旅行・レジャー

大ナゴヤを行く

愛知・小牧市、TSUTAYA図書館に「ノー」3万票 ぬぐえぬ不安、深まらぬ議論

2015/10/9

 戦国時代「小牧・長久手の戦い」の舞台となった愛知県小牧市が今、新図書館計画に揺れている。建設の是非を問う住民投票の結果、反対が多数となった。42億円かけ駅前に新図書館をつくり、TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)などへ運営委託する市の計画は見直しが避けられない情勢だ。全国でCCCが運営する図書館を巡り騒動が頻発。小牧市の住民もCCCへの不安がぬぐえなかった。

■「一度立ち止まって考える」

小牧市は駅前に新図書館を建設する計画を進めてきた

 住民投票の開票を終えた5日午前0時、開票場所であるパークアリーナ小牧の会議室。住民投票でCCC図書館に「NO」を突きつけられた山下史守朗市長が、姿を見せた。

 「市長として真摯に受け止めたい。一度立ち止まって現在の計画について具体的にどこがどう問題なのか、今後、職員のみならず市民をまじえて丁寧に検証しなければならない」

 その少し前、ロビーに集まった記者団に対し、住民投票を求めてきた市民団体の共同代表、渡辺育代さん(65)は安堵の笑みをうかべた。「私たちの望んだ結果だ。市長は市民の声を聞いてきたと言ってきたが、これで市民の意見を聞かずに作った計画だということが明確になった」

■カフェ・書店の併設が裏目

 名古屋駅から名鉄電車などを乗り継いで40分。小牧市は人口15万人で、名古屋のベッドタウンとして知られる。名鉄小牧駅前に降り立つと、外食店や小売店は少なく、空き地や駐車場も目立つ。

 小牧駅前をどう開発するかは市政にとって長らく懸案になっていた。その中で山下市長は駅前に老朽化した図書館を移転新築するプランを計画した。42億円かけて現在駐車場になっている土地に、延べ床面積で現在の2.6倍、蔵書数で最大50万冊の新図書館を建設する青写真を描いた。

 しかも作るのは普通の図書館ではない。目指したのは若者を呼び込む新しい文化拠点だった。指定管理者にCCCを選び、2013年にオープンし話題となった佐賀県武雄市と同様、スターバックスなどのカフェや最新の雑誌が並ぶブックショップの併設を予定した。

小牧市は駅前に新図書館を建設する計画を進めてきた

 それが裏目に出た。市民団体らが「ツタヤ図書館は不要だ」として、計画を白紙にする住民投票条例を求める署名活動に5700人超が集まった。小牧市の規模で条例制定の直接請求ができる人数は最低2362人。図書館を巡る署名はその倍以上に達した。

■市の説明は実らず

 「これはすごい数だ」。危機感を抱いたのは選挙を直前に控えた市議会議員らだった。署名と共に提出された条例案は不備があるとして否決したものの、議員らは対案となる条例を提出。最終的に4日に住民投票を実施する条例が賛成多数で可決された。結果に法的拘束力はないが、条例で市長は住民投票の結果を尊重しなければならないとした。

 市側は住民投票を前に市内各所で住民説明会を開催した。1日に配布した「広報こまき」でも3ページにわたって現在の建設計画を詳しく説明した。新施設は「これまで図書館に親しみがなかった人々をもひきつけ、時代のニーズに合った魅力ある図書館にします」と強調した。

 一方の市民団体。住民投票を前に「派手で見栄えのいいツタヤの図書館はいりません」とスピーカーを付けた車を市内に走らせ、反対票を投じるよう呼びかけた。

■見直しの行方は

 住民投票から一夜明けた5日、開館から37年たった現在の図書館にも、いつものように利用者が訪れた。住民投票に反対を投じた男性(74)は「新図書館は費用がかかりすぎる。何より(CCCの選書問題を扱った)週刊誌の報道を見て、ツタヤに図書館を任せるわけにはいかないと思った」と語る。一方で賛成票を投じた女性(27)は「新図書館に期待していた。今の図書館は本が少ないし座れるところもあまりない。新図書館で小牧の街が盛り上がればいいと思っていたのに……」と残念がる。

■行政手法に批判も

新図書館が建つ駅前の予定地は駐車場に使われている(小牧市)

 今回の住民投票は、現在の計画に賛成、反対の二者択一方式をとった。建設コストなのか、CCCの運営方法なのか――。反対票が上回ったとはいえ、実はその理由は分かっていない。事実、山下市長は記者会見で「(建設に必要な)金額の問題、民間連携のあり方、デザイン、様々な観点で反対意見があった」と強調。その上で「今回の結果をうけて、即、ツタヤ図書館が否定されたというわけでもない」とも付け加えた。

 市は今後、市民が新計画のどこに不満を抱いているのかを丁寧に分析する必要がある。市政に詳しい関係者の間では「市長の行政手法に対して強引ではないかという疑問はかねて高まっていた」との指摘もある。どこまで客観的な分析が可能かは大きな課題といえる。

 愛知県小牧市の新図書館建設を巡る住民投票 5日未明にまとまった投票結果では、賛成2万4981票、反対3万2352票となり、反対が賛成を上回った。当日の有権者は20歳以上の11万6624人。投票率は50.38%だった。結果に法的拘束力はないが、条例で市長は住民投票の結果を尊重しなければならないとする。

 愛知県小牧市だけではなく、CCCの図書館管理に対する疑問は全国で起きている。佐賀県武雄市の図書館では10年以上前の資格本や関東地方のグルメ本などが選書されており、不適切との批判が出た。施設内の高い書棚が使いにくく、バリアフリー上問題といった声も地元では強い。1日にCCC管理の図書館としてオープンした海老名市の施設も選書の問題が生じていた。

 CCCは「武雄市や海老名市の図書館について、指摘は真摯に受け止め、丁寧に対応したい」と語る。一方で今回の小牧市の住民投票については「市民の意見を聞く機会として前向きに捉えている。よりよい図書館、よりローコストの図書館について機会があれば提案したい」としている。

 教育分野などの公共政策が専門の慶応大の中室牧子准教授は「図書館の建設などにかかる費用が高すぎるということと、民間に委託して市民のニーズにあった図書館経営ができるのかは、切り離して考える必要がある」と語る。

 その上で「民間の経営や技術を取り入れつつサービスの向上を図ろうという精神自体は間違いではない。しかし、五輪のエンブレムの問題と同様、事業者や蔵書の選定にあたって、公平性や透明性が十分に確保されるのかは十分検証が必要だ。これからは市民への説明責任が果たされるような体制にしていくことが求められる」と指摘している。

 (名古屋支社 松尾洋平)

ALL CHANNEL