政策議論の場が失われた無風の総裁選(安東泰志)ニューホライズン キャピタル会長兼社長

2015/9/13

カリスマの直言

「自民党の総裁選が行われていれば、金融経済分野の幾つかの問題で議論を深めることができたはずだ」

自民党の総裁選は、安倍晋三首相(総裁)の無投票再選となった。しかし、仮に今回、総裁選が行われていたとしたら、何が争点になっていただろうか。もちろん、安保法制に関する法的安定性の問題、すなわち憲法の解釈を時の政権がどこまで拡大できるかなど、外交・安全保障問題が最大の争点だったとは思われるが、ここではあえて金融経済分野を中心に幾つかのポイントに絞って考えてみたい。

いわゆる「第1の矢」である、日銀による巨額の国債買い入れなどの量的・質的緩和は、原油価格下落の影響があるとはいえ、目標とする物価上昇率を達成していない半面、最近は乱高下してはいるものの、基調として急激な円安につながっている。その副作用として、輸入物価上昇を主因とした日用品や食品の値上げが消費者を直撃している。直近の国内総生産(GDP)統計でも消費の弱さが際立っており、これ以上の円安が是か非かは十分な議論が必要だろう。

この政策は「デフレマインドの払拭」という合言葉で進められているものであり、理想的には「経済の活性化→需給の引き締まり→賃金・物価の上昇」という経路(デマンド・プル・インフレ)を通じた緩やかなインフレ環境を実現することで経済の活性化を目指すものだ。しかし、政府・日銀の立場に立ってみれば、仮に単なる輸入物価インフレ(コスト・プッシュ・インフレ)であったとしても、ともかくインフレを起こせば名目GDPは増加するため、巨額の政府債務を対GDP比では低下させられるという一種の「麻薬」でもある。すなわち、国民負担による財政問題の解決にほかならない。

財政再建についての政府のコミットメントがないまま進められる金融緩和は、日銀による国債引き受けとの疑念を招きかねず、極端な円安と高いインフレ、金利の急騰などが発生し、現在でも輸入物価上昇により懐が傷んでいる国民に、さらなる負担を強いることになりかねない。これについて、そろそろ自民党内で十分な議論が必要ではないだろうか。

このように、「第一の矢」は、財政再建に対する政府のコミットメントとセットでなければ副作用が大きくなるリスクを伴う。2020年度までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化するという目標を堅持するのは当然だが、経済成長による税収増に過度に依存することなく、公共事業や社会保障費を含め聖域なき歳出削減を行う必要があるはずだ。

政府は17年4月に消費税率を10%に引き上げることを決めているが、プライマリーバランス黒字化目標の達成が困難と判断した場合には、躊躇(ちゅうちょ)なくさらなる消費税の税率アップを検討し、国民的理解を得た上で、20年度までに実現する、というくらいの強いコミットメントが必要なのではないか。こうした点については、自民党内にもいわゆる「財政再建派」といわれる方々もいるのだから、十分な議論がなされることが望ましい。

上記の問題と少し関連するが、日本の税制のあり方を巡っても、しっかりした議論が必要だ。日本の税収は直接税(所得税・法人税)に偏り、間接税である消費税の比率が低いままだ。しかも、個人の所得税の課税最低限が高い上、赤字法人が多いことなどを理由に、個人・法人とも全く税金を支払っていない納税者が非常に多い。

所得税の累進性は高く、相続税も異常に高い。このままでは、稼ぐ力のある有能な個人や法人が海外に流出し、日本の活力をそいでしまう恐れがある。幸いにして法人税の減税が議論の俎上(そじょう)に上ってきたが、その流れを推し進め、抜本的な直間比率の見直しを行いつつ、累進性の軽減や租税特別措置の大幅縮小を含む税制の簡素化を実施すべきではないか。保守政党である自民党の中でこそ、そろそろ的を射た議論がなされるべきだ。

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