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脱・寝たきり、秘策あり 通所リハビリ施設広がる

2015/9/15

 高齢者の介護は今や、国民的な課題だ。中でも寝たきりになると本人はもちろん、介護する家族の負担が大きい。国の財政事情が厳しい中、介護保険からの補助も今後は減るだろう。介護認定を受けても寝たきりにならず、最低限の身の回りのことを自分でできれば、家族や国の負担減につながる。脱寝たきりを目指す民間施設の取り組みを追った。

足上げ運動などを通じ機能回復訓練に特化した通所施設が増えている(大阪府八尾市)

 大阪府八尾市にある通所介護(デイサービス)施設「健寿」には毎日午前9時と午後1時になると、送迎車に乗った高齢者が続々とやってくる。20人ほどそろったところで、輪になって体操が始まる。参加するのは要支援1(日常生活はほぼ自分でできるが支援が必要)から要介護4(日常生活に全介護が必要)までの高齢者で、最高齢は94歳だ。

 通所介護施設は提供するサービスの時間によって区分がある。

 5~9時間の施設は食事、入浴、レクリエーションを提供する。家族をつかの間、介護から解放する役割を果たしている。一方、健寿のような3~5時間の施設は、機能回復訓練に特化しており、食事や入浴のサービスはない。

 こうした施設の目的は寝たきりの防止だ。長時間のサービスを提供する施設に比べ、受け取る介護報酬は低いが、運営母体である和合産業(大阪市)の宮田彰典社長は「これからの介護施設は、お世話型からリハビリ型へ変わるべきだ」と考えている。

 現在、要支援、要介護の認定を受けている高齢者は全国で約600万人いる。介護保険制度が始まった2000年の3倍弱だ。介護にかかる費用は9兆円と、同じく約2.5倍になっている。

つかまり立ちを通じた訓練もある(大阪府八尾市)

 介護が必要になるきっかけは脳血管疾患や関節疾患、骨折などだ。入院治療、リハビリを経て退院後、自宅に戻ってから対応を誤ると、寝たきりになってしまう。

 病院から自宅に戻った高齢者をいたわる気持ちから、家族は何でも手を貸し、安静を強いる。「無理しないで」「大事にしなければ」と過剰な介護の結果、高齢者は日常の生活動作である起立、歩行、食事、排せつなどを1人でできなくなり、やがて寝たきりになってしまう。

 介護施設の中にはケガをさせないように、あまり運動をさせないところもある。健寿などが手掛けるのは、長期間の入院で衰えた日常生活のための機能を回復する訓練だ。70歳を超えると筋肉を増やすのは難しい。むしろ筋肉を動かす「筋出力」を高めることが重要になるという。

 高齢者は転倒を恐れて、歩く時に足を上げなくなる。足を引きずるように歩くと、かえってつまずきやすい。筋出力が高まり、身体のバランスが良くなると足を上げて歩けるようになり、転倒しなくなる。もし転んでも、1人で起きられるようになる。一人暮らしの高齢者の場合、転倒して起き上がれないと、大変なことになる。

 健寿では筋出力を高める訓練に器具は使わない。自宅に戻って1人でもできる訓練ばかりだ。例えば壁に手をついて、片足ずつ曲げたり伸ばしたり、椅子に腰掛けて足を水平になるまで上げたりする。「半年から2年程度の通所をすることで要介護の度合いが1ランクから2ランクは改善する」(担当の理学療法士)という。

 小沼喬さん(90)は通所して1年で要介護2(日常生活に軽度の介護が必要)から要介護1(部分的な介護が必要)へ改善した。小沼さんは能が趣味で、50年続けていたが、宮島(広島県廿日市市)の舞台で転倒し、足を骨折した。膝に人工関節を入れる手術をして、一時はまったく歩けなかった。「もう一度、能の舞台に立ちたい」(小沼さん)一心で、週2回の機能回復訓練を続けている。

 藤田浩一さん(仮名、80)はパーキンソン病を発症した後、両足の関節が動かなくなった。ところがスポンジをまたぐ訓練を繰り返すうち、2カ月ほどで歩けるようになった。「好きなゴルフをもう一度やるのが目標」(藤田さん)という。

 健寿のような機能回復に特化した短時間型の通所施設が全国で増えている。イオンは20年までに首都圏を中心に50カ所のスーパーで機能回復型の通所施設を設ける。家族が買い物をしている間に、高齢者が訓練を受けることができるので、関係者の期待は大きい。

 今後、日本では高齢者が急速に増える。15年時点で65歳以上の高齢者は3395万人いる。これが25年には3657万人まで増え、全人口の30.3%を占めるようになる。整形外科医の宮田重樹さんは「60代以上の2人に1人がロコモティブシンドロームの予備軍」と指摘する。こうなると、もう人ごとではない。

 ロコモティブシンドロームとは、身体を動かすために必要な器官に障害が起こり、自ら動く能力が低下し、要介護になる危険度が高くなる諸症状を指す。「ロコモを予防することで、将来の要介護や寝たきりの防止につながる」(宮田さん)。

 要介護の度合いを改善し、寝たきりを防止すれば、家族の介護負担が減るし、今後厳しくなる介護保険財政にも好影響がある。今後は要介護の度合いが改善したら年金支給額を増やすといった、大胆な発想転換があってもいい。(編集委員 鈴木亮)

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