ウォシャウスキー姉弟もネットフリックスへ
海外ドラマはやめられない!~今 祥枝
日本でもサービスが開始された、動画配信サービスのネットフリックス。米国ではすでにテレビと動画配信サービスは対立構図にはなく、共存という以上に動画配信サービスに依存する体制、あるいはドラマに関しては動画配信サービスが主力となりつつあるという見方もあります。
そうしたなか、画期的なオリジナル番組を量産しているネットフリックスから、驚きの新シリーズが登場しました。「マトリックス」シリーズなどで有名なウォシャウスキー姉弟(ラナ&アンディ)が、初めて手がけたテレビシリーズ『センス8』です。
世界各地にいる他人同士の8人が、ある日意思の疎通ができるようになります。このセンス・エイトと呼ばれる人々が謎の組織に命を狙われ、協力して敵に立ち向かうというのが大筋。設定的には『HEROES/ヒーローズ』に似ているかもしれませんが、スケール感はこれまでのテレビドラマの常識を超えています。
世界各地でロケを敢行
世界各地が舞台となっているのですが、なんと実際にロケ撮影を敢行。しかも、ベルリンとナイロビは『ラン・ローラ・ラン』のトム・ティクバ、ムンバイとメキシコは『Vフォー・ヴェンデッタ』のジェームズ・マクティーグなど、映画界で名の知られた監督が各パートを請け負い、それ以外をウォシャウスキー姉弟が担当しているというぜいたくさ。もちろん、これまでにもペイTVのHBOなどが時間も費用も破格、映画界のビッグネームを起用するなど映画的な作り方を追求してきました。
一方のネットフリックスも映画監督デヴィッド・フィンチャーの『ハウス・オブ・カード 野望の階段』で名をあげましたが、決定的に違うのは、フィンチャーらが映画で培ったノウハウを使ってあくまでもテレビシリーズを作ったのに対し、ウォシャウスキー姉弟は長編映画として作ったことでしょう。HBOと比較されることが多いながらも、まだかなわないといわれてきたネットフリックスですが、複数の優秀な映画界の人材を起用しながら12話(12時間)の映画を撮るというコンセプトと考えられる『センス8』は、スケール感といい作り方といい、HBOに匹敵するものです。またネットフリックスの新機軸であるといえます。LGBT(レズビアン、ゲイ、両性愛者、トランスジェンダー)の要素を色濃く含むテーマも今時ではあるし、スタイリッシュな映像はウォシャウスキー姉弟の本領発揮。内容はややハイブローなのでカルト作品といったほうがいいかもしれませんが、本作はネットフリックスの新たな方向性を示した作品として注目に値します。
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今月のオススメドラマ
『THE GAME』
冷戦期のロンドンが舞台のスパイ・サスペンス
1972年、ロンドン。KGB(ソ連国家保安委員会)の幹部の男がイギリスへの亡命と引き換えに、極秘任務「オペレーション・グラス」の情報をMI5(英国情報局保安部)に流す。既に国内に潜むスパイたちに命令が下っていると男が話したことから、MI5の長官「ダディ」は極秘チームを編成。謎に包まれた「オペレーション・グラス」の全貌を暴き、国家の危機を阻止しようとする。米ソ冷戦時代を背景にした本作は、英BBCで14年にシーズン1全6話が放送されたスパイ・スリラーだ。
ダディを中心とする7人から成る極秘チームは、行動分析と情報収集に長けたジョー・ラムほかMI5のスペシャリストに加え、ロンドン警視庁公安課の刑事ジム、防諜部長ボビーなど個性的なメンバーが勢ぞろい。スリリングなスパイ活動が本線ではあるが、それぞれが複雑な事情を抱えたメンバーの人間模様も見応えがある。
ミステリアスなジョー・ラムを演じるのは、映画『アバウト・タイム』などに出演しているトム・ヒューズ。バーバリーのキャンペーンモデルを務めた経歴もあるイギリスの新鋭だ。ダディを演じるのは、『ボーン・アイデンティティー』など映画を中心に活躍する演技派ブライアン・コックス。製作総指揮は、同局のヒットシリーズ『BEING HUMAN/ビーイングヒューマン』のトビー・ウィットハウスほか。
映画&海外ドラマライター。女性誌、情報誌、ウェブ等に映画評やインタビュー等を寄稿。「BAILA バイラ」「eclat エクラ」「日経エンタテインメント!」映画サイト「シネマトゥデイ」などに連載中。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)。
[日経エンタテインメント! 2015年9月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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