アニメ発音楽がテレビを席巻、音楽市場の新しい中心に
日経エンタテインメント!
「ジャニーズ」と「アイドル」。現在の邦楽2大ジャンルに肉薄するのが、アニメ関連の音楽「アニソン」だ。今年上半期のシングルCDセールスTOP100をジャンル別割合で見ると、アニソンはアイドルに次ぐ第3のシェアを獲得。年明けに発表された2014年の年間売上メーカー別シェアでも、アニメ・ゲーム音楽専業のレコード会社ランティスが、73.9億円で前年14位から9位と躍進した。
音楽界で重要度が増すイベントでも、アニソンが存在感を発揮。日本最大のアニソンフェス「Animelo Summer Live」は3日間で約8万人が訪れるが、これは国内の音楽フェスの中で5本の指に入る動員力を誇る。
アニソンの楽曲は、「一般アーティストによるタイアップ」「アニソンアーティストによるもの」「声優関連」と大きく3つに分類されるが、そのどれもが好調。これまでアニメ音楽に積極的ではなかったトイズファクトリーやエイベックスが本腰を入れるなど、レコード会社も続々と参入している。
「LiSAさんや藍井エイルさんのファンは、J‐POPのお客さんと違いはなく、既にクロスオーバーしている感はあります」(テレビ朝日『ミュージックステーション』粟山淳ゼネラルプロデューサー)
セールスから動員まで、これらの数字が指し示すアニソン躍進の理由とは何か。トピックに分けて解説していく。
テレビ局やレコード会社が本格参戦
アニソンのニュースが多いなか、最近最も話題になったのは、2015年5月8日放送の『ミュージックステーション』(テレ朝系、以下『Mステ』)に、アニソンアーティストとしては初めて、LiSAと藍井エイルが出演したことだろう。続く7月10日でも、『ラブライブ!』の特集が組まれた。ゴールデン帯の地上波でフィーチャーされたことに、アニソンが限られたブームではないと感じた人も多いのではないだろうか。
この動きについて『Mステ』の粟井淳氏は、「メガヒットが出づらいなか、ここ数年アニソンには勢いを感じており、ずっとタイミングを見ていた」と明かす。「アニソンで最初に何をするかを考えたときに、番組のメッセージになると思って2組一緒に出ていただきました。視聴率では測れない部分で、ネットをはじめメディアの反響は想像を大きく超えた」と驚く。「『ラブライブ!』も、劇場に赴くと女性や子どももいて、一部の人だけのものじゃないと分かる。『Mステ』は、音楽のあらゆるジャンルの一番いいものをピックアップする、いわば幕の内弁当。こうした現象からもアニソンに可能性を感じるし、注目していきたいです」(粟井氏)。
一足早くアニメとの関わりを深くしていたNHKだが、中高生がターゲットの『Rの法則』でアニソンを度々特集。小嶺良輔プロデューサーによると、「視聴率の目標値を必ず超えるなど、関心度は高い」のだとか。「初めて視聴率が跳ねたのは、12年度末にFLOWに『NARUTO‐ナルト‐』のOP(オープニング曲)を歌ってもらったときでした。2015年2月、μ'sの出演後に500以上の再放送希望をいただきましたが、これはかなり多い数字」と証言する。
このほか、キー局主催のイベントへの招聘(しょうへい)など、今後もアニソンのテレビ界への席巻は続きそうだ。
アニメの力で海外展開が有利
広がりを見せるアニソン需要だが、長年携わってきた関係者からは冷静な見方も。「アニソンの市場規模はここ10年ほど変わっておらず、250億円前後。相対評価として、アニソンが注目されている状況」とは、アニプレックスの音楽部門を立ち上げた山内真治氏。
そこで、アニソンの第一線をいく作り手たちは、様々な展開を試みている。例えば、人気声優の花澤香菜は、実はアニメのタイアップは1回だけ。声質と表現力を生かす戦略で、アルバム3枚、シングル8枚を発売、支持を得ている。
海外進出も積極的だ。「デビュー当時からfacebookで発信したり、海外イベントに参加するなど地ならしをしてきましたが、今年いよいよアジアツアーに挑みます」とは、藍井エイルのA&R(アーティスト・アンド・レパートリー)を務めるSMEレコーズの長田洋氏。
「アニソンのおかげで、海外での知名度は高いです。CDセールスが厳しいなか、国内にプラスして、アジア各国でライブなど関連事業も含めて積み上げていければ」
人気バンドがアニソンへ&歌姫はアニソン発
GLAY、BUMP OF CHIKENなどの大物バンドがアニソンとの距離を縮めるなか、デビュー当時から積極的にアニメタイアップを行ってきたUVERworldも、売上ランキングで変らない強さを見せつけた。バンドサウンドとアニメの相性の良さは、過去いくつものバンドが立証してきたが、今最も勢いがあるのはUNISON SQUARE GARDENだ。テレビアニメ『血界戦線』のED(エンディング曲)『シュガーソングとビターステップ』は8万枚超をセールスし、ユニゾンにとって過去最高の売り上げとなった。
昨年末から今年にかけては、KANA‐BOONやBLUE ENCOUNTなどの期待の若手バンドも続々とアニメタイアップを決め、認知度を上げている。
人気の起爆剤としての期待も高いアニメタイアップだが、そのカギは"アニメ作品と楽曲の親和性"にあるといわれる。これについて、毎日放送でアニメ枠「日5」「アニメイズム」などを手がける丸山博雄チーフプロデューサーは、「アーティストの年齢が下がりアニメ・マンガ世代が増えた結果、アニメへの尊敬と理解が深くなり、いい好循環が生まれてきている」と見る。
「『血界戦線』『アルスラーン戦記』が直近の好例ですが、作品の中身に楽曲がハマれば、アーティストのファンもアニメのファンも喜ぶものになり、いい楽曲が来たら、当然アニメのクリエイターも負けない映像を作る。その切磋琢磨が今の作品・楽曲両方のヒットを後押ししています」(丸山氏)
3人の女性シンガーの誕生
アニソン界において女性アーティストの分野は、水樹奈々、茅原実里、坂本真綾ら、声優としても活躍するアーティストが長くトップに君臨していた。それがここにきて、女性ソロアーティストが続々と登場し、人気を獲得している。
LiSAを筆頭に、Aimer(エメ)、藍井エイルらがその急先鋒。そろって2011年にテレビアニメのタイアップを受けメジャーデビューを果たしている。
ポップだが骨太なロックサウンドに、パワフルで時にはかなさも表現できるボーカルがLiSAの持ち味。「例えば、UNISON SQUARE GARDENの田淵智也さんによるコール&レスポンス重視のライブ仕様の楽曲や、本人作詞ならではのグッとくる歌詞で、アニソンの枠を超えてもカッコいい作品を目指しています」とは、アニプレックスの音楽プロデューサー山内真治氏。今年の夏は「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」への出演が決定するなど、活躍の場はさらに広がりそうだ。
Aimerは、独特のハスキーボイスが武器。澤野弘之や菅野よう子ら、アニソンとのつながりが深いクリエイターとの楽曲制作にも積極的で、無二の世界観が特徴だ。
このほか、鈴木このみや春奈るななど実力派が後に控えており、歌姫たちからも目が離せない。
アニメ発アイドルが群雄割拠~歌だけでなくダンスも本格的
6月8日付のオリコン週間アルバムランキングで、『ラブライブ!』発のグループμ'sのベストアルバム『μ's Best Live! CollectionII』が1位を獲得したことは、音楽業界における声優アイドルグループの勢いを象徴する出来事となった。
こうした声優アイドルグループは、早くも群雄割拠を迎えており、今年10周年を迎えた元祖『アイドルマスター』を筆頭に、男性グループでは『うたの☆プリンスさまっ♪』発のST☆RISHが好調なCDセールスを記録している。そこにミルキィホームズやWake UP,Girls!などが続く。
この流れについて、MAGES.の太田豊紀社長は、「AKB48やももいろクローバーZを中心としたアイドルブームが、アニメにも確実に来ている」と印象を語る。また、「アイドルとアニソンの垣根がなくなったのが、近年のアニソン界の一番の変化」と話す音楽関係者も。楽曲も、各グループがアニメの世界観に沿って試行錯誤しており、多様性を持ったアイドルアニソンが、次々と発表されている状況だ。
声優が歌に加え本気で踊る
今のアニメ発のアイドルグループが、これまでのキャラソンと一線を画すのは、ライブにおけるパフォーマンス。CDの発売だけはなく、キャラクターを演じる声優によるライブを積極的に行うグループの数も増えており、μ'sやi☆Risのようにアニメ映像とシンクロしたステージを展開する、歌うだけでなく"踊れる"グループも誕生している。この勢いは動員にも顕著に表れている。日本武道館、さいたまスーパーアリーナはもとより、『アイドルマスター』シリーズがこの夏、西武ドーム2daysのライブを成功させるなど、年々規模は拡大している。
現在のブームは、女性声優によるアイドルグループがけん引しているところが大きいが、今後はST☆RISHに続く男性声優グループを主体としたアイドルグループの登場、また、積極的にライブ活動を行える存在ができれば、さらに大きな鉱脈となることは間違いないだろう。
(日経エンタテインメント! 平島綾子、ライター 山内涼子、ランキングデータ作成 つのはず誠)
[日経エンタテインメント! 2015年9月号の記事を再構成]
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