しまなみ海道を巡るサイクリング 施設・サービス充実
瀬戸内海に点々と浮かぶ島を眺めながら海沿いを走り抜ける爽快感。豊かな食、そして整備されたインフラ――。しまなみ海道の魅力はつきない。
尾道~今治間70キロメートルのルートは全行程、車道の左側に青い線が引かれている。「ブルーライン」と呼ばれ、これとサイクリスト向けの標識に沿って走れば、地図がなくても迷うことはない。同ルートは尾道駅の観光案内所や今治の「サンライズ糸山」など、自転車の旅をサポートする主要拠点で無料配布される「瀬戸内しまなみ海道サイクリングマップ」でも推奨されている。
自転車に優しいインフラは書ききれないほど。たとえばJR尾道駅の駅舎横には、分解して折りたたみ、袋に入れて持ってきた自転車を組み立てられる専用スペースが確保されている。
同駅前のグリーンヒルホテル尾道には、ヤマト運輸が期間限定で手荷物預かり所を開設。コインロッカーに入らないスーツケースなどの大きな荷物を1泊以上でも預かってくれる。ここに荷物を預けて貸自転車を使い、気軽に遊ぶこともできる。分解した自転車を入れた段ボール箱をここ宛てに送り、身軽に尾道にやって来る旅慣れたサイクリストも。自転車を取り出したら空の段ボール箱を預け、走り終えたら再び分解・梱包して発送するそうだ。
尾道駅から自転車で走り出す場合、尾道大橋の走行が危険であるため、渡船で向島に渡ってから今治方面に向かう。今治側から走りたければ、尾道駅と今治駅を結ぶ高速乗り合いバス「しまなみサイクルエクスプレス」が便利だ。車内に予約制の自転車置き場を備え、ロードバイクなどのスポーツ自転車なら前輪を外すだけで簡単に載せてもらえる。もちろん折りたたんで袋に入れた自転車もOK。向島、因島、生口島などのバス停で途中下車もできる。時間の節約にもなるため、とくにリピーターが上手に使っている。
各島を結ぶ渡船は10~300円の追加料金で因島、生口島などに自転車をそのまま載せて渡ることもできる。外国人観光客や、観光のついでにママチャリで島巡りをする若者に人気だ。たとえば尾道港で自転車を借りて生口島まで船で渡り、耕三寺などの史跡やジェラートの人気店など周辺のスポットを観光。再び船で尾道に帰るといった楽しみ方もできる。
自転車が故障した場合は、地元のショップが助言してくれたり、自転車を積むキャリアを備えたタクシーを呼べたりするサービス「しまなみ島走レスキュー」がある。今治側では出張修理をしてくれる「しまなみサイクルセーバー」や、自転車用のタイヤチューブを販売する自動販売機まで存在する。まさに自転車天国だ。
尾道観光協会の石原尚味さんは「6年前にブルーラインが整備されてから自転車利用者が年々伸びた。近年は海外からの来客も増えている」と話す。自分の自転車をそのまま部屋に持ち込めるホテルや地元産の食が充実したレストラン、カフェ、雑貨店、サイクルショップなどがある複合施設「ONOMICHI U2」も昨年開業。一人旅の女性や、貸自転車やガイドツアーを活用して楽しむ人が目立つようになったという。
海道沿いではコンビニや商店の前にサイクルスタンドがあるのは当たり前。「しまなみサイクルオアシス」ののぼりを見かけたら、ぜひ立ち寄ってほしい。空気入れが置いてあったり、給水したりできるほか、地元の人々と気軽に会話を楽しめる。周辺の食事どころを聞いたり、旬の食材や穴場的な見どころなどを教えてもらったりして、旅の奥行きを広げよう。
雄大な景色を見ながら走るのはもちろん、瀬戸内海特有の海の幸や、これから旬を迎えるかんきつ類を手ごろな価格で食べられるのもしまなみ海道の魅力だ。全行程を1日で走り切るのもいいが、できれば寄り道をしながらおいしい食を楽しみ、途中の島や尾道、今治で泊まり、走った後の酒まで欲張って楽しもう。食欲の秋、スポーツの秋なのだから。
(自転車ライター 山本修二)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。