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 海外からの訪日客は年間2000万人に達する勢いで、その消費は日本経済を下支えしている。リピーターとなる海外客は地方を訪れることも多く、地域経済の活性化にも貢献大だ。北海道もそんなインバウンド景気で明るさが戻りつつあるが、訪日客を待つだけではなく、自ら海外に打って出る「アウトバウンド」に動く若い経営者もいる。売り込むのは北海道の魅力そのもの、クールジャパンならぬ「クール北海道」だ。

札幌の中心部、大通りから近いダイニング「開」は連日、開店直後の夕方5時半から満席になる。席を占めているのは主に台湾からの訪日客だ。ダイニング開は訪日客にターゲットを絞った店で、100人収容できる。メニューは北海道の旬の食材を使ったビュッフェが中心だ。運営するのはノースグラフィック社(札幌市、山本壮一社長)。

クール北海道を売り込むノースグラフィックの山本社長(左)

クール北海道を売り込むノースグラフィックの山本社長(左)

山本氏は34歳、札幌生まれの札幌育ち。大学時代にデザイン会社を起業し、現在はダイニング開のほか、焼き肉、ビアホールなど飲食店を13店、美容院、アパレル、建設会社など幅広く経営している。

北海道は訪日客に人気のスポットだ。おいしい料理、雄大な景色、夏は涼しく、冬も雪を見たことがないアジア人が押し寄せる。そんな訪日客の声に耳を傾けるうち、山本氏は考えた。「我々はリピーターが求めるものを提供できていない」と。北海道には台湾、韓国、タイなどから若い世代もやってくる。彼らは「日本、とりわけ北海道をクール(格好良い)と思っている。北海道の若者と同じ物を食べ、同じデザインの服やアクセサリーを身につけ、同じ美容院でカットをしてほしいと思っている」(山本氏)。

北海道の若者と同じ美容院でカットしたい訪日客が増えている(札幌市の美容室STILL)

北海道の若者と同じ美容院でカットしたい訪日客が増えている(札幌市の美容室STILL)

もちろん、北海道には中国からのシニア世代客も多いのだが、その受け入れ体制は旧態依然のままだ。かつて日本人の団体客が集まったホテルに、今は中国人の団体客が押し寄せている。カニやジンギスカンを提供し、大型バスで名所を回れば、満足して帰って行く。ホテルの経営者たちは60-70代が多く、現状を大きく変革しようという意識は乏しい。

山本氏は、中国からの団体客は旧世代の経営者たちに任せ、自分は台湾などの20代、30代の若者層をターゲットにしようと考えた。地元の若者と同じ物を食べられる自社の店で食事をし、同じ美容院でカットをする。ドン・キホーテやマツモトキヨシでも買い物はするが、札幌のデザイナーが手掛けた服やアクセサリーをブランドショップで購入する。台湾の旅行代理店を回り、食、美容、ファッションをパッケージにした若者向けツアーを売り込み、集客に成功している。

ファッションも道産子と同じ店で(札幌市のブラウンフロアクロージング)

ファッションも道産子と同じ店で(札幌市のブラウンフロアクロージング)

山本氏はこうしたパッケージを台湾に持ち込み、「クール北海道」を売り込もうとしている。来年2月にも台湾で開業し、いずれはタイにも進出する計画だ。「日本の飲食店を単独で出してもインパクトはない。美容やファッションも含めたクール北海道を丸ごと持って行くことで、若者のニーズをつかめる」(山本氏)と考えている。

9月中旬、札幌市内で風変わりなセミナーが開かれた。集まったのは北海道の地元企業経営者、仕掛けたのはフィリピンでインターネットビジネスを展開するハロハロ社(フィリピン・マカティ市、岡田泰成社長)だ。セミナーの趣旨は「フィリピンで北海道産品を販売しませんか」。

北海道の企業にフィリピン進出を勧めるハロハロ社の鈴木氏

北海道の企業にフィリピン進出を勧めるハロハロ社の鈴木氏

ハロハロ社は2017年にフィリピンで120店舗規模の日本のショッピングモールを開業する。セミナーでそこへの出店を呼びかけた。集まった北海道企業は約30社。札幌に先駆けて開いた新潟のセミナーでは、地元企業40社が出席し、すでに日本酒の酒蔵など出店を決めた企業もあるという。

セミナーで講師を務めたハロハロ社の鈴木廣政ディレクターは「フィリピンは親日国だが、タイなどに比べて日本企業の進出が少ない。治安も改善し経済も拡大し始め、日本の商品への消費意欲が高まっている」と語る。飲食だけでなく、ファッションなど日本の文化をそのまま体現できるショッピングモールを目指している。今月下旬にパイロット店舗を2店開き、11月には記念式典も開催する。

インバウンド消費が日本の景気回復にひと役買ったのは事実だか、先進的な経営者たちは、待っているだけのビジネスモデルに飽き足らない。自ら海外に打って出る「アウトバウンド」は、政府の進めるクールジャパン構想とも合致しており、新しい日本発のビジネスとして広がる可能性を感じさせる。

(編集委員 鈴木亮)

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