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宇宙で最初に生まれた星、ファーストスターの謎に迫る

2015/9/13

ナショナルジオグラフィック日本版

「太陽の120億倍、説明不能なブラックホール発見」「あり得ないほど塵の多い初期銀河を発見」など、宇宙の話題はいつもニュースをにぎわせてくれます。地動説や宇宙の膨張、ダークマターなど、大きな発見があると宇宙観まで覆されます。そんな宇宙に関する大発見について、「どうやって発見されたのか」「なぜその発見が重要なのか」を詳しく解説します。

テーマ:宇宙で最初に重い元素を生み出し、現在の銀河を作る種をまいた、第一世代の大質量星たちの存在。

最初の発見:1970年代、宇宙の歴史には第一世代の星の存在が不可欠であることに気づいた。

画期的な発見:2002年、ダークマター(暗黒物質)の周りでファーストスターが誕生した経緯を、科学者たちが示した。

何が重要か:宇宙が現在の姿になるのに、ファーストスターは重要な役割を果たした。

原初の宇宙を照らす、最初に生まれた星の光を描いた想像画。こうした恒星のほとんどは爆発し、超新星となった。そのときの衝撃波によって、質量の重い元素が宇宙全体に行き渡った。(Adolf Schaller for STScI)

原始の宇宙を満たしていた高温度の霧が晴れ渡ると、宇宙は「暗黒時代」と呼ばれる光のない時期に入った。このときに放射圧が突然取り除かれたため、重力に引っ張られた物質がくっつき始めた。そのほとんどが質量の軽い水素とヘリウムで、重い元素であるリチウムとベリリウムはごく微量しかできなかった。この物質が、宇宙創成の早い時期から形づくられていたダークマターの固まりの周辺で融合し始めた。コンピューターを使ったモデルや観測から得られた証拠をもとにその後の宇宙の様子を考えると、最初にできたのは銀河のような複雑な構造体ではなく、桁外れに巨大な恒星だった。

■巨大太陽の時代

巨大な恒星、ファーストスターが宇宙創成の初期に存在していたはずだと考えられるのは、次のような理由からだ。まず現在、私たちが見ることのできる恒星は「種族I」「種族II」という二つのグループに分けられる。このうち古い星は、種族IIに分類される。種族IIの恒星は宇宙の歴史の初期に生まれ、最も軽い元素である水素とヘリウムで主にできている。球状星団や銀河の中心には、この種族IIの恒星が集まっている領域がある。そこには、なぜか原始宇宙で恒星を形づくったと考えられる元素の割合よりもはるかに多い割合で、重い元素が含まれている。もしビッグバンの少し後に生まれた寿命の短い星、いわゆる「種族III」とでもいうべき恒星が種族IIに先立つ第一世代として存在していて、それが最初の銀河を構成する素材として重い元素の種をまき散らしたと考えれば、謎は解ける。

種族IIIのような恒星があったはずだと考えられるようになったのは、1970年代後期のことだった。1990年代になり原始銀河を含む遠方の宇宙の様子が明らかになると、原始銀河がすでに重い元素に満たされていたことがわかった。この事実に沿って考えると、種族IIIの恒星がかつて存在し、それが宇宙の進化のなかでも特別な役割を果たしていたとする考えが有力になった。

ビッグバンからおよそ1億5000万年後に種族III、すなわちファーストスターができた。そのときの状況を詳しく分析した結果を、イェール大学のボルカー・ブロム、パオロ・S・コッピ、リチャード・B・ラーソンが2002年に発表した。当時の宇宙は比較的高温だったため、恒星ができるもととなったガスは動きが速すぎて、なかなか星の形にはまとまれなかった。ところが、一つ一つの水素原子核が互いに結合して水素分子になったことで、ダークマターの核の周囲に集まったガスの固まりが冷やされた可能性があることを彼らは示したのだ。

こうしてできた動きの遅い水素分子ガスは収縮して原始星となり、周囲からさらにガスを引き入れられるほどの重力をもち始めた。原始星が高温になると、分子は再分離した。そのうちに核融合が始まり、水素からヘリウムが作られた。このとき新しくできた恒星には質量の重い元素が含まれていなかったため、核融合反応を抑制しながらも、桁外れに巨大化していった。こうしてできたファーストスターはたった一つでも太陽数百個分の質量があり、分裂することもなかったため、現在観測できるどの星よりも大きかった。これほどまでに巨大な星は自分の内部にあるエネルギー源をすさまじい勢いで消費する。恒星の寿命が訪れるまでの間に核融合が進み、内部にあったヘリウムが重い元素に変化していったのである。

■最初の超新星

誕生してから数百万年ほどで、原始の巨星たちは核に蓄えていた燃料を使い果たした。自らを内部から支えていた外向きの放射圧がなくなると、巨星は崩壊し、今日宇宙で観測できるどんな現象よりも破壊力のある超新星爆発が起こった。そのときの超新星爆発からどんなことが実際に起きたのかは、詳しくはわからない。現在でもさまざまな説が代わる代わる登場している。この爆発で恒星は完全に破壊されたため、ブラックホールすら一つも残らなかった、とする説もあれば、太陽数十個分の質量のブラックホールがその後にできた、とする説もある。

こうしたブラックホールの名残は融合あるいは結合し、現代の多くの銀河の中心部にあるとてつもない規模のブラックホールができる理想的な環境を作った、という考えを2002年に発表したのは、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のピエロ・マドーとケンブリッジ大学のマーチン・リーだった。どのプロセスを経たとしても、巨大な星たちが崩壊したおかげで、初期の銀河に存在する重元素が宇宙空間にまき散らされたことは、ほぼ間違いないと見られている。

天体が発するかすかな熱、宇宙赤外線背景放射。最も高性能な望遠鏡を使っても地上からは決して見ることはできない。2005年、科学者たちはNASAのスピッツァー宇宙望遠鏡を使ってこれを測定しようとした。こうした天体が発する赤外線(上の画像)を天空の全体画像から抜き出すと、微弱な赤外線シグナルを検出できる(下の画像)。この光は第一世代の星、つまり宇宙が誕生して後、一番最初に現れた星が発しているものと考えられている。赤方偏移しているため、目には見えない。(NASA/JPL-Caltech/A. Kashlinsky (GSFC))

種族IIIの恒星が果たしたもう一つの役割は、銀河間物質の再電離(再イオン)化だ。水素分子がいったん生成された後に、宇宙を暗黒時代に突入させる重要な役割を果たす一方、現在の銀河間に存在するガス雲の大半は電荷を帯びた水素イオン、平たく言えば結合していたのが再び分離した原子でできている。こうしたイオン化は通常、強烈な紫外線によって引き起こされる。原始の星も、強烈な紫外線で照らしていたことになる。

初期の宇宙に種族IIIの巨大星、ファーストスターがあったと考えれば、宇宙論学者たちが抱えていた問題のいくつかは解決する。しかし、それですべてがうまく収まるわけではない。これほど高温の環境でガス雲が収縮して恒星が生まれた具体的なメカニズムについては、まだわからないことがたくさんある。

水素分子ができたことで温度が下がったという説明に誰もが納得したわけでもなかった。2008年に、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のダグラス・スポイラー率いる天文学者のチームは、興味をそそられる理論を唱えた。原始の恒星を光らせていたのは、ダークマター(暗黒物質)の正体かもしれないとされる超対称粒子「ニュートラリーノ」の対消滅(物質と反物質が衝突して消滅する現象)が起きたときに生じたエネルギーだというのだ。この現象がダークマターを通常の物質に変え、核融合反応を起こせるほど恒星の核を凝縮させたと彼らは考えている。

もう一つ、ファーストスターは現在広く考えられているほど巨大だったわけではなかったとする説もある。NASAのジェット推進研究所の細川隆史のチームが2011年に、新しいシミュレーション結果を発表した。それによると、原初の宇宙に形作られようとしていた巨星は、膨大な量の物質を噴出していた。中心の核めがけて落下する物質の供給はやがて止まるため、35太陽質量を超えて大きく育つことはなかった。このモデルの恒星は、種族IIIとほとんど同じ役割を引き受けることができたし、ブラックホ-ルを作った超新星が果たした仕事のかなりの部分についても、ひけを取らないほどの役割を果たせたと考えられている。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック『ビジュアル大宇宙 [上] 宇宙の見方を変えた53の発見』を再構成]

(参考)ビックバンから宇宙最初の星、個性あふれる恒星、銀河の不思議、ダークマター/ダークエネルギー、量子論まで、宇宙全般を網羅。ナショナル ジオグラフィック『ビジュアル大宇宙[上] 宇宙の見方を変えた53の発見』は古代の哲学者たちがとらえた宇宙の概念を中近世、そして現代の天文学者が変革していく様子を分かりやすく解説します。

ビジュアル大宇宙[上]宇宙の見方を変えた53の発見

著者:ジャイルズ・スパロウ
出版:日経ナショナルジオグラフィック社
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