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死後の伝言をネットに 人生の軌跡、何を残すべきか

2015/8/30

 自分の死後、パソコンやインターネット上に残したデータはどうなるのか。人生の最期に備える「終活」で、情報技術(IT)関連の備えが見過ごせない課題になっている。

 都内の会社経営の男性(56)は昨年、あるネットサービスの利用を始めた。妻へのメッセージをあらかじめ登録する。内容は口座を持つ銀行や会社関係の書類のありかといったこと。不慮の事故などで自分が死亡したら、妻に電子メールが届く仕組みだ。「今はまだ妻にも見られたくない情報があるが、死後に迷惑はかけられない」と話す。

 これはヤフーが2014年に始めた「Yahoo! エンディング」。利用者が死亡すると、遺族から公的証明書で確認したうえで有料サービスを自動停止し、不要なデータを削除。最大200人にお別れのメッセージを送れるほか、ネット上のお墓にあたる「メモリアルスペース」に遺影なども残すことができる。

 「死後」に備えたIT関連のサービスは近年、開発が活発だ。アメイジングライフ(東京都武蔵野市)は2月、アイフォーン向けのアプリ「ウケツグ」を公開。口座を持つ銀行など資産に関する情報を、動画メッセージとともに指定した人に送れる。シーリス(大阪市)が開発したソフト「僕が死んだら…」は遺族に見られたくないパソコン内の不要な画像やデータを利用者の死後に消去してくれる。07年の公開以来、数万件以上がダウンロードされた。

 インターネットの普及本格化から約20年。総務省の推計によると、国内のネット利用率は82.8%に達した。02年の調査と比べると、これまで利用率が低かった60歳以上の高齢者層で伸びが目立つ。

 利用の幅も広がっている。銀行通帳などのペーパーレス化で財産をネットで管理する人が増えた。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)も交友関係には欠かせない。半面、パソコン内やネット上のデータは本人が亡くなると周囲が手を付けにくい。取り扱いにも生前から注意が必要になってきている。

 「皆様のご多幸を祈念しております。さようなら」。13年に死去したNHK元記者、近藤彰さん(享年65)のブログ「どーもの休日」には本人のお別れの言葉が今も残る。

 近藤さんは定年退職後の12年に膵臓(すいぞう)がんが発覚。長女のまり子さん(31)に勧められブログで闘病記をつづり続けた。お別れの言葉は、死を予感した近藤さんが家族に託したものだ。ブログのコメント欄には「立派な幕引きの仕方を教えてくださり、ありがとうございました」などと追悼の言葉が並ぶ。

 同じ病気に苦しむ患者や家族の力になりたいという故人の希望で、ブログは閉鎖せずに残し続けている。近藤さん自身も「私は亡くなったあともエキサイトブログの中では生き続けることになる。そして少しは世の中のお役に立つことが出来る。幸せなことである」とつづっている。家族への思いなども書き残されており、まり子さんは「これからも人生の節目節目で読み返していきたい」と話す。

 IT終活に詳しいライターの古田雄介さんは「ネットは世界をつなぐだけでなく、過去の声を現在につなげる機能もある」と指摘する。急死した芸能人のブログに死後何年たってもファンが追悼のメッセージを寄せるケースも。上智大学の島薗進特任教授(宗教学)は「地縁や血縁が薄れて既存宗教の存在感が弱まる中、ネットは追悼の新たな受け皿になっている」とみる。

 ネット上に残した人生の軌跡は、扱い次第で周囲に迷惑をかけることもあれば、深い感銘を残すこともある。多くの人は自分の死期を予見できない。死後に何を残すか、事前の準備と取捨選択が肝要になりそうだ。

 ツイッターやブログでも、IT関連の終活が話題に。取り上げた報道を見て「まったく思ってもみなかったことなので少々面食らってしまいました」「故人のデジタル情報を開く行為は、まさにパンドラの箱を開けることと同じくらいの衝撃があるかも」と危機感を抱く声があった。

 自分の死後のSNSの扱いは「フェイスブックやツイッター、LINEを死後ばらまかれたりするからなぁ」との懸念の一方で「私の死後もツイッターとブログを残してほしい」という意見もある。

 家族に引き継ぎたい情報をパソコンで管理するサービスに関しては「ネットにつながってたらその家の全てが一網打尽に持ってかれそうなソフトだけど、大丈夫なんか?」と心配する書き込みも。利用するなら信頼できる業者を選びたい。調査はホットリンクの協力を得た。

(本田幸久)

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