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 日本の介護現場で働く外国人が増えている。かつては滞在期間中に介護福祉士の国家試験に合格できず帰国する例が目立ったが、最近は合格後も日本の施設で経験を積む人や、新卒で介護業界に就職し腕を磨く外国人留学生が出てきた。離職率が高く人手不足が深刻化する介護現場に、外国人が根付くにはどうすればいいのか。先進職場の知恵と工夫を探る。

 特別養護老人ホーム、みちのく荘(青森県むつ市)に8月6日、20代のベトナム人男女4人がやってきた。経済連携協定(EPA)の枠組みで来日した介護福祉士候補だ。最年少の男性、ファム・フィー・ハーイさん(23)は「3年後に介護福祉士の国家試験に合格するため、がんばる」と意気込む。

2008年から受け入れて、外国人は現在7人が働く。12月にはインドネシア人がもう1人加わる。運営元の社会福祉法人、青森社会福祉振興団(同)の中山辰巳専務理事は「人手不足が深刻化する中で、外国人スタッフなしに介護現場は成り立たなくなる」と話す。

介護福祉士の国家試験に合格しても日本の施設で働き続けるリアネスさん(横浜市のみなみの苑)

介護福祉士の国家試験に合格しても日本の施設で働き続けるリアネスさん(横浜市のみなみの苑)

介護現場で働く外国人をめぐっては、不十分な日本語能力などが指摘されてきた。だが中山専務理事は「日本語が完璧でなくても、利用者と信頼関係を築けた外国人に任せられる業務はたくさんある」と強調する。みちのく荘では緊急時の対応、夜勤、服薬、利用者の家族との連絡は日本語能力が不十分な職員に任せないなど明確に線引きし、現場の業務を進めているという。すでに7人が介護福祉士の国家試験を受け、全員合格した。

「どうやって日本の介護福祉士の国家試験に合格できたの?」「日本の物価は高い?」。母国フィリピンで開かれた海外職場の合同説明会で、現地の志願者らからの質問に答えるのは、みなみの苑(横浜市)の男性介護福祉士、リアネス・ポールデビッドさん(27)だ。

現地の大学を卒業して看護師の資格を取り、EPAに基づき09年に来日した。みなみの苑で介護の知識と技術を身につける傍ら日本語を勉強し、13年に介護福祉士の国家試験に1回で合格したエリートだ。日本語能力は上から2番目の上級レベルになり、昨年からは施設長らと母国を訪れ、職場で受け入れる人材選びを手伝う。「責任ある仕事を任され、前よりもやりがいを感じるようになった」という。

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日本は08年にEPAの枠組みで外国人の介護福祉士候補を受け入れ始めた。施設で4年間働きながら介護福祉士の国家試験に合格すれば、滞在期間に制限なく働き続けられる。インドネシアやフィリピンに続き、14年からはベトナムとも始まり、2千人超を介護現場で受け入れている。

日本の大学を卒業後、セコム医療システムに就職した中国出身の張さん(神奈川県鎌倉市のセコム在宅総合ケアセンター鎌倉)

日本の大学を卒業後、セコム医療システムに就職した中国出身の張さん(神奈川県鎌倉市のセコム在宅総合ケアセンター鎌倉)

こうしたEPAではなく、留学生として来日し、卒業後に介護業界に入る外国人も現れている。留学先の昭和女子大学を卒業し、セコムグループのセコム医療システム(東京・渋谷)に12年に入社した中国人女性社員、張杭さん(33)はその一人だ。

「はい、体温と血圧を測りましょうね」。セコムシニア倶楽部鎌倉(神奈川県鎌倉市)のデイサービスを訪れた高齢者を笑顔で迎え、体温と血圧を手際よく測っていく。利用者からは「張さんはいつも笑顔で熱心」(80代の男性)、「一緒にいると私も元気になる」(80代の女性)と現場にすっかりなじんだ様子だ。

東京や千葉などに18カ所ある業務提携先の病院では、40人に上る看護分野の外国人をEPAの枠組みで受け入れている。「資質のある人材なら、看護だけでなく介護分野でも外国人社員に力を発揮してもらいたい」(武石嘉子取締役)と張さんら2人の中国人を採用し、介護現場で経験を積む。給料は「国籍に関係なく同じ賃金体系で払っている」という。

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ただ、介護業界に就職する外国人留学生が出てきたといっても、深刻な現場の人手不足の解消策にはなっていない。EPAによる外国人の受け入れはあくまで人材交流で、介護現場の人手不足を補う制度ではない。厚生労働省は団塊の世代のすべてが75歳に達する25年には、30万人超の介護スタッフが不足すると推計する。

政府は日本で働きながら技能を学ぶ「外国人技能実習制度」の対象に介護を追加する策を検討している。だが現場の期待が大きい半面、「人手不足を解消するにはまず介護福祉士の資格取得者が働きたいと思える処遇に改善することが先決」(日本介護クラフトユニオンの村上久美子副事務局長)との指摘は根強くある。

アジア全域に目を向ければ、韓国や台湾では日本を超える速さで高齢化が進む。20年には中国で日本の総人口を上回る約1億4千万人が高齢者になるとの推計もある。アジアの介護事情に詳しい介護事業操練所(神奈川県鎌倉市)の三上博至理事長は「すでにアジアで優秀な介護人材の争奪戦が始まっている。外国人に働きたいと思ってもらえる環境を整えなければ、日本に優秀な人材が来てくれなくなる」と話している。

(編集委員 阿部奈美)

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