天の川銀河に横たわるブラックホール

2015/10/18
ナショナルジオグラフィック日本版

「太陽の120億倍、説明不能なブラックホール発見」「あり得ないほど塵の多い初期銀河を発見」など、宇宙の話題はいつもニュースをにぎわせてくれます。地動説や宇宙の膨張、ダークマターなど、大きな発見があると宇宙観まで覆されます。そんな宇宙に関する大発見について、「どうやって発見されたのか」「なぜその発見が重要なのか」を詳しく解説します。

テーマ:天の川銀河の中央に横たわる、巨大質量のブラックホール。

最初の発見:1970年代に天の川銀河の中心部の位置が初めて確認され、地図に書き込まれた。

画期的な発見:2002年、星の動きを観測していた天文学者たちは、その近隣にブラックホールが存在していることを確認した。

何が重要か:多くの銀河の心臓部には巨大質量のブラックホールがある。そのことからはブラックホールがどうしてできるのかという疑問の答えが多く得られる。

天の川銀河の心臓部にあるブラックホールを囲む荒々しい領域。エックス線はエネルギー量によって色分けされていて、赤が最も弱く、青になるほど強くなる。ブラックホールそのものは、明るい中心部分の一番上に横たわっていて、近隣にある巨星が放出した高温ガスの層の中に埋もれている。チャンドラX線観測衛星で撮影した画像。(NASA/CXC/MIT/F. Baganoff, R. Shcherbakov et al.)

天の川銀河の中心はいったいどうなっているのか。地球から2万6000光年ほど離れた、いて座の方角にあり、可視光でも、赤外線でも、その位置を目で直接見て確かめることはできない。その方角と地球との間には高密度の星雲や星間塵(せいかんじん)を含んだ渦巻腕が横たわり、銀河の中心には年老いた赤や黄色の星が無数にひしめいていて、視界を遮っているのだ。いうなれば、天の川銀河全体をまとめているのは、こうした恒星たちの重力だ。だとしたら、銀河の中心部分は何がまとめているのだろう。銀河の中心部周辺にある不思議な天体と、そこで起こっている激しいプロセスの正体がやっとわかり始めたのは、1990年代になってからのことだ。

天の川銀河をはじめとする銀河は、中心部に物質が高密度で集まり、巨大な固まりを作っている重力によって形をなしているのだと天文学者たちはある時期、予測していた。中心部にある恒星は、楕円軌道を描いている。その軌道は銀河の平面に対して大きく傾いており、銀河円盤の上にある恒星の軌道と比べると、あまり秩序立ってはいない。重なり合った軌道の効果が累積し、中心部は平たいボールのようになっている。しかし、見るからに混然としていているこの中心部分の領域にある天体はすべて、この中心部分の中でも比較的小さい領域を中心に、公転する軌道をもっているようだった。

1974年にこの領域を初めて電波で探査したときには、いて座Aという名で広く知られている、電波発生源のグループを発見した。そのうちの一つ、いて座Aイーストは泡状の高温ガスで、おそらく膨張している超新星の残骸だと考えられている。一方、いて座Aウエストは、銀河の中心部分に向かって落下しつつあるガスでできた見事な三つの渦巻腕をもち、その形状は二つの高密度の巨星星団からの放射によって作られていた。どちらも比較的短時間の「スターバースト」からできたと考えられている。このスターバーストは、天の川銀河の中心からほんの100光年ほどしか離れていない位置で、独特の条件がそろったときにガスが大規模に圧縮して起こったと考えられている。

いて座Aイーストの中心部にはほかに、第三のコンパクトな電波発生源、いて座A*(スター)が埋もれている。この天体はまた別の大質量星団の中に横たわっていた。どうやらそのあたりがちょうど天の川銀河の心臓部であり、なおかつ天の川銀河のど真ん中に横たわる巨大質量のブラックホールがある位置でもあるらしかった。

目に見えない心臓部

いわゆる活動銀河の中心部分に高密度・大質量の天体があることは、1950年代には予測されていた。これがブラックホールだと天文学者たちが考えるようになったのは、1970年代になってからだ。当時ですら、ブラックホールがこれほどまでに巨大に成長するメカニズムを疑う声は多かった。

1980年代になってようやく、天の川銀河の中心部に近いところを通る恒星の軌跡を詳しく求めてみると、核がどれだけコンパクトであるかがわかった。そのため、天文学者たちは天の川銀河の中心部分にも、これと似たようなモンスターが潜んでいるのではないかと考えるようになった。

いて座A*が実際、とてつもなく大きなブラックホールであることを裏づける有力な証拠は、1998年に得られた。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のアンドレア・ゲッズが、ハワイ島のマウナケアにある巨大なケック望遠鏡を使って、天の川銀河の中心部に極めて近い位置にある動きの速い恒星を観測した。くっついて見えるほど近い距離にある恒星を個別に解像し、その動きを求める新しい技術が開発されていた。ゲッズはそれを利用して、どの星も中央にあるとおぼしき目に見えない天体の周囲を最大秒速1万2000kmで巡っていることを突き止めた。この天体は小さく見積もっても太陽質量の370万倍あり、ほんの数光年ほどの幅の領域に集まっていた。

2002年、チリにある超大型望遠鏡(VLT)を使った測定によって、ブラックホールの質量を巡る謎は解決に向けて大きく動いた。銀河の中心にあるブラックホールから17光時間(光の速度で17時間)または120天文単位という狭い範囲の周囲を、S2という名の恒星が15年の軌道周期で移動しているのを、ドイツのマックス・プランク地球外生物研究所に所属するライナー・ショーデルが中心となったチームが発見した。その後10年の間にこの恒星の動きに関する観測はさらに行われ、ブラックホールの質量はだいたい431万±38万太陽質量の範囲にまで絞り込まれた。

眠れる巨人

では、天の川銀河の中心部分が、活動銀河のように輝いていないのはなぜだろう。最も矛盾が少ない説明はこうだ。中心部分が輝くのは、どんな銀河でもその成長段階の早い時期に通るステージで、天の川銀河はその段階はすでに過ぎていた。ある時期、近いところにいた恒星やガスを手当たり次第に貪っていたモンスターが、周辺の宇宙空間の領域をすっかり食い尽くしてしまい、今では近隣にいる恒星の恒星風に含まれる動きの遅い粒子だけを取り込んでいるのだ。

2009年にハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の科学者たちが共同で行った研究では、ブラックホールはこれまで考えられていたほどには吸引力がないことが示された。彼らが考えたのは、動きの速い高温の粒子がブラックホールを取り囲んでバリアを作っているせいで、恒星風がほとんど閉め出されているモデルだった。

天の川銀河の中央部分の地図。1995年から2008年までの間に観測したいくつかの明るい星の動きがプロットされている。軌跡を見ると、姿は見えないが非常に質量の大きな天体がそこにあり、星たちはその周囲を回っていることがわかる。背景の画は、1回の観測で見える恒星の位置を示している。(A.Ghez, Keck/UCLA Galactic Center Group)

一方で、ブラックホールが時折、爆発を起こしていることを裏づける証拠もあった。銀河の中心部分の上に反物質の「噴水」があることを、1997年にコンプトン・ガンマ線観測衛星が発見した。この現象は最初、ブラックホールの過去の活動が原因で起こったのだと考えられていたが、現在では激しく活動する近隣の恒星の残骸によって起きたとする説が有力だ。

2007年、NASAのチャンドラX線衛星を使った科学者たちは、いて座A*の近くにものすごい速さで運動しながらエックス線を放出している天体を見つけた。このエックス線発生源は、50年ほど前に放出されたエックス線の短いフレアの反射、つまり光エコーだと考えられている。そのときにブラックホールが水星とだいたい同じくらいの質量があるガス雲をのみ込んだのだ。この眠れる巨人が次にいつ目覚めるのか。それは誰にもわからない。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック『ビジュアル大宇宙 [上] 宇宙の見方を変えた53の発見』を再構成]

(参考)ビックバンから宇宙最初の星、個性あふれる恒星、銀河の不思議、ダークマター/ダークエネルギー、量子論まで、宇宙全般を網羅。ナショナル ジオグラフィック『ビジュアル大宇宙[上] 宇宙の見方を変えた53の発見』は古代の哲学者たちがとらえた宇宙の概念を中近世、そして現代の天文学者が変革していく様子を分かりやすく解説します。

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