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天気のなぞ

日本の夏が変わった? 常識外の豪雨、増える可能性 編集委員・気象予報士 安藤淳

2015/9/11

台風18号と17号のコンビが、関東地方などに一生に一度経験するかどうかの記録的大雨をもたらし、大きな爪痕を残した。多くの人がもつ気象の常識とはかなり違うことが起き、専門家からも「異常な現象だ」との声が聞こえる。警報が出たものの被害は防げなかったが、大雨の原因をたどっていくと、今後の豪雨対策への教訓も見えてくる。
気象衛星ひまわりの画像には、南北につらなる雲がはっきり見える(10日午前3時、気象庁ホームページから)

■まるで熱帯の気象

10日の天気図はいたってシンプルだった。日本海には台風18号から変わった低気圧、日本の東海上には台風17号があり、中国大陸と太平洋の北部には高気圧が張り出していた。しかし、衛星画像では台風の渦巻き状の雲や活発な積乱雲がたくさん見え、熱帯の気象がそのまま緯度10度分くらい北上したかのようなにぎやかさだった。

日本海の台風18号崩れの低気圧は中心気圧がそれほど低くなく、普段ならあまり気にもとめない程度だが、そこは「腐っても台風」。熱帯の海から持ち込んだ大量の暖かく湿った空気を伴っていた。多くの台風は日本に近づくとともに弱まるが、18号の場合は海面水温が高かったために、発達しながら近づいた。発生地点からの距離が短かったのでそれほど強まらなかったが、気象庁も一時は「最大風速が毎秒25メートル以上の暴風域を伴うのではないか」と警戒したほどだ。潜在的な威力は決して小さくなかった。

一方、日本の東海上の台風17号は18号より規模が大きく強いまま北上を続けた。18号(その後、低気圧)は17号よりも緯度で数度、距離にして1000キロメートル程度、北にあった。この微妙な位置関係が、南北に連なる発達した雲を継続的に生み出す一因となった。

まず、台風18号が持ち込んだ空気のために日本付近は全体的に熱帯のような状態で、特にその東側では反時計回りの流れにのって南~南東の暖かく湿った風が吹いた。18号がゆっくりと北上しながら低気圧に変わり、関東などへの南からの気流の影響が少しずつ弱まるタイミングで、今度は17号から湿った南東風が吹き込んだ。

■長さ数百キロの積乱雲の列

日本付近の上空では偏西風が大きく蛇行しており、日本の東半分で南風が吹いていた。地上付近の暖かく湿った南~南東の風と上空の南風の影響があいまって、積乱雲発達の引き金を引いた。蛇行部分は上空に寒気を伴う「渦」の構造ももっており、その前面にあたる東日本で特に上昇気流が強まったようだ。結果として、幅200キロメートル程度、長さ数百キロメートルに及ぶような、南北に伸びる積乱雲の列ができた。専門家の間では「線状降水帯」と呼ばれる。

線状降水帯は昨年8月、土砂災害で多くの死者を出した広島県の豪雨や、2012年7月の九州北部豪雨の際にも現れた。線状降水帯の下では激しい雨が続くことが多いが、これまでの例ではせいぜい数時間の場合がほとんど。ところが、今回の大雨では関東を中心に半日~1日にわたって強い雨を降らせ続けた。気象研究所の加藤輝之室長は「最初は台風18号、その後を引き継ぐように17号によって、関東付近に暖かく湿った気流が入り続けた影響が大きい」と説明する。

太平洋北部にほとんど停滞している高気圧のために、台風17号も18号から変わった低気圧もノロノロ進み、全体として雨の降りやすい状態がなかなか解消しなかった。気象衛星「ひまわり」の画像では、発達した雲が同じようなところを次々に南から北へ動くのが見えた。北関東から南へ流れる鬼怒川などでは上流から下流まで雨が降り続け、流域全体での総雨量が記録的になったため氾濫につながったとみられる。

よく見ると、線状降水帯はわずかに西へ動いたり東へずれたりした。そのたびに、強い雨の領域も少しずつ変化した。こうした動きを知っておくことは、防災対策上とても重要だ。たとえば、線状降水帯を東西に突っ切るような道路や鉄道網は、大雨による冠水などの被害を受けやすい。9日の場合なら、千葉県東部で働いていた人が東京の西部や神奈川、埼玉などに帰宅するのは危険を伴う。線状降水帯の中でも時折、雨雲が弱まることがあるので、そうしたタイミングを狙って帰宅する手もあるかもしれないが、今の予測精度などから考えるとあまり現実的ではないだろう。

■帰宅するなら思い切って早く

首都圏のオフィス街では、9日夜には仕事を早めに切り上げる人も多かった。ただ、夜間の豪雨は足元が見えず、中小河川の氾濫もわかりにくいので危険だ。早く帰宅するなら思い切って、暗くなる前にしないとあまり意味がない。今回の場合はかなり早い段階から、気象庁が関東などで強い雨が長時間にわたって続くと予想し、注意を呼びかけていた。こんな時には最初から出勤せず、自宅で仕事をした方が時間のロスもリスクも減らせるかもしれない。

海洋研究開発機構アプリケーションラボの山形俊男所長は、最近の多雨傾向は熱帯太平洋で発生している「エルニーニョ」現象が一因とみる。海面水温が東部で平年より高めになり、大気の流れに影響を与えて異常気象につながる。スーパーコンピューターの予測計算などによると、今後、地球温暖化が進むとエルニーニョ発生時と似たパターンが現れやすくなる可能性がある。山形所長は「地球温暖化が進むと日本の夏は不順になると考えられる。今回のような雨が将来、増えるかもしれない」と指摘する。一度限りの大雨と思わず、備えを怠らないことが必要だ。

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