役所の情報は宝の山 震災後に市民の活用広がる

政府や自治体の情報を使い、市民が新サービスを創出する「オープンデータ」の動きが広がってきた。眠れる情報は宝の山。地域活性化などにもつながると期待がかかる。

「飲食店の新規開業の情報は観光アプリに利用できる」「駐車場の混雑状況を公開してほしい」――。静岡市内の専門学校の一室で、参加者たちが口々に要望を出す。今月5日、静岡市が開催した「アイデアソン」の一幕だ。

アイデアソンとはチームでアプリなどのアイデアを出し合って優劣を競うイベント。静岡市は道路・自動車関連のデータのニーズを探るために開催した。最優秀賞を獲得したのは助手席の子ども向け観光案内アプリ。提案したチームの代表を務めた会社員、小林康晃さん(41)は「自分のアイデアを形にしていく作業が楽しい」と醍醐味を語る。

オープンデータは政府や自治体の情報を匿名化したうえで二次利用しやすい形で無料公開し、行政では行き届かないような地域課題の解決、新産業創出などに役立ててもらうのが狙い。内閣官房の情報通信技術(IT)総合戦略室によると、9月時点で少なくとも全国24都道府県、147市区町村が取り組んでいる。

鯖江市が先駆け

国内でこうした動きの先駆けとして知られるのは眼鏡産業の集積地である福井県鯖江市。地元のIT起業家、福野泰介さん(36)が2010年に市長に直談判をして取り組みが始まった。市は「データシティ鯖江」を掲げ、ホームページで市内のトイレや避難所の位置、バスの運行情報などを公開。これを受けて、福野さんら技術者が100以上のアプリを開発している。

福野さんは「今後は眼鏡型端末で表示できる観光案内アプリの開発に取り組んでいきたい」と話す。鯖江の戦略の背景には、将来的に眼鏡がIT技術と融合してウエアラブル端末となる時代を見据え、眼鏡産地としての競争力を確保したいという思惑もある。

公的データの公開は世界的には09年、米オバマ政権が「オープンガバメント」を掲げて注目され、広がった。日本はやや遅れて12年に政府が「電子行政オープンデータ戦略」を策定している。

全国各地に広がる推進力となったのは東日本大震災をきっかけとした市民意識の高まりだ。NPOやボランティアによる被災地支援にネットが大きな役割を果たし、ITの効果が注目されるようになった。13年にはITによる地域課題の解決に取り組む技術者などでつくる全国組織「Code for Japan」が発足。各地で50以上の地域団体が活動を展開している。

企業立地に影響

国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの庄司昌彦准教授(情報学)は「自治体のオープンデータに対する取り組みの濃淡は企業立地にも影響を及ぼすようになっている」と分析する。

たとえば13年に福岡市で創業した介護情報サイト運営のウェルモ。東京で会社員をしていた社長の鹿野佑介さん(30)は、「サービス開始に不可欠な公的データの公開に応じてくれたのが福岡市だけだった」と経緯を説明する。

オープンデータで生み出されるのはアプリなどのITサービスだけではない。横浜市は横浜信金などと組み、実証試験を12月から始める。高齢者が多い地域などのデータを横浜市が信金に提供し、介護や育児支援などの起業をめざす人に対する相談や融資業務に役立ててもらう狙いだ。

盛り上がるオープンデータだが課題もある。公的データを公開する最終的な意義は産業創出などにとどまらず、行政の透明性を高めて政策決定への市民参加を促すことだ。東京大学の奥村裕一特任教授(電子政府論)は「こうした取り組みは日本では遅れている。これをクリアすればオープンデータは次の段階に進むことができるだろう」と指摘している。

自治体の姿勢へコメント 「都や23区、取り組み加速を」

短文投稿サイトのツイッターでも、オープンデータに関する多くのつぶやきがみられた。「ぼくもオープンデータを活用したサービス作ってみたいなー」などとあこがれる人や、「大阪市のオープンデータを使って、ひったくり事件発生箇所を視覚化してみた」と紹介している人がいた。

自治体の姿勢へのコメントも目立った。「会津若松市様のオープンデータへの取り組み素晴らしいと思います」という称賛の一方、「オープンデータへの取り組みの加速を特に求めたいのは東京都と23区。経済効果が期待できるのに、本格的な取り組みはほぼ皆無」と嘆く声が出ていた。

「オープンデータは法律の運用(=予算の執行)を可視化し、民主主義が正しく実行されているか検証する手段を市民に提供する」との指摘もあった。調査はホットリンクの協力を得た。

(本田幸久)

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