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どうして人は、訳の分からない夢を見るのか

2015/10/5

日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

聞きたかったけど、聞けなかった。知ってるようで、知らなかった。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。

いい夢を見てうれしくなったり、悪い夢を見て怖くなったり、意味不明なヘンテコな夢を見て自分の頭の中はどうなっているのかと思ったり……。あなたも夢の内容に一喜一憂することがあるのではないだろうか。夢は、眠っているときに頭の中で繰り広げられる、自分だけの上映会のようなもの。そもそも、夢とは何なのだろうか。

■記憶をランダムにつなぎ合わせて夢になる

答えは、ずばり「記憶」の集まり。これまでに見聞きしたことや経験したことがいくつもつなぎ合わさって、夢になるのだという。日本睡眠学会理事で江戸川大学社会学部人間心理学科教授の福田一彦さんはこう説明する。

「脳にしまわれている過去の記憶の中からたまたま表れ出てきたものが結びつき、ストーリー化されて夢となる。数ある記憶の中からどれが掘り起こされるかは、その時々の精神状態やストレスなどの影響を受けることもありますが、ほとんどの場合はランダムです。昨日の記憶と5年前の記憶が突然結びつくことだってあります」

もともと脳は物事を秩序づけて理解する傾向があるという。何の関連性もないような記憶が浮上してきても、それらを適当に結び合わせて、つじつま合わせをするのだ。その結果、夢のストーリーが作られる。「だから、好きでもない人と手をつないで歩いているなどという、訳のわからないストーリーが生まれたりもする。ですから、夢の内容を気にしたり、意味づけをしたりして、一喜一憂する必要はないのです」と福田さん。

■長期間、繰り返し見る悪夢にはご用心

ただ、そうは言っても怖い夢や嫌な夢を見ると、誰だって気がめいる。悪夢も気にしなくていいのだろうか。福田さんはこう言う。

「何かに追いかけられたり、襲われそうになったりして夢の中で怖い思いをするのは、決して珍しいことではありません。実は、夢の内容は基本的に悪夢が多いのです。夢を見ているときは、情動に関わる脳の扁桃(へんとう)体という部位が興奮しています。この扁桃体は、喜びなどのポジティブな刺激でも興奮しますが、やはり圧倒的に多いのは不安や恐怖などのネガティブな刺激による興奮。その強烈な情動体験によって生まれる夢が、まさに悪夢なのです」

福田さんによると、そもそも夢の内容にかかわらず、夢を多く見ること自体、あまり健康的な眠りではないことの表れだという。夢は目が覚めたときに「見ていた」とわかるもの。夢を多く見るということは、それだけ中途覚醒が多いということでもあるのだ。そして、夢の回数が増えれば、悪夢を見る確率もおのずと高くなる。

悪夢の多くは、全く問題のない“普通の悪夢”だが、なかには背後に心の問題が潜んでいるものもあるそうだ。普通の悪夢とは、例えば何かに追いかけられて怖い思いをするが、追いかけてくる対象はある時はお化けだったり、怪物だったりと常に変化する。

ところが、精神的な問題がベースにある悪夢では、同じ内容の夢を繰り返し見てしまうことがある。この場合は、災害や戦争などの過酷な体験の後に起こる「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」のことも。トラウマ(心の傷)となった場面が睡眠中にもフラッシュバックして、悪夢となってしまうのだ。

「また、悪夢を長期間、頻繁に見ている人は、孤独で抑うつ傾向が強かったり、自殺を考える傾向があったりすることも明らかになってきました。心当たりのある人は一度、精神科や心療内科で診てもらうといいでしょう」と福田さんは助言する。

■レム睡眠では眼球が動き、夢を“見て”いる

寝ている人を起こすと、必ず「ああ、今、夢を見ていた」と答えるタイミングがある。まぶたを閉じて眠っているのに、眼球が上下左右に忙しく動いているときだ。この急速眼球運動(Rapid Eye Movement=REM)を伴う睡眠を「レム(REM)睡眠」と呼ぶ。睡眠は、このレム睡眠と、急速眼球運動を伴わない「ノンレム睡眠」の大きく2つの状態に分けられる。どちらの状態でも夢は見るが、鮮明でストーリー性や動きのある複雑な夢を見るのは、レム睡眠中といわれる。一方、ノンレム睡眠時に見る夢は、ストーリー性のない静止画像のようなものが多いとされる。

では、なぜ鮮明でストーリー性のある夢を見ているとき、眼球が動いているのだろうか。なんと、これは夢の中で何かを「見ている」からだという。国立研究開発法人 情報通信研究機構研究員の宮内哲さんは、脳内の血流変化を計測することで脳の活動状態を調べるf MRI(機能的磁気共鳴画像法)と脳波などを同時に使い、夢を見ている最中の脳活動を調べた。

「レム睡眠中は暗い中で目を閉じて眠っているにもかかわらず、眼球運動に伴って脳の視覚野(視覚に関する領域)が活動していることが分かりました。明るい場所で覚醒して何かを見ているときと同じような脳活動が、眠っているときにも認められたのです。つまり、レム睡眠中には夢の中の像を目で追っていると考えられます」(宮内さん)

■脳の中でリアルな映像を“上映”している!

下の画像は、レム睡眠中に眼球が急速に動いているときと、覚醒時に暗闇で目を動かしているときの脳活動を示したもの。レム睡眠時には後頭部にある視覚野が活動しているが、暗闇で目を開けて眼球を動かしても視覚野は活動していない。どちらも暗い中で目を動かしているのは同じなのだが、レム睡眠中の方は視覚野が盛んに働き、まさに夢を「見ている」状態なのだ。

夢を見ているときは脳の視覚野が活動する

「網膜から入ってきた視覚情報が最初に到達する領域を第一次視覚野といいますが、レム睡眠中は13人の被験者全員で、この部位の活動が見られました。夢を見ているとき、私たちの脳は自発的にリアルな画像を作り、それを目で追って見ている。夢はまさに自分自身が作る究極のバーチャルリアリティーといえるわけです。自分の脳がどんなリアルな映像を作り出すか、どんな展開になるのか……。私自身はこのバーチャルリアリティーを見るのを楽しみにしています」と宮内さんは話す。

夢は、記憶の断片を材料にして自分自身の脳が紡ぐリアルな物語。なぜ、何のためにそんなことが起こるのかは不明だが、なんとも奥深い脳の働きではないか。さて、今夜はどんな夢を見るだろうか(悪夢でないことを祈りつつ……)。

(佐田 節子=ライター)

Profile 福田一彦(ふくだ かずひこ)
江戸川大学社会学部人間心理学科教授
早稲田大学第一文学部卒業。同大文学研究科博士課程満期退学。医学博士。福島大学教育学部教授などを経て、2010年から現職。専門は精神生理学、睡眠学。日本睡眠学会理事、日本睡眠改善協議会理事なども務める。著書に『「金縛り」の謎を解く』(PHPサイエンス・ワールド新書)、『応用講座 睡眠改善学』(ゆまに書房)(監修)など。
Profile 宮内哲(みやうち さとる)
国立研究開発法人情報通信研究機構研究員
早稲田大学第一文学部卒業。同大文学研究科博士課程満期退学。医学博士。fMRI、脳磁波、脳波などによる脳機能計測に関する研究開発に従事。米ブラウン大学客員研究員、岡崎国立共同研究機構生理学研究所高次神経性調節部門助手、郵政省通信総合研究所主任研究官、情報通信研究機構主任研究員などを経て現職。

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