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子どもが多忙な時代 伸ばすべきは「非学校的能力」

2015/10/23

日経DUAL

千葉大学教育学部教授・副学部長の藤川大祐さんによれば、今、子どもを取り巻く環境は「誰も体験したことがないような状況に突入している」そうです。そしてその結果、親に求められる能力や役割も変わってきています。親はどう対応していくべきなのか、お話を伺いました。

■ネット利用時間が増え、子どもは忙しさを感じている

―― 「情報化社会」という言葉自体はかなり前から使われていますが、ここ2、3年でスマートフォン(スマホ)やタブレットが急速に普及し、その様相も変わりつつあると思います。具体的にはどのような変化が起きていますか。

スマホやタブレットの普及によって、子どもたちの身の回りに何らかの情報端末がある状況が当たり前になってきました。自分用ではなくても、親のスマホを使って遊んでいるという子どもは多いと思います。

私は「平成25年問題」と呼んでいますが、この年にスマホが一気に普及しました。それに伴い、ネットいじめやネット犯罪の被害が急に増えましたね。情報化自体はなだらかに進行していることですが、子どもが巻き込まれる事件として顕在化してきたのがこの年なんです。

事件の増加だけでなく、問題となっているのが子どもの時間感覚の変化です。

子どもは情報端末を2つの娯楽に使います。ひとつは、ゲームなどの個人的なもの。もうひとつは友達とのメールなどソーシャルな娯楽です。ゲームは昔からありましたが、スマホ用のゲームは無料のものがほぼ無限にあります。以前であればお金を出して買わなければ遊べなかったのが、今では無料で無尽蔵に楽しめる。遊び尽くすということがなくなってしまったんです。友達とのメールも、どちらかがやめない限り延々と続いてしまいますね。

私たちが子どもの頃は時間が余っているのが普通でした。それがスマホの普及により、「子どもが退屈しない時代」という誰も体験したことがないような状況に突入しているんです。

子どもたちに対する調査で、小・中・高すべてにおいて半数以上が忙しさを感じている(ベネッセ総合研究所「第2回 放課後の生活時間調査」より)
メディアの使用時間の調査ではすべての対象においてテレビやDVDの鑑賞時間が減少し、携帯電話やスマートフォンの使用時間が特に中高生において大きく増加した(ベネッセ総合研究所「第2回 放課後の生活時間調査」より)

ベネッセによる「子どもの放課後の生活時間調査」のデータを見ると、この「子どもの多忙化」がはっきりと読み取れます。数年前に子どもの学力低下が問題になり、学習に力を入れる対策を行ったため勉強時間は微増、早寝早起きもしっかり定着していて睡眠時間も微増。しかしネットの使用時間は激増しています。つまり、今の子どもはもともとぼーっとしていた時間をネット利用に使っているんです。ぼーっとする時間がないことで、忙しさを感じる子どもが増えていますね。

■独自性のないネット体験では子どもは成長しない

―― 子どもが忙しさを感じることにはどんな問題点がありますか。

ネットを使った多忙化の問題は、その忙しさに見合うメリットがないことです。

それが子どもの成長につながるのであればともかく、ネットは基本的に誰でもできるゲームをして、誰でもできるコミュニケーションをするだけ。独自性のない時間の浪費になってしまうんです。

ネットもうまく使えば独自の体験ができますが、それができる子どもは残念ながら例外的。現在、大半の子どもにとってネット利用は「コモディティー」、つまり既に普及してしまった誰でもできる体験にしかなりません。その中でネットばかりをやっていても、その経験は誰からも評価されないということになってしまいます。

―― そうならないために、親がすべきことはありますか。

そこで重要になってくるのがネットではない「体験」なんです。「どうやって子ども時代ならではの体験をさせてあげるか?」を考えることが、これからの親の役割ではないでしょうか。そこには各家庭の環境の差、教育力の差が如実に表れてきます。

現在、忙しい家庭では「メディアに子守りをさせる」という状況に陥っています。つまり、誰でもできる電子的な体験しかさせてあげられないという状況です。こうして育った子どもは勉強はそこそこできたとしても、暇な時はずっとスマホで遊び続けた結果、将来に社会で活躍するためのスキルを身につけられず、やりたいことも見つけられないということになりかねません。

裏を返せば、親が教育に時間をかけることができれば子どもはネットから離れられるということでもあります。たとえばこれからの時期であれば、父親とキャンプやスポーツをするのもいいかもしれません。そうした楽しみがあれば、子どもはネットをする必要がなくなるんです。

これは週末のおでかけや平日の習い事にも言えることです。特に習い事は子どものうちにやっておけば将来の財産になることも多い。ちょっとイラストが描けるとか物語が考えられるとか、ネットの発達によってそういう人がつながりやすくなっていますし。何かできるということは子どもの世界を大きく広げると思います。それに今はマイナーな趣味でも、ネットの発達で仲間を見つけやすくなっていますよね。むしろ人ができないことをできるほうが、これから求められる機会に恵まれると思います。

■子どもが体験できる場を見つけるのが親の役割

―― 昔は「親がなくても子は育つ」と言ったように、地域が子どもを育ててくれていたところがありましたが、それは現在ではもうないということですか。

それは子どもたちが集団で遊んでいた時代の話ですね。集団の中にいれば、リーダー、まとめ役、ムードメーカーなどの役割分担が自然に生まれ、その中で得られた経験がその子独自のものになった。しかしネットの場合はひとりで部屋でやるため、そういった役割が生まれることはありません。

加えて、地域性がないというのもネットの問題点でしょうか。農業の盛んな地域であれば自然に関心が出てくることもあるだろうし、地域の独自性というのがどの場所にも必ずある。しかし、ネットはどこにいてもアクセスするのは同じ画面の中。独自性が一切ないんです。

元気に外で遊ばせておくだけで、自分から経験を見つけてこられる時代もありました。しかし今では親がちゃんとサポートしてあげないと、子どもはチャンスを逃してしまうことになります。

この傾向は今後も進んでいくでしょう。情報化も進行しますし、地域のつながりもどんどん希薄になっていくと思います。治安が悪くなり、大人が子どもを見ていない社会になっていく。そうならないためには大人がある程度場所を作ってあげないといけない。学校以外の場所で、子どもたちが自分たちだけで大人数集まることはまずできないですから。

私たちも千葉市と共同で「西千葉子ども起業塾」という子どものための無料で参加できるプロジェクトを実施しています。「西千葉子ども起業塾」は子どもたちが実際に会社を立ち上げて、自分たちで考えながら大人たちと協力し、地域の活性化を目指すもの。半年にわたって月に1度、子どもたちが千葉大学に通ってくる形式で、擬似通貨ですがお金を使ってビジネスとして成功させることも目指しています。

藤川教授が担当する「西千葉子ども起業塾」の様子。子どもたちと一緒に仕事をするのは、千葉市に実際にある会社で働く社会人だ

これまでには西千葉で開催している「第三土曜市」という市場を盛り上げるため、フィールドワークを通じて自分たちで「会場付近が暑い」「寂しい」などの問題を発見。解決するためにうちわに広告を載せて配布する会社、打ち水の発想をもとに水鉄砲で射的を行う会社、集客をねらいサッカーボウリングを行う会社を立ちあげました。

昨年度からはJFEスチールという鉄鋼会社の見学会をサポートする仕事をしてもらっています。ロール状で出てくる鉄鋼をバームクーヘンに見立てて、「鉄鋼バーム」というオリジナルのお土産を実際のお菓子屋さんに発注するんです。子どもに本物の社長がアドバイスをしたり、独自の体験ができるものだと思いますね。「西千葉子ども起業塾」に限らず、社会にはこうした子どもの成長を促す機会がたくさんあるはずですよ。

■学校以外の場所で子どもの個性は伸びる

―― 子どもに体験させてあげたくても、忙しくてなかなか手がまわらないことに悩む親が多くいます。

時間やお金をかけなくても、子どもに体験させてあげられるイベントはたくさん見つけられると思います。大切なのはアンテナを張り続けることでしょうか。今では町内会のイベントなどはホームページにまとめられていることも多いですし、それを見るだけなら手間をかけずにできますよね。それこそネットをうまく使うことで、簡単に情報収集ができるはずです。

また、子どもに体験をさせてあげることのメリットとして「学校以外の場ができる」ということも挙げられます。学校ではうまくやれなくても、別のコミュニティでは活躍できるというケースは多いはず。

今は「社会が学校化している」ともいわれ、価値観がどんどん画一化しています。そういう中で親ができることは子どもの「非学校的能力」を見つけて、伸ばしてあげること。子どもが元気に過ごせる場所を見つけることは、個性を見つけてあげることでもあります。そしてその体験がネットより楽しいものになれば、ネットは時間を消費するものではなく情報を見つけるための有効なツールになっていくはずです。

親に求められているのは子どもの生活時間をプロデュースする力です。放っておいたら子どもは自由な時間をネットに使って終わってしまう。そうならないために、親の方で時間をしっかりと区切ってプロデュースしてあげる。そしてどんな体験をさせてあげるか考えるのが、これからの親の役割だと思います。

藤川大祐
千葉大学教育学部教授・副学部長。メディアリテラシー、ディベート、環境、数学、アーティストとの連携授業、企業との連携授業等、様々な分野の新しい授業づくりに取り組む。著書に『スマホ・パソコン・SNS よく知ってネットを使おう! こどもあんぜん図鑑』(講談社・監修)、『12歳からのスマホのマナー入門』(大空出版)、『本当に怖い「ケータイ依存」から我が子を救う「親と子のルール」』(主婦の友社)など

(ライター かみゆ)

[日経DUAL 2015年8月31日付の記事を再構成]

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