「定年後は地域活動」の落とし穴経済コラムニスト 大江英樹

定年退職が近づいてくると、多くの会社では定年後の生活を考える「ライフプランセミナー」が開催されます。私も定年の1年半くらい前に受講しましたが、年金や健康保険の話に加えて、退職後の生活のあり方についても講師がやってきてお話をしてくれます。

こうした研修やセミナーで講師の多くはこう言います。「会社を辞めた後は地域があなたの居場所なのですから、積極的に溶け込んで地域活動をしなさい」。これ自体は別に間違ったことを言っているわけではないのですが、この言葉をうのみにするととんでもない目に遭うことがあります。

「地域」というのは決して穏やかなところでものんびりしたところでもありません。地域活動に関わっている人たちはそれなりに大変な思いをして活動しています。多くの住民たちのエゴがぶつかり合うわけですからそれは当然です。そういう地域を住民たちだけでうまく治めていく知恵として必然的に長く住んでいて年長の人の中に地域のボス的な存在が出てきます。これは自治会の会長さんとはちょっと違います。いわば陰のドンです。

地域社会というのは想像以上にこういうヒエラルキーの存在する世界です。始末の悪いことにそれは会社のようなドライな関係ではなく、わりとウエットな関係です。会社組織ももちろんヒエラルキーが支配しますが、それは午後5時までのこと。終業後は新橋の焼き鳥屋で部長をこき下ろすことで気持ちのバランスを保っていられるのがサラリーマンです。いわばどんなに会社で嫌なことがあってもちゃんと逃げ場がこしらえられているのです。

ところが地域は逃げ場がありません。特に会社を辞めて終日その地域で活動をしているのであればよけいそうなります。しかも地域に隠然と存在するルールや人間関係、これらの暗黙知は会社と違って研修もOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)もありません。「あの人、どこかの上場企業で部長さんだったらしいけど、何にも知らないのね」とか「何だか知らないけど、上から目線っぽい人だよなあ」といった陰口を叩かれて冷たい目で見られることになりかねません。

もちろん私は地域活動自体が悪いというつもりはみじんもありません。でも軽い気持ちで関わると、想像以上にストレスを抱え込むのだということは知っておいた方がよいと思います。本気で地域活動に関わるのであれば、それなりのお作法をきちんと身に付けるためにしばらくは丁稚(でっち)奉公のつもりで謙虚に振る舞うべきです。

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