ゾウムシの「鼻」はマジックハンド
コスタリカは雨季の終盤にさしかかり、ようやく雨がたくさん降り始めた。外の湿度は90%。洗濯物が乾きにくい。でもやっぱり雨季はこうでないと。
さて今回はゾウムシのお話。以前に「鼻(口吻)」の主な使い方として、植物を掘って中身を食べたり、卵を産みつけたりすることを紹介したが、鼻の使い道はそれだけではない。それぞれに独自の使い方を持っているのである。
たとえば、上の写真。キクイサビゾウムシの一種のオスだが、よく見ると、鼻にブラシのような毛が生えている。裏から見るとこんな具合だ。
このようにびっしり毛が生えているのはオスだけ。メスの鼻は短く、ブラシはない。
オスはこのブラシを何に使うのかというと、実はメスの体をなでる。
メスがヤシの倒木に産卵用の穴を鼻で掘っているとき、オスはメスの鼻から背中の翅にかけ、横から優しく鼻ブラシでなでて、求愛するそうだ。そこへ別のオスたちがメスと交尾しようとやって来ると、元からいたオスは長い鼻で下からすくいあげるように後から来たオスたちを投げ飛ばすのだ*。
ちなみに南米のアマゾンの先住民は、このゾウムシの幼虫を食べる。ヤシの木を切って、ゾウムシのメスが産卵できる場所を確保し、丸々と大きく太った幼虫を収穫し食べるのである。
*参考文献:Eberhard, W. G. 1983. Behavior of adult bottlebrush weevils (Rhinostomus barbirostris) (Coleoptera: Curculionidae). Revista Biologia Tropical 31: 233-244.
ゆりかごを作るゾウムシ
子育てのためのゆりかごを作るゾウムシの仲間もいる。オトシブミだ。
作り手はメス。長い前脚と鼻とアゴで器用に葉を切り取り、しんなりさせてから筒状に折りたたんでいく。折りたたむ初めのほうで、筒に穴を開け産卵する。そうしてできたのが右のようなゆりかご。
幼虫は、このゆりかごの中でかえり、発酵したゆりかごの葉を食べて育つ。
そうしてこのゆりかごから出てきたのが(4匹も)、下の茶色と紫色を混ぜたようなメタリックカラーのオトシブミ。
マジックハンドをもつゾウムシ
お次は、マジックハンドのように長い鼻の先に、がっしりとしたアゴをもつゾウムシ。
これはミツギリゾウムシと呼ばれる仲間の一種。このグループの昆虫は、コスタリカに200種ほど生息していることがわかっている。特徴はすらっとまっすぐ伸びた触角で、下の写真もこの仲間。剣先のようにまっすぐ長く伸びた鼻をもつ種のオスは、その長い鼻を使って産卵中のメスを守るそうだ。
鼻のないゾウムシ
鼻がなく筒状のゾウムシもいる。
キクイムシの仲間だ。上の写真は、自ら掘った穴から「顔」が見えているところ。
下の写真は穴から出てもらって、横から見たところ。
「顔」は平らで、伸びた鼻はない。立ち枯れした木の幹に円形の穴を開け、外に木クズを出しながら掘り進む。いわば、からだ全体が「掘るゾウムシの鼻」になった具合だ。キクイムシやナガキクイムシの仲間には、こうして作ったトンネル内に菌を植え付けて栽培する種が多くいて、増殖した菌を幼虫が食べて育つ。
下にも「個性が強めの」ゾウムシたちを紹介しよう。
黄色い「クマ」のようなゾウムシ
「牙」の生えたゾウムシ
ゾウムシはどこに?
朽木の上を動く何かが。。。 さて、下の写真のヒゲナガゾウムシは、どこにいるでしょう?
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学でチョウやガの生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[Webナショジオ 2014年10月21日付の記事を再構成]
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