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相続トラブル百科

海外資産フライトが「視界不良」になるとき 司法書士 川原田慶太

2015/9/11

 バブル期以降、日本では国家レベルでの財政破綻というテーマが語られるようになりました。長引く景気低迷や、歯止めのきかない負債の増加などが国家財政の破綻やデフォルトを引き起こすという予測が「ありえるかもしれない」と噂されるようになったのです。

 それに呼応するかのように、海外で金融資産や不動産などを購入したり、海外に移住したりする情報に多くの関心が寄せられるようになりました。それ以前から、資産規模が数十億、数百億円を超えるような「メガ富裕層」は海外にアプローチしていましたが、そうしたごく一部のアッパー層だけでなく、より多くの人々が「危ない」とされ始めた日本リスクを避けるための手立てを模索し始めたのです。

 時代の後押しもありました。インターネット技術の進歩によって現地情報に格段にアクセスしやすくなったことなどから、海外の金融機関などを利用することは昔より簡単になりました。日本の資産だけで構成されるポートフォリオに不安を感じた人が、「いまのうちに」と実際に行動に移すことがやりやすい環境になったのです。

 香港やシンガポールなどの金融ハブ都市に預金口座を開くとか、日本の都市部に比べて割安感のある新興国の不動産に投資をするなど、海外への資産移管の具体的な方法はそれぞれ異なっていると思います。どのようなものであれ、日本の財政破綻リスクを避けるために少なからぬ額の資産が海外に移転したことは事実でしょう。

 このような海外への資産フライトを行った人の中には、順調に航行を続けているところも多いでしょうが、なかには「航路の変更」や「予定外の着陸」を余儀なくされ、雲行きが怪しくなってきたようなケースも散見されるようになりました。

 海外資産には取得時の苦労もありますが、維持・管理をしていくのも日本国内の資産に比べると難しいことがあります。例えば、預金口座一つをとっても、こまめにメンテナンスをしていないと、すぐにネットからのアクセスが凍結されたり、キャッシュカードが使えなくなったり、口座維持という名目でコストを課金されたりすることが起こりえます。

 国内資産であれば多少のトラブルがあっても最寄りの窓口に駆け込むことで解決は見出しやすいのですが、海外の場合はそうもいきません。持ち主自身がコントロールしているときでさえこの調子ですから、いざ「万が一」のことが起こったときには、さらなる困難が待ち受けています。

 持ち主が認知症になって意思表示できなくなったり、死亡して相続が発生したりする状態になった場合、具体的にどうすればいいのか。ここが大きな問題点となってきます。

 海外への資産フライトを始めるときには、起こりうる事態にある程度、注意を払っていたとしても、ランディングするときのことまでは残念ながら計画していなかったというケースもあるのが現状でしょう。

 海外資産の場合、そもそも規定する法令も運用する制度も、日本とはまったく異なることを覚悟しておかなければなりません。日本のリスクを避けるために資産を移動させたのに、新たに別の国の手続きリスクが浮上するという可能性があるのです。

 次回も引き続いて、海外への資産フライトが後々引き起こす相続トラブルについて、もう少し具体的にみていきたいと思います。

川原田慶太(かわらだ・けいた) 2001年3月に京都大学法学部卒。在学中に司法書士試験に合格し、02年10月「かわらだ司法書士事務所」を開設。05年5月から「司法書士法人おおさか法務事務所」代表社員。司法書士・宅地建物取引主任者として資産運用や資産相続などのセミナー講師を多数務める。

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