ペッパーは「超できる社員」 ネスレ、1000店導入へ
家庭用ロボット最前線(下)
1分間で初回分1000台を完売したソフトバンク「Pepper(ペッパー)」の状況は、1999年の発売時に20分で3000台を完売したソニー「AIBO(アイボ)」と重なるものがある。
両者における形状以外の最も大きな差は、クラウドとの連係だろう。ウェブから情報が入手でき、アプリも追加できるペッパーは、AIBOとは比べものにならない大きな可能性を秘めている。
ただ、現実的な側面を見ると、AIBOを事業終息へと追いやった問題の多くが、ペッパーでも解決されていないことがわかる。例えば耐久性やメンテナンスの問題だ。
ペッパーは20個のモーターを内蔵しているが、「頻繁に動く個体の場合、3年以内にいずれかの箇所でモーター交換が必要になる可能性が高い」(ソフトバンク ロボティクス)。ソニーをAIBO事業終息に踏み切らせた理由の一つが、家電製品としては高頻度な故障と、そのための部品やメンテナンス体制の維持にかかるコストだった。AIBOよりもはるかに複雑なペッパーの"面倒"を、ソフトバンクが10年単位できちんと見られるのかどうかは、まだ不透明だ。
新たなニーズを掘り起こす決定的なアプリがまだ見当たらないのも不安材料だ。ペッパーのOS(基本ソフト)の開発元である仏アルデバランロボティクスは、アプリの開発キットを無償公開しており、初心者でもアプリが作れる環境が整っている。しかし、ペッパーの購入を決断させるほどのインパクトを持ったものはまだ出てきていない。
ペッパー効果で販売台数10~20%増
一方で、家庭ではなくBtoBの分野では、「もう『ロボットなし』の時代には戻れない」といえるほどの成果が見え始めている場所がある。
「ぼくの質問に答えるだけで、あなたにぴったりのコーヒーマシンがわかっちゃいます」――。都内の家電量販店のキッチン家電売り場には、今日も明るい声が響く。ネスレが「ネスカフェ ドルチェ グスト」などの"販売員"として採用したペッパーの声だ。専用の接客アプリを搭載し、客への声がけを積極的に行う他、簡単なゲームをこなすと景品プレゼントサイトのURLを表示する機能なども備えている。
ネスレ日本・コーヒーシステムビジネス部長の大谷謙介氏によれば、「2014年のペッパー発表のニュースを見てソフトバンクに連絡を取り、12月には店舗に導入した」という。客寄せ効果に加え、必要な説明が必ずできる"即戦力"であることも、スピード採用の決め手になった。ペッパーを導入した売り場では、販売台数が前年同期比で10~20%は増えているという。
大谷氏はさらに、今後の可能性にも期待を示す。「ペッパーは人の顔を見分けることができ、理論的には常連客の顔を無限に覚えられる。人を見分けて瞬時に最適な商品を出し分けるといった、人間にはできない接客ができる」。今のところ、ペッパーは50店舗強に導入済みだが、ネスレは早期に1000店規模を目指すという。
高度な対話を自動で作り出す
ロボットの長年の懸案事項だった、人間との「会話力」についても、急速に研究が進んでいる。注目を集めているのは、会話力のなかでも特に「雑談力」を磨こうとする研究だ。
NTTドコモが手がける「雑談対話システム」は、シナリオに頼らず、想定外の投げかけにも自然な答えができる対話機能を目指したもの。例えば、「日経トレンディって面白いよね」と話しかけると、「日経トレンディを読んでるんですね?」という答えが返ってくる。これは、日経トレンディが書籍であること、日経トレンディの感想について話していることを認識して作り出された答え。パターン認識を基に内容を分析することで、このレベルのやりとりも自動で作り出すことができるのだ。
半面、このシステムではウェブの情報などを頼りに話す内容をアップデートするため、しばらくたつとキャラクターが変わってしまうことがある(好きな食べ物が変わってしまうなど)。また、慰めてほしいのに事務的な問いかけを返すなど、「空気を読めない」点も課題として残る。
ただ、開発を手がけるNTTドコモ・サービスイノベーション部ビッグデータ担当の大西可奈子氏によれば、「言葉の理解を通じて、ユーザーの感情を読むことはある程度は可能」。当面の課題として、この部分の解決に取り組んでいるという。数年後には、安価なロボットでも人間の感情がかなり正確に読み取れるようになっているかもしれない。
(日経トレンディ 有我武紘)
[日経トレンディ2015年9月号の記事を再構成]
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