。

東大卒のジャーナリストが酒造りへ

新政酒造は、「6号酵母」を生み出した秋田の名門

そんななか、「日本酒業界の革命児」と称されるのが、現存する最古の酵母「6号酵母」の発祥蔵である、秋田の新政酒造8代目の佐藤祐輔氏(40歳)。東京大学卒業後にジャーナリストとして活動し、07年に蔵に戻った異色の経歴の持ち主だ。それまで酒の製造は季節雇用の杜氏が担っていたが、佐藤氏はこれを廃止。自ら杜氏を兼ねている。そして、地元向けの普通酒が主体だった製造体制を、付加価値が高い「全量純米造り」に変えた。酒米は秋田産のみとし、酵母は華やかな吟醸香を生む最新酵母ではなく、穏やかな香りでまろやかな味わいをもたらす蔵伝統の6号酵母をあえて使うなど、これまでの酒造りの常識を次々に覆している。

さらに、今秋の生産分からは「全量生酛(きもと)造り」に移行する。現代の酒母造りでは、市販の醸造乳酸を加える「速醸酛(そくじょうもと)」が一般的だが、生酛は醸造過程で自然発生する乳酸菌を生かす手法。速醸酛は2週間ほどでできるが、生酛は30~40日と手間がかかるうえ、温度管理などが難しい。そのため、全量生酛造りを実践する酒蔵は極めて珍しい。

佐藤祐輔氏(40歳) 東京大学を卒業後、ジャーナリストに。酒類総合研究所の研究員を経て、07年に蔵に戻る
酒米は、すべて秋田産で、「秋田酒こまち」が中心。 今後は農家支援のために米作りにも積極的に関わる

一般に生酛造りの日本酒は、燗酒に向く濃厚な味わいと理解されているが、佐藤氏が醸す生酛は方向性が大きく異なる。口当たりが柔らかで、爽やかな酸味と米の甘みを感じられる美酒だ。「本来の生酛は速醸酛と同等の飲み口で、それに自然な乳酸菌発酵による奥深さが加わる。江戸時代の酒造りを研究してたどり着いた」と佐藤氏は言う。

(写真左から)『新政 NO.6 S-type』ろ過を最小限に抑えた生原酒で、澄んだ味わい。精米歩合は40%(720mLで税別1574円)、『Colors 瑠璃(ラピス)』秋田産「美山錦」を100%使用した代表作。精米歩合は40%(720mLで税別1574円)、『Colors 生成(エクリュ)』秋田酒こまち100%使用のスタンダードクラスで、比較的手に入りやすい(720mLで税別1259円)、『亜麻猫(アマネコ)』焼酎造りで使われる白こうじを使って醸した意欲作。現在は生酛造りに(720mLで税別1389円)

また、2013年末からは一部の酒を金属製タンクではなく、あえて伝統的な木桶を使って醸している。杉の木由来の複雑な味わいをも表現するのが狙いだ。「昨今は雑味を排除し、華やかな香りを突出させた日本酒ばかりが評価されてきた。それは人間が感知できない音域をカットした音楽CDのようなもの。音楽も日本酒も、本来は人間の閾値(いきち)を超えた部分まで手間暇かけて作り込むのが理想。大手との同質化を避ける小さい酒蔵の戦い方でもある」(佐藤氏)。実際、新政酒造の製造量は以前の約3分の1になったが、普通酒を単価の高い純米酒に切り替えて新たな顧客を増やした結果、同水準の売り上げを保つ。

全国で蔵元ユニットが勃興

新政酒造の成功は、他の若手蔵も刺激している。その一つが、「白瀑(しらたき)」で知られる山本合名会社6代目の山本友文氏(45歳)が呼びかけ、2010年に結成された秋田の蔵元ユニット「NEXT5」。新政酒造を含めた5つの蔵が参加する。いずれも経営危機にひんした2000年代に蔵に戻った跡取りの集まりだ。

本来、酒造りの技術は門外不出。しかし、NEXT5の各蔵は惜しげもなく醸造技術をさらけ出し、毎年変わるホスト蔵で5人の蔵元が共同醸造を行う。その他、月1回の会合で話題の日本酒を飲み比べ、海外のワイナリーの視察にも出かけるなど、グループで日本酒の新たな方向性を模索している。

(写真左上)今年は新政酒造に5人の蔵元が集まった。写真はこうじ、蒸し米、水を加え、櫂棒ですり潰す工程(写真右)6作目となる「NEXT5 ENTER.SAKE」は、生酛造りに挑戦。国内は2000本限定ですでに完売(写真下)山本合名会社の「山本 ピュアブラック」。爽やかな酸味と切れの良さが特徴

この動きに触発され、2014年結成されたのが、宮城の7人の蔵元が集まって共同醸造を行う「DATE(ダテ)SEVEN」だ。1作目の「DATE SEVEN ─美酒なないろに輝いて─」は、伊藤大祐氏(36歳)率いる山和酒造店がホスト蔵。宮城の酒米「蔵の華」を33%まで磨き、独自の酵母で醸した。仕掛け人でもある、はせがわ酒店の長谷川浩一社長は、「すでに山口でも『東洋美人』の澄川酒造場を中心に『長州FIVE(仮称)』という蔵元ユニットが企画されており、こうした動きが2016年は全国に広がる」と話す。若手蔵元の自由な発想で技術交流が進み、日本酒はさらにおいしく進化しそうだ。

今年のホスト蔵は山和酒造店。注目が集まり、用意した4000本(一升瓶換算)は完売状態

(日経トレンディ編集部)

[日経トレンディ2015年11月号の記事を再構成]

[参考]日経トレンディ2015年11月号(10月4日発売)の巻頭特集は「47都道府県 ニッポンの旨いもの100」。そのほか、特集記事として「下克上!新時代『最強』のカード&ポイント」「Windows10 パソコン購入&快適設定術」などを掲載。

日経TRENDY(トレンディ)2015年11月号[雑誌]

著者:
出版:日経BP社
価格:600円(税込み)