安易な節税策で狂った設計 遺産分割を後悔弁護士 遠藤英嗣

相続税をうまく節税できたとしても、それを後々、後悔することになる場合があります。安易な節税策によって、その後のマネープランが狂ってしまったケースを紹介しましょう。

今年2月、Bさん(46、女性)の父親Dさんが亡くなり、相続人である母親AさんとBさんは、父親の残した預金はすべて母親Aさんがもらうという内容の遺産分割協議をしました。相続税には配偶者控除があり、母親Aさんが法定相続分である2分の1を超える金額を相続したとしても、1億6000万円までは相続税が非課税になるからです。

母親Aさんは「本当はBにも半分の権利があるのだから、遺産のうち半分は使っていいよ」と言い、Bさんの生活費の一部や、高校生の息子の学費などの大きなお金は父親が残した遺産から出していました。ところが、もともと認知症を発症していた母親Aさんは、夫を亡くした直後から症状が悪化し、その後、成年後見人が選任されることになったのです。

「母親の財産を使い込んでいる」

相続税節税だけに流れると後々、後悔することも

「あなたのところはぜいたくしていませんか」。母親Aさんの成年後見人となった法律専門職の方が、最初に言った言葉はこれでした。Bさんは、一瞬何のことかわからず、戸惑いました。

続けて後見人から、「家計簿を見せてください」と言われ、「やぶから棒に何を言うのか」と怒りを覚えました。しかし、相手は家庭裁判所が選任した法的資格のある人物。素直に家計簿の提出に応じました。

すると、次に言われた言葉はこうでした。「あなた方親子(Bさんとその息子)は、母親Aさんのお金で、高級レストランで豪勢な食事をし、しかも高級温泉ホテルで豪遊しているではありませんか。それに、あなたの息子さんの入学金は全部、母親Aさんの預金から出していますね。この時期には、後見の申し立てをしていたわけですから、Aさんは認知症が進んで判断能力はなかったでしょう。なぜ、人のお金を使っているのですか。返してもらいます」

Bさんは、反論しようかと思いましたが、母親名義のお金を使ったことは事実です。「私たち親子が使った分のお金は割賦でお返しします」と、返事せざるを得ませんでした。そもそも、Bさんはどこで間違ってしまったのでしょうか。話をもう一度、振り返ってみましょう。

遺産分割を悔悟

父親が亡くなり、相続人の母親Aさんと長女Bさんは、相続財産である不動産(約3億円の自宅の土地・建物)と預貯金などの金融資産5000万円について、遺産分割協議をしました。遺言はありませんでした。

その際、税理士の話を聞き、「小規模宅地の特例」と「配偶者控除」の枠を最大限活用することにしました。「小規模宅地の特例」とは、相続した家に同居しているなどの一定の条件を満たせば、相続財産(宅地)の評価額が8割減額される制度です。

さらに、Bさんと母親Aさんは将来の相続のことも考え、相続税の額を最小限におさえるため、不動産は2分の1ずつの共有にし、金融資産については冒頭で紹介した約束のもと母親Aさんの名義にしました。

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