2015/9/22

デンマークでは長期間夜勤に従事した女性が乳癌に罹患した際に労災認定されたことも話題になった。ただし、中長期的な影響については発症メカニズムや対策法など今後さらに調査研究が必要である。対象となる労働者の数が莫大であるため、パンドラの箱になりかねない。24時間社会の抱える公衆衛生上の問題として座視できない問題として急浮上しつつある。

夜間に効率よく働くこと自体が無茶な話

一方、短期的な影響には勤務中の眠気や夜勤明けの不眠のほか、作業能率の低下による産業事故の問題などがある。夜勤従事者の約半数がこれらの睡眠に関連した問題で悩んでいる。短期的とは短期間しか持続しないという意味ではなく、夜勤に入ると即時的に現れてくる健康問題という意味である。夜勤が続く限りこれらの問題から逃れることはできない。今回は夜勤者にとって身近な眠気の問題について考えてみる。

このコラムでは何度も説明しているが、しっかりした目覚めや質の良い睡眠を得るためには、就床時刻と睡眠を支える自律神経やホルモン分泌など数多くの生体機能のリズム(タイミング)がうまくマッチしている必要がある。

体内時計は「夜に眠気が強くなる」、「昼に目が覚める」ように常に脳と体に働きかけている。したがって夜間時間帯に効率よく仕事をしようということ自体、無茶な話である。であればと、「夜勤の日だけ体内時計の時刻を昼夜逆転できないか?」という対策が頭に浮かぶ。睡眠問題をよく勉強している労務管理の担当者の方々からも質問を受けるのだが、これは非常に難しい。

最大の理由は体内時計の調整にはかなり時間がかかること。夜勤時間帯に眠気もなく活発に仕事ができるようにするには丸々12時間近くも体内時計をずらす必要がある。夜勤に体内時計を合わせるには3週間程度を要するのだ。

体温低下のリズムと睡眠の関係

眠気や睡眠に大きな影響を及ぼす深部体温(脳の温度)を例にして説明しよう。

日勤と夜勤時の深部体温のグラフ。横軸は時刻。夜22時から朝6時までの夜勤を3週間続けたときの変化を示している。体内時計の影響が大きく、3週間経っても軽度ながら夜勤後半に深部体温の低下が認められる。(イラスト:三島由美子)

日勤時には勤務中の深部体温が高く、睡眠中に低くなる(図上段)。そのまま夜勤に入ると、就業時間中に深部体温は低下してしまう(図中段)。これでは眠気が強く、能率も上がらない。逆に夜勤明けの睡眠時には横になったことで若干体温は下がるが(見かけ上の低下で体内時計はまだほとんど動いていない)、日勤時の夜のように大きな体温低下が生じないため睡眠の質も悪くなる。

体調不良を我慢して、3週間ほど夜勤を続けていると、ようやく深部体温リズムが12時間ずれて夜勤に合わせたコンディションが概ね完成する(図下段)。それでもまだ完全には体内時計の時刻は逆転していない。夜勤後半になると軽度ながら深部体温の低下が認められている。かように体内時計というのは“頑固”なのである。

そもそも、3週間も夜勤を続ける人がどれだけいるだろうか。さらには、夜勤向けに整えられた体内時計はどうなるだろうか。

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悩ましいのは中途半端に長い夜勤
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