認知症疑いの親を、上手に受診させるには?
認知症、早期発見のコツ
早期発見が大切な認知症だが、症状がかなり進まないと気付かれないケースが多い。
「例えば親の場合、同居していれば変化に気付く機会もありますが、1年に1回か2回帰郷する娘・息子ではなかなか分からないでしょう」と、川崎幸クリニック院長の杉山孝博さんは話す。
同居していなくても分かる兆候はないのだろうか。判断に役立つチェックリストの一つが、「認知症の人と家族の会」が作成した「家族がつくった認知症早期発見のめやす」(下記参照)だ。
これら20個のチェック項目を念頭に置きつつ、「最近あったことなどについて話をよく聞いたり、たまに会ったときによく観察したりすれば、変化に気付くことがある程度は可能です」(杉山さん)。
当てはまる項目がいくつかあれば、認知症の疑いが強いので、一度病院で詳しい検査をしてもらうといいだろう。
認知症の人を受診させるコツ
認知症の疑いがあると気付いたものの、「自分は病気ではない」と思っている親などを医療機関に連れて行くのは、本人の反発を招くこともあり大変だ。何か、いいコツはないのだろうか。
「本人に説明して納得が得られた上で受診するのが一番望ましいですが、納得しないケースも多いものです。その場合、認知症の特徴に合った、いろいろな工夫が必要です」と杉山さんは話す。
杉山さんが勧めるコツをいくつか紹介する。
(1)できるだけ抵抗の少ない科を受診する
認知症専門の診療を受けるには、通常は「物忘れ外来」や「精神神経科」「神経内科」などを受診するが、初期の認知症の人は、「精神神経科」に強い抵抗があるので、「物忘れ外来」「老年科」「心療内科」「神経内科」などで一般的な診断を受けてから、認知症専門の診療に移行するとよい。認知症専門医を受診したい場合は「日本認知症学会」のホームページ(http://dementia.umin.jp/g1.html)から検索できる。
(2)「私の健康診断に付き合ってください」とお願いする
あらかじめ医療機関に話をしておき、名前を呼ぶときに本人の名前ではなく付き添いの名前を呼んでもらい「ご一緒にどうぞ」と呼び入れてもらう。まず形だけ、介護者の診察をして、「せっかくですから血圧を測りましょう」というようにして本人の診察に移ると受け入れてくれる場合が多い。医師の協力、演技力が必要となるが、杉山さんはこの方法でうまくいくことが多いという。
(3)訪問診療をしてもらう
「○歳以上の方を対象に、訪問の健康診断をしていますが、診察させてもらってもよろしいですか?」と医師がいえば、拒否する人は少ないという。
(4)「保健所に健康診断に行きましょう」と誘う
認知症相談をしている保健所に誘うのも一手段。病院よりも抵抗がなく受け入れやすい。ただし保健所ではCTやMRIの検査はできないので、保健所から、病院への受診を薦めてもらう。
(5)かかりつけ医に「知り合いのよい先生を紹介しよう」と薦めてもらう
かかりつけ医に協力してもらい、紹介状まで渡されると大部分の人は従うものである。
(6)頭痛、だるいなどの身体症状をきっかけに受診する
頭が痛い、だるいなど身体症状を訴えるときに、担当医に協力してもらい、本当は風邪による頭痛であっても、「頭の検査もしておいた方がいい」と認知症とは言わずに検査してもらう、あるいは専門医を紹介してもらう。
他に受診時の工夫として、落ち着きがない人の場合は付き添いを2人にする、家族の言うことをなかなか聞いてくれない場合は、ヘルパーやソーシャルワーカーなど家族以外の人に付き添ってもらう、受診日をあらかじめ言わないで当日の朝、「予約しているので行きましょう」と言うなど、その人の性格や状況によって対応するとうまくいくことが多いと、杉山さんはアドバイスする。
(伊藤左知子=医療ジャーナリスト)
杉山孝博(すぎやま たかひろ)
川崎幸(さいわい)クリニック院長
1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院での内科研修を経て75年川崎幸病院に内科医として勤務。87年より川崎幸病院副院長に就任。98年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立し院長に就任、現在に至る。公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。「認知症・アルツハイマー病早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)など著書多数。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。