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ふるさと納税、際立つ九州の集金力 壁超える官と民

2015/10/12

ふるさと納税の2014年度寄付額のトップ5に九州の自治体が3つ入った(ふるさとチョイス調べ)。長崎県平戸市が1位、佐賀県玄海町が2位、宮崎県綾町が4位だ。寄付額を左右する一次産品の返礼品が充実しているからか。九州の人はみな「九州は魚がうまい」という。しかし、東京人から見れば富山も新潟も北海道も魚はうまい。肉も野菜も地方はどこもおいしい。そんなことでは差がつかないことを先進自治体は理解している。ではなぜ九州の自治体が強いのか。そこには役所や県の壁を軽々と越えた若手公務員のネットワークと、中身だけの勝負ではないと自覚し、差別化を考え抜く事業者の覚醒があった。

7月3日、平戸市で開かれたふるさと納税九州サミット。壇上に平戸市企画財政課の黒瀬啓介氏(34)、玄海町産業振興課の井上俊一氏(30)、綾町総務税政課の小崎将司氏(27)が並んだ。コーディネーターの保田隆明氏(現・神戸大大学院准教授)が寄付額を伸ばす秘訣を尋ねると、若い3人の公務員は「ほかの自治体と同じことをしない」「徹底的な寄付者目線を貫く」「町自体を売り込むこと」と答えた。

ふるさと納税の「若手公務員3人衆」。綾町の小崎氏(左)、玄海町の井上氏(中)、平戸市の黒瀬氏(右)

平戸市は有効期限のない、いつでも使えるポイント付与で寄付額を伸ばした。玄海町は高額寄付者に毎月送る定期便と5000円のお試しプランが特徴。綾町は有機野菜のリピーターが多く寄付件数トップ。会場は自治体のふるさと納税担当者で埋まり、ノウハウを聞きだそうと質問が相次いだ。保田氏は「ふるさと納税は完全にビジネス。若い人が活躍するのはアイデアが重要だから」と指摘する。

3人は1年以上前から何度も集まり、情報交換している。「一緒に勉強会をしませんか」と声をかけたのは、当時ランク外だった平戸の黒瀬氏だった。もちろん各自治体はライバル。博多で会うまではぎくしゃくしたが、最初から売り上げの数字をさらけ出し、腰が重い事業者への不満をぶちまけ、ふるさと納税のあるべき姿を語り合った。すぐに意気投合し、その後も自腹で博多や熊本に集合、会議室を借り、売れ筋の商品や新しい企画案について意見を戦わせている。黒瀬氏は寄付額日本一の原動力になったポイント制についても2人に相談している。

ふるさと納税は返礼の商品企画から差別化することが重要だ。最終消費者に直販したことがない事業者をその気にさせるには、役所の中にいても仕事にならず、どんどん事業者に分け入らなければならない。従来の役所での仕事の進め方や役所内の人脈はあまり役に立たない。県や総務省も同じように当てにできない。しかも税政課や財政課の本来業務があり、彼らは孤軍奮闘していた。「同じ目線に立った人が何人もいる」。同志は県を越えて最も信頼に足るビジネスパートナーだった。

横のつながりだけではない。自分の町に深く入り込む行動力が要る。黒瀬氏は入庁後、広報担当が長かった。その頃から音響照明会社の先輩について、プライベートで町のイベントの裏方にまわり、生産者とつきあいを広げ、人脈を築いていった。今も町で何が起こっているか、交流サイト(SNS)などでアンテナを張り巡らす。

タイのひれを広げる民宿「要太郎」の溝上氏(佐賀県玄海町)

平戸市のふるさと納税カタログの1番最後に大きく紹介されているのは1次産品ではない。地元のベンチャー企業が開発した自転車型の電動バイクだ。これも黒瀬氏が情報をキャッチ、「カタログに載せましょう」と説得した。47万円以上寄付しないと注文できないポイント数(20万5000ポイント)が必要だが、昨年は17台注文が入ったという。

公務員の熱意が事業者もその気にさせる。「焼きタイを作りませんか」と玄海町の井上氏が昨秋訪れたのは民宿、要太郎を経営する溝上孝利氏。溝上氏は「ガスで焼いてもつまらない」と考えに考え、ドラム缶を半分に割った炉を考案、蓋をして炭火の遠火で1時間、大きなタイを蒸し焼きにする。子供の節句や高齢者のお祝いに使われることが多いため、串で刺して形を整えるだけでなく、ステンレスの針金で尾びれや背びれをしっかり開く。のしや手作りの箸袋をつけ、タイだけでは物足りないと季節の果物やジャムなど1品を加える。

毎朝いけすから魚を出荷する渡辺水産(佐賀県玄海町)

渡辺水産(玄海町)の渡辺美保子社長は、ハマチやタイを入れる大きな発泡スチロールの箱に高級感を出そうと、数カ月かけて箱を包む紙の業者を大阪で探し当てた。自社でデザインした、のしを印刷する会社は唐津市で見つけ、高級紙で指を切らないよう箱よりやや小さくする徹底ぶり。朝、いけすから上げた魚を2日以内に届け、品質には自信を持つ。だが、それだけでは勝てないこともわかっている。一枚一枚自筆の礼状は「文面が長すぎると良くない」とあっさり。

一方、肉や野菜の返礼品を送るひらど新鮮市場(平戸市)が商品につける礼状は、生産者一人ひとりの声を写真付きで詳細に書いたA3判。ナスやシイタケなど育てたものへのこだわりを伝えている。高額寄付者は富裕層が多いため、横のつながりが強く、テレビなどの紹介より、口コミなどの影響が大きいという。礼状のスタイルに答えはない。ただ、やっつけ仕事の礼状は見抜かれる。

すき焼きセットを詰める、ひらど新鮮市場(長崎県平戸市)

綾町役場の隣にある、綾手づくりほんものセンターの梶山剛店長は、単なる返礼品ではなく、綾町全体を紹介する動画を作ろうとしている。自身のネットワークを総動員して小崎氏と作成の準備を急いでいる。小崎氏は町長の人脈も使い、ソラシドエアを使って綾町を訪問する商品も実現した。

彼ら公務員はいつまでも同じ職場にとどまれない。井上氏は4月に財政企画課から産業振興課に移り、後輩の吉森裕優樹氏(28)に後を託した。小崎氏は一度異動の内示が出たが、上司が「今、動かれると困る」と凍結。サブ的立場にまわり、1年かけて引き継ぎをしている。黒瀬氏も「5年目でいつ変わってもおかしくない」と覚悟する。だからこそ、先を見据えて動く。

ふるさと納税制度は今年度、限度額が倍増するなど拡充された。返礼品競争はさらに激化し、いまだに「お得な返礼品」を特集しているマスコミも多い。しかし、先行組の視線はかなり異なる。

小崎氏は「今の返礼品合戦はバブル。いつはじけるか」と語り、吉森氏は「この制度は明日終わるかもしれない。今のうちに玄海町をブランド化する」と指摘する。黒瀬氏は「返礼品にアンケートなどを入れ、生の声を聞いて、新製品のテストマーケティングに使えば」と事業者に提案している。

(長崎支局長 三浦義和)

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