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経済危機のギリシャで市民による盗掘が急増

2015/9/5

ナショナルジオグラフィック日本版

アテネを訪れ、パルテノン神殿の写真を撮る観光客。観光業は低迷し、ギリシャ経済は巨額の負債を抱えて困窮するなか、一部の国民は生活費を稼ぐために盗掘に手を出している。(PHOTOGRAPH BY KOSTAS TSIRONIS, BLOOMBERG/GETTY)

ギリシャでは新しいタイプの犯罪が急増し、警察が取り締まりに手を焼いている。それは、これまで犯罪とは無縁だった一般市民による盗掘だ。

金属探知機の許可申請が急増しているのは、そのためだと関係者はみている。金属探知機は古代の貨幣や遺物を探すのに用いられることから、ギリシャ政府は探知機の購入をすべて監視し、通常は犯罪歴のない申請者にのみ許可証を発行している。「申請者数が増えている背景には、この国の経済危機があると思います」と、アッティカ公安警察のエブゲニオス・モノバシオス警部補は話す。

ギリシャの経済危機が過去5年間で急速に深刻化するなか、ギリシャ先史古典文化財局の捜査担当者たちは、考古学的な遺物の盗掘や盗難が増えただけでなく、盗掘者の横顔も変化してきたと考えている。

ギリシャ危機以前、ほとんどの盗掘者は銃や麻薬を密輸する犯罪ネットワークに属していることが多かった。だが今では、普通の人々が現金を手に入れるために発掘用の道具を持ち、古代ギリシャの遺物を掘り起こし、売り飛ばすようになっているのだ。

■警察は人手不足

国の遺産を守るべき各機関は、政府の財政削減によって予算不足と人手不足に直面している。「もっと人員が必要です」。モノバシオス警部補は、盗掘の防止と取り締まりに専念している捜査官はギリシャ全体で60人くらいだろうと推定している。各地の地元警察と協力することで捜査能力は高まるものの、広大で多様な地形が広がるギリシャ全域を取り締まるのは、並大抵のことではない。(参考記事:「ギリシャの墳墓に描かれた冥界の女王」)

「軍隊でも投入しなければ、すべてに対処できません」と、先史古典文化財局のエレナ・コルカ局長は言う。「ギリシャで古代遺物を見つけるなという方が無理な話です。文字通り、至る所に転がっていますから」

盗掘された古代の像。ギリシャの農業労働者2人が違法に掘り出し、外国人バイヤーに1000万ユーロで売り飛ばそうとしたところを逮捕された。(PHOTOGRAPH BY THANASSIS STAVRAKIS, AP)

関係する各機関は、潜入捜査から国際交渉まで、あらゆる戦略を用いて盗掘の取り締まりにあたっている。モノバシオス警部補が率いる捜査チームは、疑わしい人物に関する情報収集、強制立ち入り捜査、盗掘ネットワークへの潜入捜査を担当し、考古学の博士号を持つコルカ局長は、この問題に対する社会的な関心を高める教育キャンペーンの監督と、国外へ流出した盗難品の追跡や返還を担当するチームの責任者を務めている。

ギリシャは現在、文化遺産保護をめぐって大きな課題に直面している。古代遺物はあふれるほどあるのに、それを守る人材が不足している。ブラックマーケットでは古代遺物の需要が高く、経済危機の影響で盗掘に手を染める人が急増している。

■27億円相当の遺物も

違法にギリシャから持ち出された文化財が見つかることもある。たとえば、アトス山のディオニソス修道院から盗まれたビザンチン帝国時代の写本が2014年と2015年に米国のゲティ美術館とデューク大学で見つかった。また、2011年にアッティカで押収された新石器時代キクラデス文明の置物や船、像の一部は、2000万ユーロ(約27.5億円)近い価値があると見積もられている。

無事に発見され、本国に返還されるケースがある一方で、膨大な数の遺物がギリシャの国境を越えて、個人のコレクションに加えられているのも事実だ。

この流れを止めるのは容易なことではない。モノバシオス警部補たちは、密通者や税関職員、沿岸警備隊、偵察員、密売ネットワークに潜入する捜査官たちから情報を集め、立件する。次に、捜査官がバイヤーを装って密売業者に近づくおとり捜査や、強制捜査によって遺物を取り戻し、関係者を逮捕する。

押収された遺物は、3人の考古学者から成る委員会で鑑定され、それぞれの真贋(しんがん)、年代、用途、価値が確定される。盗掘には、自動的に10年の懲役刑が科せられる。遺物に15万ユーロ(約2000万円)を上回る価値があるとみなされれば、刑はさらに重くなる。

■莫大な富を夢見て

モノバシオス警部補とバビス・メリスタス巡査部長は、盗掘ネットワークの解明に取り組んでいる。どのような人間が関わっていて、どのように機能しているかを突き止めるのだ。最初に登場するのは、遺物が眠っていそうな場所を調べ、実際に掘り起こす人間だ。これには、農業従事者や畜産業者、土木作業員などが関わることが多いと言う。

「人々は神話に出てくるような莫大な富を夢見ているのです」と、メリスタス巡査部長は話す。しかし、実際に土を掘る人々が手にする報酬は、その遺物の最終的な価格と比較すると、実に少ない額だ。最近見つかった女性の像も、ギリシャ人の盗掘者たちが手にした額は5万ユーロ(約686万円)だったのに対し、最終的な売値は110万ユーロ(約1.5億円)にまでつり上がっていた。

ビザンチン帝国時代の新約聖書の写本。ギリシャの修道院から盗まれ、最終的に米国の美術館に買い取られていたが、2014年に返還された。(PHOTOGRAPH BY YORGOS KARAHALIS, REUTERS/CORBIS)

盗掘はほとんどの場合、人目に付きにくい夜間に行われる。遺物が発見されると、見つかりにくい別の場所へ埋められるか、隠される。羊小屋に隠されていた例もあった。その後は、出所を隠すために合法的に商売をしている中間業者へ持ち込まれる。

陶器や像は、小さく割られることが多い。国境を越えて運んだり隠したりするのに便利だという理由もあるが、一部を残して売り渡した後で、最後の欠片を高い値段で売りつけるという戦略にも使えるためだ。

モノバシオス警部補は、盗掘を減らす最も効果的な方法は、人々への教育だと考えている。金になりそうな遺物を目当てに遺跡が荒らされることで、失うものがどれだけ多いかをしっかりと教えるのだ。遺跡から知ることができる、人口や食生活、病気、商業活動などのさまざまな科学的な情報が失われる以上に、計り知れない大きな損失をもたらすことになる。

「盗掘は、未来の世代が自分たちは何者であるかを知る機会を奪ってしまいます。経済危機は、おそらく一時的なものでしょう。しかし、盗掘による負の影響は永久に残るのです」

(文 JNick Romeo、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2015年8月20日付]

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