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 子育てなどの支援を受けやすいよう、妻の親の家の近くに住む例が増えている。婿入りまではしないものの妻側の助けを借りて暮らす夫は「なんちゃってマスオさん」というべき状況だ。ただ楽だからと子育てや家事を放っておくと、妻や義父・義母の不満は高まってしまう。どんなことに気を付けたらいいのか。なんちゃってマスオさんの実例から探ってみた。

「近居してから夫は週末の付き合いゴルフが増えた。引っ越し前は平日ももっと早く帰って育児を手伝ってくれたのに……」。都内に住む30代の会社員A子さんは、親の手助けをいいことに子育てに夫が協力する時間が目に見えて減ったと不満顔だ。

総務省の2013年の調査によると高齢者夫婦の世帯で、歩いて片道15分未満の別の場所に子どもが住むのは25.2%。5年間で3.5ポイント上がった。東京ガス都市生活研究所の12年の調査で妻の親の近くに住む「娘近居」が約7割。夫の親の近くに住む「息子近居」を大きく上回る。

共働きで忙しく助けを借りたい子世帯と、孫と触れ合いたい親世帯の思いが合致。すぐに駆けつけられ、プライバシーは維持できるという良さがある。

妻の親にお願いすると、家事・育児は楽々?

ただ、冒頭のように気が緩むなんちゃってマスオさんは要注意だ。第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部の北村安樹子主任研究員は「子世帯は近居をすると外部の育児サポートを頼まなくなってしまう。パパには早く帰宅して手伝おうといった意識が薄れやすいのでは」と話す。

「自分たちに子育てや家事を任せっぱなしで、どういうつもりなの」。妻や義父・義母が爆発する前に、工夫する先輩なんちゃってマスオさんの声に耳を傾けよう。

「妻の誕生日や結婚記念日に夫婦2人で外出する時の子どもの世話は夫の私から両親にお願いしている」と大阪府池田市の会社員Bさん(33)は話す。14年末、東京からの大阪への転勤を機に妻と3人の子どもとともに妻の実家から約10分のマンションに住み始めた。

「義父・義母との日常の連絡は妻任せ。ただ家族全体にかかわるイベントや旅行の誘いは私が伝える」という。妻の両親には夫が直接頭を下げて伝えることで、家族全体をしっかり見ている、自分の娘が大事にされているという安心感を与える効果がありそう。

東京都世田谷区の会社員Cさん(30)は「金銭面でなるべく甘えない。マンションはなんとか自己資金で購入した」と話す。妻の両親は徒歩5分の距離に住み、3歳と1歳の子の面倒を頻繁に見てくれるが、費用がかかればちゃんと支払うのがルールだ。

加えて「出張の土産などをこまめに渡して感謝の気持ちを伝える」という。経済的な利点を見込んで近居を選ぶのは選択肢のひとつだが、金を出せば口も出したくなるのが人情。独立した世帯であることをしっかり意識するため、一定の線引きは必要だ。

「子育てを楽しめる期間は限られている。ゴルフは代えは利くがパパの代えは利かない。どんな立場にいるパパもそこは意識してほしいですね」と話すのはNPO法人、ファザーリング・ジャパン(東京・千代田)の理事で高松市に住む徳倉康之さん(35)だ。

依存はほどほど、こまめに感謝

妻の親と近居暮らしの徳倉さんが大事にするのは「祖父母と孫が一緒に楽しめるきっかけづくり」だ。例えば出張で子どもの面倒を見てもらうとき、夏ならビニールプールを両親の家に持って行き遊べる準備をして出掛ける。両親宅に送り込んで終わりではなく、「最近はアニメがお気に入りなんです」と子どもが関心を持っている話題について、伝えておく。

子どもは6歳の長男を筆頭に3人。高齢の両親が相手をするのは体力的にしんどいので、遊ぶ時間は2時間までと決めることもある。「預けるときには『この日は大丈夫でしょうか』と親が断れる聞き方をする」のは忘れない。

住宅や家族関係に詳しい住宅ジャーナリストの山本久美子さんは「妻は自分の親だから、依存しすぎても気付かないことがある。夫は冷静な立場で妻に助言し、時間や金の負担をかけすぎていないか考えやすいはず」と説明する。日ごろは細かい口出しをしなくても、要所で存在感を発揮することが、なんちゃってマスオさんには求められているようだ。

         ◇

高齢者の町復活に利点も

子育てを楽にするといった家庭の視点で語りがちな妻実家近居だが、住まいやまちづくりに詳しい東京大学の大月敏雄教授は「特定の年齢層の住人が多くなったニュータウンに子世代が近居すれば、再び世代の多様性を生み出す。個人や家庭の利点だけでなく地域社会にもプラスだ」と話す。

UR都市機構は子育て世帯や高齢者世帯が半径2キロメートル以内に近居した場合、家賃の5%を5年間割り引く。人口減に悩む自治体には親元に近居する子世帯に現金を支給したり、転入・転居費用の一部を買い物ポイントとして付与したりする例が増えている。

ただ近居に適した物件不足も目立つ。大月教授は「再開発に際して高齢者世帯に適した住戸を一定数用意するなど、多世代が暮らしやすいまちづくりの発想が欠かせない」と話す。

(高田哲生)

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