この秋訪れたい美術館 建築・景色・グルメも楽しむ

2015/9/6

おでかけナビ

美術館は収蔵品を見るためだけのものではない。建築家の思いが託された建物、都会の喧騒(けんそう)を忘れさせる景色、そして鑑賞後のグルメ……。そんな新たな楽しみも提供してくれる美術館が、全国で人気を集めている。この秋、おとなのための美術館を訪ねる旅に出かけよう。
県産の杉材などを使った大分県立美術館(大分市)の展示室

4月、日本を代表する建築家である坂茂の設計で誕生した大分県立美術館(大分市)。県産の杉、畳の材料「七島イ」、日田石をふんだんに使った建物はスタイリッシュ。素晴らしいのは、この建築が人々の過ごし方まで想定していることだ。

コンセプトは「開かれた美術館」。テーブルが配され自由にくつろげるアトリウム、アート関連の書籍が並ぶライブラリーなど無料で使えるスペースが多い。「今日は美術鑑賞」と構えず、ふらりと立ち寄り、気ままに過ごすうちにアートがすぐ横に寄り添っている。そんな親密な空気が心地いい。

フリースペースに展示されたアートは現代作家の作品だが、難解さは皆無。オランダのアーティスト、マルセル・ワンダースの巨大なバルーンアートは自由に触れられる。アトリウムの中空にはハスを模した円柱状の物体。これも作品の1つで、不思議な浮遊感が日常の慌ただしさを忘れさせてくれる。

館内のカフェも坂がデザインした。坂建築の特徴である筒状に紙を丸めた「紙管」が店内随所に使われている。秋のお薦めメニューは、地域の特産品シラスを使ったスパゲティ。素朴ながら心を引く味わいだ。

足湯につかって自然の中で美術を鑑賞(神奈川県箱根町の岡田美術館)

「ショコラティエがいる異色の美術館」として注目されるのが、神奈川県箱根町の岡田美術館だ。2013年の開業以来、実業家の岡田和生さんが収集した近世・近代の日本画や浮世絵など東洋の名品を企画展、常設展で見せている。

日本の埴輪(はにわ)や中国の青銅器などが並ぶ1、2階の展示室は、かなりの暗がり。「作品が暗闇に浮かび上がっているように見せたい」という意図によるものだ。3階は目にもまばゆい長谷川派らの金屏風が壁の両面に並ぶ日本画などのエリア。収蔵品の中核を成す琳派の名品が登場するのは2階と4階。桃山時代から現代までの日本美術を一挙に通観できる。

お待ちかねの逸品は、鑑賞後に。この秋、「ブルガリ イル・チョコラート」のマスターショコラティエも務めた三浦直樹さんが作り上げたのは、展示中の尾形光琳「菊図屏風」と見まがうほど華やいだチョコレート。安納芋とサフラン、ゆずとマスカルポーネ、さらにはマツタケとカボチャなど秋らしい食材の組み合わせの妙を楽しめる。

展示室以外の利用は無料(和歌山県田辺市の熊野古道なかへち美術館)

熊野古道なかへち美術館(和歌山県田辺市)は、建築業界のノーベル賞といわれる「プリツカー賞」を受賞した日本人建築家ユニット、SANAAが初めて世に送り出した美術館だ。熊野本宮へと向かう古道のひとつ「中辺路」の中間、川のせせらぎと野鳥のさえずりの音だけが響く静寂な地にある。ガラスを多用した軽やかな現代建築が、水墨画のような幽玄で幻想的な熊野の景観と溶け合う。

ガラスの壁面には白や黒の外壁パネルを挟み込んだ。色を混ぜ込むことでガラスは柔らかなカーテンのような印象に変わる。回廊の壁にも光沢ある樹脂を用いて景色を映り込ませ、外との“距離”を縮めた。展示室は1つ。熊野ゆかりの日本画家、野長瀬晩花と渡瀬凌雲の作品などを鑑賞できる。

床のライムストーンに天井と景色が映り込む(滋賀県甲賀市のMIHO MUSEUM)

琵琶湖の南、緑深い山中にあるのがMIHO MUSEUM(滋賀県甲賀市)。長さ120メートルのつり橋の先の美術館棟は、幾何学模様のガラスの天井から自然光が差し、雲の流れや日差しの加減で空間の表情が変化。モダンなガラス使いだが、かやぶき屋根を思わせる外観だ。

建物は全体の8割を地中に埋設し、建築前の植生を復元したという。設計はルーヴル美術館のガラスのピラミッドなどを手がけたI・M・ペイ。彼の設計や美術品を見ようと、来館者の約3割は海外から訪れる。常設展示はエジプトや中近東、中国などの古代美術が中心だ。

アート鑑賞にプラスαの楽しみを提供してくれる美術館はほかにも数多い。秋の休日に訪れれば、心とからだを存分に潤してくれそうだ。

(「日経おとなのOFF」10月号の記事を再構成)

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