南アでヒト属化石1500点を発見、新種ホモ・ナレディ
「人類のゆりかご」で見つかった新種
発見現場はヨハネスブルク北西およそ50キロにあるライジング・スター洞窟。この一帯は、20世紀前半に初期人類の骨が多数出土し、「人類のゆりかご」と呼ばれるようになった。研究チームは2013年以降ここで1550点以上の骨を発見。これはアフリカ大陸では過去最大規模で、少なくとも15体分に相当するという。
ライジング・スター洞窟の骨は、部分的にはホモ・エレクトス以上に現代人に近い。バーガー氏らは、明らかにヒト属に分類できると考えたが、ヒト属のどの種とも異なる特徴をもつため、新種だという結論に達した。地元の言語であるソト語で、星はナレディと言う。彼らはこの新種を洞窟の名にちなんで「ホモ・ナレディ」(星の人)と名づけた。
発掘スタッフ募集、条件は「細身の人」
ライジング・スター洞窟の奥深く、狭い横穴と縦穴を抜けたその先で、2人の洞窟探険家が大量の骨を見つけたのは2013年9月のことだった。発見を知らされたバーガーは、交流サイトのフェイスブックで発掘スタッフを募ることにした。
「細身の人を求む。条件は、理系の資格をもった洞窟探検の経験者。窮屈な場所での作業もいとわないこと」
10日もたたないうちに60人近い応募が殺到し、そのなかから彼は6人を選んだ。全員、若い女性だ。バーガーは彼女たちを「地下の宇宙飛行士」と呼ぶことにした。
バーガーは、ナショナル ジオグラフィック協会から助成を受けて60人ほどの研究者を集め、地上に司令センターを設置した。さらに地元の洞窟探検家たちの協力を得て、センターから骨がある空間まで全長3キロの通信ケーブルと電線を敷設し、発掘現場の状況をセンターで常時見守れるようにした。いよいよ本格的な調査開始だ。
女性研究者のグループは交代で洞窟の奥に入り、骨の発掘と回収を進めた。地上では研究者たちがリアルタイムで送られてくる映像に驚きの声を上げ続けた。
回収された骨は保存状態が非常に良く、頭骨、顎、肋骨、多数の歯、手の骨、ほぼ完全な状態の足の骨などがそろっていた。復元モデルを分析すると、部分的には驚くほど現代的な特徴を備えていたが、アウストラロピテクス属よりもさらに類人猿に近い、原始的な特徴も見られた。
「腰を境にして、上は原始的、下は現代的と分けられそうでした」と、米国デューク大学の古生物学者スティーブ・チャーチルは言う。「足の骨だけ見つけたら、現代のアフリカの奥地にいる狩猟民族の骨だと思うでしょう」。
だが、頭の骨は極めて原始的だった。全体的な形態はホモ属に分類できるほど進化したものだったが、脳容量は小さく、現代人の半分にも満たない。
骨はなぜ洞窟の奥深くにあったのか
ところで、このような洞窟の奥の入りにくい場所に、なぜ人類の遺体があったのだろう。
そこが住居だったとは考えられない。石器や食べ物の化石などが一切ないからだ。骨はおそらく数百年かけて積み上げられているため、集団で洞窟に迷い込んだとする仮説も成り立たない。肉食動物が運び込んだのだとしたら、歯の痕がついた骨があるはずだが、それもない。
バーガー氏らは、非常に突飛な仮説を立てている。ホモ・ナレディの骨がそこにあったのは、仲間たちが運び込んだからだと考えたのだ。遺体を捨てることは、死者に別れを告げ、敬意を表し、その来世への旅立ちを助ける行為ともなる。「彼らは自然界と切り離された自己を認識できる知能をもった動物だったと考えられます」とバーガーは言う。
もちろん、これには反論もある。脳容量の小さいホモ・ナレディが、それほど複雑な行動をとるとは考えにくいとする立場だ。当時は洞窟のどこか別の場所に入り口があって、簡単に入れたのだと主張する研究者もいる。
これまでに回収された骨は1500点を超えるが、その大半は、わずか1平方メートルの範囲から掘り出されたものだ。従って、洞窟にはまだ多数が残されているとみられる。調査に参加した人類学者のマリーナ・エリオットは、こう言った。
「発掘調査は、まだ始まったばかりです」
(文 ジェームズ・シュリーブ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2015年10月号の記事を再構成]
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