看護師さん、復職して! 在宅ケアに活躍の場週20時間勤務の正社員も

お年寄りが住み慣れた自宅で介護や医療を受ける在宅ケア。その一翼を担う訪問看護師は需要の急増に追いつかず、人手不足が深刻だ。事態の打開に向けて期待されるのが、資格を持ちながら育児などで職を離れた「潜在看護師」。全国で71万人いるこの潜在看護師を宝の山と位置づけ、育児などと両立しやすい働き方を提案し、復職につなげる動きが出てきた。

介護大手のセントケア・ホールディングが8月に設立した訪問看護サービスを運営する新会社「ちいき・ケア」(東京・中央)。雇用する看護師を全員正社員とし、短時間勤務制度を導入する。週5日、1日4時間といった週20時間の働き方から認める。3歳未満の子どもがいる場合は保育手当が出る。東京都練馬区内に12月開く、ちいき・ケアにとって初の訪問看護ステーションで募集中だ。

結婚や出産で資格を持ちながら現場を離れている、ママをはじめとした潜在看護師がターゲットだ。保健師などを含めた全体の募集人員は12人。短時間しか働けないが、復職や転職したいという問い合わせが相次いでいる。

「正社員として雇用を安定させ、短時間とはいえ質の高い在宅ケアをしてもらう。子育てなど豊富な人生経験を、お年寄りとの接し方に役立ててほしい」。練馬のステーションで中核メンバーとなる看護師の松本幸子さん(32)は期待する。

看護師が在宅のお年寄りなどを訪ね、病状の観察や床ずれの手当て、点滴・注射といった医療処置、身体介助まで手がける訪問看護。2000年の介護保険導入で、専門事業所の訪問看護ステーションが各地で相次ぎ設立されてきた。ステーションは14年4月現在、全国で約7400カ所あり、看護師、准看護師など看護職員は4万1000人ほどいる。ただ、今後は高齢者の増加に伴い在宅ケアの需要が劇的に増えるとみられ、25年には15万人もの看護職員が必要との試算もある。

介護・医療業界は人手不足が続く。どう人材を確保するか。各ステーションが注目するのが、厚生労働省の調べで全国に71万人いる、病院などで働いていたが育児などで仕事を辞めた潜在看護師だ。

東京都葛飾区にある「訪問看護ステーションはーと」では、常勤・パートを含めた看護師17人のうち、4人が復職組。運営会社社長の木戸恵子さんは「そばに医師がいる病院と異なり、訪問看護では一人で判断しなければならない」と指摘する。一度辞めた人はブランクがあるため「最新医療の知識が足りないなどの不安が強い。この不安感を取り除く必要がある」(木戸さん)。

このため、再就職の第一歩は、お年寄りの健康や生活相談に乗ることから始めてもらう。はーとが同区内に構える終末期の患者の支援施設内にある相談コーナーに詰めて、患者やその家族と触れ合う。看護師として助言しながら、医療のカンを取り戻す。その後患者のケアをして病気の特性を知り、今の医療処置や患者との触れ合い方を身につける。はーとでは復職組に対し、こんな緩やかな仕事復帰の仕方を提案している。

1年半前に復職した時田真弓さん(43)。3歳の子どもがいるため、週2日、午前9時から午後5時までのパート勤務だが「相談コーナーのほか、看護の勉強会も定期的にあり、やる気を引き出してくれる」という。働き続け、いずれ常勤に戻るつもりだ。

潜在看護師の復職への意欲は高い。厚労省の看護職員への調査では、仕事を辞めた3004人中、4割弱は再び同じ仕事に就きたいと答えた。理由には「収入を得る必要が生じた」「知識や技術を生かしたい」などが挙がった。

日本看護協会(東京・渋谷)は、こうした意欲のある人から新卒、病院勤務の看護師までを対象に、訪問看護の仕事を2日間で理解してもらう研修プログラムを開発した。11月から全国のステーションにプログラムの冊子を配布する。今までも研修はあったが長期間だったため、ハードルを低くしたという。

協会常任理事の斎藤訓子さんは話す。「介護は今後、特別養護老人ホームなどの施設から在宅にシフトする。訪問看護師の活躍の舞台は広がるばかり。幅広く人材を集めたい」。再就職を狙う潜在看護師にとって、復職の舞台は多く用意されていそうだ。

納得のいく看護、起業で

潜在看護師が訪問看護を志し、復職する道は訪問看護ステーションに就職するだけではない。起業という道もある。

プラバナースのオフィスに併設するエステサロン(熊本市)

キャリア豊富な看護師が熊本市内で2010年10月、起業したプラバナース。看護の事業会社として、訪問看護にアロマテラピーと呼ばれる芳香療法や、エステティック美容を導入した。大学病院の看護師として12年のキャリアを持つ松尾富美さん(35)が設立した。

病院退職後、医療とは別の仕事をしていたが「患者に安心・癒やしを提供したい。そんな納得のいく看護をしたいという思いが募り起業した」。

松尾さんを支える中核メンバーは2人いるが、いずれも病院勤務10年ほどの看護師。看護は介護保険や健康保険の適用外サービス。利用料は全額自費で1時間9800円だが、富裕層から人気を得ているという。

会社オフィスにはエステサロンがあり、美容に興味を持ったお年寄りが訪れるなど、地域での認知度は確実に高まっている。

(保田井建)

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