ミシュラン星付き旅館と伊東市がコラボで和食店

日経トレンディネット

2009年以降、4年連続でミシュラン星付きホテルに選ばれている「ホテル龍名館東京」。同ホテルを運営する龍名館(東京都千代田区)が2015年8月20日、静岡県伊東市とのコラボレーションによる和食店「紺碧(こんぺき)の海」を東京・六本木にオープンさせた。

地方の特産物を売りにした産直居酒屋は昨今多いが、注目されているのがそれを提供するスタイル。会席コースをひと口サイズにして盛り合わせた「ワンプレート会席」が紺碧の海の看板メニューだという。

会席料理といえば、日本料理のフルコース。前菜、造り、焼き物、煮物、揚げ物、蒸し物といった料理が一品ずつ出てくるため、ゆったりとした間合いと流れを楽しみながら味わえるのが特徴だ。それをワンプレートにすると、いったいどうなるのか。また1899年創業の老舗旅館がなぜ今、このような和食店を始めたのか。

「紺碧の海」(東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル3階)は、六本木駅から徒歩5分。営業時間は16~23時。土日祝日が定休日だが、11月から土日営業を開始予定
席数は45(ホール28席、カウンター5席、個室12席)
カーテンで仕切って半個室風にできる席もある

ワンプレート会席に「ツマミグイ」との類似点を発見

ワンプレート会席「紺碧の海盛り合わせ」は、3つのコース(2900~6500円)でのみ提供される。

まずはその内容から見てみよう。メニューは季節によって変わるが、品数は15品。取材当日は会席料理の「前菜」に相当する鯵南ばんや卵焼き、煮こごりに、造りに相当する刺し身が数種類、さらに「焼き物」「煮物」「揚げ物」「蒸し物」に相当する鯛一夜干しや魚卵のうま煮などが並ぶ。

会席料理のミニ版として上記の流れに沿って食べることもできるが、ワンプレートなので食べたいものから食べることもできる。

ワンプレート会席「紺碧の海盛り合わせ」(写真手前)はコース料理でのみ注文可能。写真の「紺碧コース」は紺碧の海盛り合わせに先付けと食事または甘味が付いて2980円

面白いと思ったのは、品書きの下に書かれた注意書き。「魚屋の海苔手巻きをご賞味あれ!」というタイトルで「ツマなどの海藻類はあとの楽しみとして少しだけ残すべし」「海苔を用意してほしいタイミングでスタッフに声をかけるべし」「ツマなどの海藻類に加え、少量のワサビとガリを加えるべし」「しっかりと巻いて、少しだけ醤油をつけるべし」など、手巻きの食べ方のルールが記されている。スタッフにたずねると、焼きたての海苔が後から運ばれてきて(1人2枚)、「ツマなどをお好みで手巻きにして食べてほしい」とのこと。

ツマを手巻きにするという提案で思い出したのは、回転寿司のあきんどスシローが運営する「ツマミグイ」2号店の「手摘みすし」。何種類もの薬味と野菜中心のネタを自由に組み合わせて食べられるように考案したプチサイズの手巻き(ツマミまかせコースの中のメニュー)だ。そういえば、全ての料理をひと口大にしたこの盛り合わせは、ツマミグイのコンセプトと似ている気がしないでもない。

海苔は焼きたてが運ばれてくる。テーブルにのった瞬間からいい香りが立ち上る。1人2枚の海苔がつくので、1枚目はツマのみ、2枚目は刺し身も乗せた

刺し身は単品よりもできればツマといっしょに食べたい筆者にとって、手巻きのために残さなければいけないのはむしろありがた迷惑のような……。だが厚くツヤツヤで高級感がある海苔が焼きたての香りとともに運ばれてくると、一気にテンションが上がった。あまりにいい香りだったので、この海苔だけをつまみに日本酒を飲みたいほどだったがグッとこらえ、ツマとがり、ワサビをのせて巻いて食べた。海苔の磯の香り、ガリの甘さとわずかな辛味、ツマの歯応えがミックスされ、想像以上においしい。

最初にプレートを見たとき、「このボリュームだと一気に食べ終わってしまうかも」「コースで出されてゆっくり食べられる会席料理とはやはり別物では」と思った。しかしこの海苔手巻きが小休止になり、またどのツマを残そうか考えることで、食べ方の組み立てを考えることにもなる。自分流にアレンジできる楽しみがあり、同席者との会話もはずみそうだ。店側の工夫が感じられた。

しかしいったいなぜ、会席料理をワンプレートに盛りつけようと考えたのか。

締めに出された「漁師風海鮮飯」。青唐辛子が隠し味で利いていて、かなりのピリ辛だった

少量多種×敷居の低い会席料理×産直メニュー

龍名館 経営企画・マーケティング部の濱田裕章部長によると、最大の理由は「最近、少量ずつ多種類を食べたいというニーズが高まっていること」。刺し身の盛り合わせは少量多種の料理ともいえるが、刺し身以外の料理もより種類を多く楽しんでもらうにはどうしたらいいかと考え、コース料理である会席をイメージしたワンプレートメニューを思いついたという。

「ホテル龍名館東京でも会席料理を提供しているが、利用するのは年配の方が中心。若い方は会席料理になじみがないせいか、流れを考えたコース料理なのに『シェアできないか』と聞かれることもあった。ハードルを低くするにはどうしたらいいか考え、会席の魅力を詰め込んだワンプレートメニューを考案した」(濱田部長)

アラカルトメニューから、「イカメンチ」(650円)と「ちんちん揚げ」(790円)(※どちらも試食用サイズ)。ちんちん揚げはサバのすり身にネギとショウガを混ぜて味噌で味を付け、油で揚げた伊東名物の郷土料理。イカメンチの中身はイカを粗くみじん切りにしたもので、食べやすくてイカそのものの味が濃厚に味わえた
アラカルトメニューから、洋の要素を取り入れた創作料理「紺碧の海オリジナル酔狂煮(和風アクアパッツァ)」(1090円)。日本酒、塩、魚のあらのだし汁で煮込み、隠し味に熱した茶油で仕上げる

残念なのはこの盛り合わせがコースでしか頼めないこと。盛り付けに時間がかかるためだという(コース料理であれば、先付けを出している間に盛り付けることができる)。コースは2980円からなので、ドリンクを2杯程度飲んでも5000円以内で収まりそう。六本木でこの内容だとかなり手ごろだ。

会席料理を食べ慣れている人は「いくらなんでもくずし過ぎでは」と眉をひそめるかもしれないが、入門コースとしては十分ではないだろうか。またワンプレート会席は全てがつまみともいえるメニューなので、お酒をメインに食事を楽しみたい人にも喜ばれそうだ。

(ライター 桑原恵美子)

[日経トレンディネット 2015年8月27日付の記事を再構成]