ナショジオ

睡眠

夜勤の心得5カ条とは 体内時計はそのままに

2015/9/22

ナショナルジオグラフィック日本版

 睡眠研究という仕事柄、夜中に検査や実験をすることが多い。一段落ついて家路につくと深夜になることもしばしばだ。

 私が研修医だった20数年前は、コンビニの数も少なく、夜中に開いているスーパーやファミレスなどごくわずか。小腹がすいてもカップラーメンをすするのが関の山であった。今では夜間営業の店が至る所にある。深夜だろうが、明け方だろうが、食べ物に困ることがない。

■就労人口の3分の1が交代勤務に

 ほかにも、映画館、カラオケ、漫画喫茶、銭湯や美容院などなど業態も実に多種多様。このような便利生活を支えているのが夜勤(交代勤務)の従事者である。今や就労人口の約3割が何らかの交代勤務に就いている。そしてその約3分の2が22時から5時にかかる、いわゆる夜勤に従事している。24時間、365日、いつでも誰かが誰かのために働いている。働く人がいればその子供をみる深夜保育の職員もいる。まさに夜勤の連鎖である。深夜保育士の子供はダレが面倒をみているのだろう……。

(イラスト:三島由美子)

 講演会などでは24時間社会、夜型社会への警鐘を鳴らすこともあるが、我ながら「建前論だなぁ」と思う。この便利な生活を捨てられるかと問われれば、全く自信が無い。昨晩だって深夜2時過ぎだというのにコンビニに搬入されたばかりのおにぎりとサンドイッチを「夜中にお仕事、お疲れ様でーす」と感謝しつつ購入したばかりだ。

 欲しいときに手に入る便利さを知ってしまった以上、もはや以前のように大部分の人が「昼に働き、夜中は寝る」社会に戻ることはないと思う。だとすれば、労働者の健康にとってできるだけ優しく、持続可能な働き方を模索した方が現実的なのだろう。

 では「どうすれば安全かつ効率的に夜勤を行えるか?」

 この命題については多くの研究が行われてきた。そして得られた結論は「よい方法など無い」。なんとも身も蓋もない話であるが、日勤と遜色なくとはいかないまでも、ある程度リスクを低減することは可能である。もう少し詳しく解説しよう。

■病気にかかるリスクが増大か

 夜勤が健康に与える影響には中長期的なものと短期的なものの2種類ある。

(C)PIXTA

 中長期的な影響の中で最も深刻なのは生活習慣病やがんに罹患するリスクの増大だ。夜勤に従事してから5~10年ほどで糖尿病や高脂血症などの生活習慣病のリスクが、10年以上の勤務で直腸がん、子宮がん、乳がん、前立腺がんなどのリスクが高まるとされる。2007年にWHOの関連機関である「国際がん研究機関」は「交代勤務に発がん性あり」と認定したので一時大騒ぎになった。

 デンマークでは長期間夜勤に従事した女性が乳癌に罹患した際に労災認定されたことも話題になった。ただし、中長期的な影響については発症メカニズムや対策法など今後さらに調査研究が必要である。対象となる労働者の数が莫大であるため、パンドラの箱になりかねない。24時間社会の抱える公衆衛生上の問題として座視できない問題として急浮上しつつある。

■夜間に効率よく働くこと自体が無茶な話

 一方、短期的な影響には勤務中の眠気や夜勤明けの不眠のほか、作業能率の低下による産業事故の問題などがある。夜勤従事者の約半数がこれらの睡眠に関連した問題で悩んでいる。短期的とは短期間しか持続しないという意味ではなく、夜勤に入ると即時的に現れてくる健康問題という意味である。夜勤が続く限りこれらの問題から逃れることはできない。今回は夜勤者にとって身近な眠気の問題について考えてみる。

 このコラムでは何度も説明しているが、しっかりした目覚めや質の良い睡眠を得るためには、就床時刻と睡眠を支える自律神経やホルモン分泌など数多くの生体機能のリズム(タイミング)がうまくマッチしている必要がある。

 体内時計は「夜に眠気が強くなる」、「昼に目が覚める」ように常に脳と体に働きかけている。したがって夜間時間帯に効率よく仕事をしようということ自体、無茶な話である。であればと、「夜勤の日だけ体内時計の時刻を昼夜逆転できないか?」という対策が頭に浮かぶ。睡眠問題をよく勉強している労務管理の担当者の方々からも質問を受けるのだが、これは非常に難しい。

 最大の理由は体内時計の調整にはかなり時間がかかること。夜勤時間帯に眠気もなく活発に仕事ができるようにするには丸々12時間近くも体内時計をずらす必要がある。夜勤に体内時計を合わせるには3週間程度を要するのだ。

■体温低下のリズムと睡眠の関係

 眠気や睡眠に大きな影響を及ぼす深部体温(脳の温度)を例にして説明しよう。

日勤と夜勤時の深部体温のグラフ。横軸は時刻。夜22時から朝6時までの夜勤を3週間続けたときの変化を示している。体内時計の影響が大きく、3週間経っても軽度ながら夜勤後半に深部体温の低下が認められる。(イラスト:三島由美子)

 日勤時には勤務中の深部体温が高く、睡眠中に低くなる(図上段)。そのまま夜勤に入ると、就業時間中に深部体温は低下してしまう(図中段)。これでは眠気が強く、能率も上がらない。逆に夜勤明けの睡眠時には横になったことで若干体温は下がるが(見かけ上の低下で体内時計はまだほとんど動いていない)、日勤時の夜のように大きな体温低下が生じないため睡眠の質も悪くなる。

 体調不良を我慢して、3週間ほど夜勤を続けていると、ようやく深部体温リズムが12時間ずれて夜勤に合わせたコンディションが概ね完成する(図下段)。それでもまだ完全には体内時計の時刻は逆転していない。夜勤後半になると軽度ながら深部体温の低下が認められている。かように体内時計というのは“頑固”なのである。

 そもそも、3週間も夜勤を続ける人がどれだけいるだろうか。さらには、夜勤向けに整えられた体内時計はどうなるだろうか。

 海外では数週間~数カ月間続く恒常的な夜勤シフトもあるものの、日本ではかなり珍しい。2交代や3交代など夜勤のパターンによっても異なるが、月に5~8回(週に1~2回)程度の夜勤が一般的である。そのような散発的な夜勤に合わせて体内時計を動かそうとしても到底間に合わない。強い光を特定の時間に長時間浴びるなど、もう少し速く時刻を合わせられる特殊な方法を用いても最低数日かかる。

■悩ましいのは中途半端に長い夜勤

 たとえうまく体内時計を夜勤時刻に合わせられたとしても、夜勤明けが問題である。1週間の大部分は昼に起きて夜に寝ることになるので、かえって不都合が生じる。1晩か2晩しか続かない夜勤のために体内時計を調節するのは合理的ではないのである。

 悩ましいのは中途半端に長い夜勤である。ある自動車メーカーでは1週間の日勤と夜勤を交代で行っていると聞いた。これは珍しいスケジュールである。いろいろな理由があるのだろうが、睡眠医学的にはよろしくない。

 1週間もあれば体内時計がそれなりに夜勤に合わせて動いてしまうが、その効用が十分に得られる前に日勤に戻ってしまうからである。日勤時も夜勤時も中途半端な時差ボケ状態が持続する最悪のコンディションになりかねない。その地域の多くの関連企業が自動車メーカーに合わせて同じシフトを組んでいるとのことで影響は甚大である。

 そこで、最も一般的な週に1~2回程度の夜勤に従事する際の心得としては、以下の通りだ。

(1)体内時計は日勤に合わせて固定する

(2)夜勤時の眠気には仮眠やカフェインで対処する。特に若者には仮眠が効果大

(3)夜勤中の仮眠は体内時計の時刻を安定化させる効果もある

(4)ただし眠気がとれてもパフォーマンスも向上しているとは限らないことに留意する

(5)夜勤明けの運転も要注意

 夜勤中の眠気対策、夜勤明けの不眠対策の詳細については、次回、夜勤が苦手なトリ君を相手に補講を行う予定である。

(イラスト:三島由美子)
三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2015年8月6日付の記事を再構成]

8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識

著者:川端 裕人, 三島 和夫
出版:日経BP社
価格:1,512円(税込み)

【関連キーワード】

夜勤国際がん研究機関体内時計

ナショジオ新着記事

ALL CHANNEL