東儀秀樹 47歳からの子育てに悪い事は一つもない
子育てのおかげで少年時代をもう一度やり直している
――ご子息が8歳というこのタイミングで本を出した理由を教えてください。
子どものことを本にするというのは、出版社から声を掛けられるまで意識していませんでした。今まで子育て本は、子どもを立派に育て上げ、ちゃんと結果を出した人が出版するものだと思っていましたから。僕の息子の「ちっち」は、まだ8歳。これからグレるかもしれないし、僕と仲が悪くなるかもしれません。
でも、子育ての渦中だからこそ熱く書けることもあります。後から振り返って書くと、昔を美化してしまうかもしれない。だから、この本では今この瞬間を日記のようにそのままつづりました。
――実際に本を読むと、東儀さんが深く子育てに関わっていることが分かります。
周りの友人などの子育てを見てきて、うちの子育てはちょっと様子が違うぞというのは感じていました。みなさん、大変な思いをして、子育てが重労働になってしまっている。父親が子育てに参加しない、興味がないわけではないけれどよく分からないというのも耳にします。
ママ友と集まっているときにも、ちっちとのエピソードを話すと「へぇー、すごいね」「それやってみよう」なんて感心されます。やっぱりうちの子育ては違うんだ、それを伝えることで、人のためになっているのかなという実感があります。
「すごいね」と言われても、僕は子育てを頑張っているつもりはありません。頑張らずともちっちといると自然とわくわくしてしまうし、楽しくなってしまうんです。
自分の子どもが小さいうちにたくさん一緒にいるというのは、かけがえのない大切な時間です。それを伝える手段として、本にまとめるのもいいなと。
――ご子息が誕生したのは東儀さんが47歳の時。その年齢での子育てはいかがですか。
年を取ってからの子育てに悪い事はないと思いますね。親が一通りのことを体験しているので若いときに比べて戸惑うことが少ないですから。
――東儀さんは元々、子ども好きだったのでしょうか。
子どもは苦手な方でした。でも、なぜか子どもと動物には好かれる質なんですよ。こっちは苦手なのにすぐ向こうから寄ってくる。女性にも好かれますけれど(笑)。
人前で他人の子と遊ぶのも、なんだか気恥ずかしくて。今はちっちを溺愛していますが、子どもは苦手なままですね。
子育てをしてみていろいろな発見がありました。大人だと忘れてしまっていることも、子どもの目線になってみると様々な発見があります。子育てをすることで、大人はそれをスキルとして身につけることができます。僕はちっちと一緒に少年時代をもう一度やり直しています。ちっちと一緒に僕も成長しているんですね。
子どもの話は面白い。その瞬間に聞かないともったいない
――東儀さんのお父様は、子育てに協力的だったのでしょうか。
うちは典型的な昭和のサラリーマン家庭でした。東儀の名は母から来ていて、名前だけ雅楽師の家系だったんです。
父は「子育ては女の仕事だ」というタイプ。仕事が忙しく、子どもに会えるのも日曜だけでしたが、そのときもべったりという感じではありませんでした。
僕の子育てとはだいぶ違う感じですが、別に父が反面教師になっているというわけではありません。ちっちの子育てには、好奇心旺盛でいつもワクワクしていたいという僕本来の性質が関係しているように思います。
――子育てで大切にしていることは。
子どもの話をしっかり聞くこと。子どもが話し始めたら、顔を向けて一部始終を聞く。僕の場合、聞きたくなっちゃうから聞くんですけどね。
子どもの話は面白いです。大人はこんなこと思いつかないなというようなことを言い出します。2年3年すると話の内容も変わってきてしまうので、そのときそのとき、しっかり聞いてあげないともったいない。
僕は家で仕事していることが多いのですが、子どもが話したがったら今やっている作業を中断して聞きます。「あとでね」と言って、子どもが一番話したいタイミングを逃してはいけないと思います。
「先生に誤解されて怒られた」「友だちに急に叩かれた」など、子どもは外で理不尽な目に遭ってきます。それなのに、家でも「あとでね」なんて疎外感を味わわせてはいけません。外で何があっても、家に帰れば誰かが話を聞いてくれる。そういう安心感があれば、子どもは強くなれる。これからの人生を強く生きていけます。
もしこれからちっちがいじめられたとしても、きっと相談してくれると思います。そんなときのためにも、家は最後の砦にならなくてはと思います。
大人の間に連れていったから社交的な子どもになった
――8歳のちっち君はどんな子に育ったのでしょうか。
社交的だし、人と違うことを恐れない子ですね。マイナスなこともワクワク報告してくれるんです。
先日も「○○君はちっちのことが一番嫌いなんだって!」と教えてくれました。
――「一番嫌い」ですか。そのとき、東儀さんはどうされたんですか。
そのときは一緒に「何かしたかな?」と原因を考えて、何も思い当たらなかったので、「ちっちにはこんな素敵なお父さんがいるからやきもち焼いてるんだね!」なんて笑い合いました。
子どもには、人って全部同じじゃないんだ、それぞれ違う考えを持っているんだ、好き嫌いがあって当たり前なんだって折に触れ教えています。
ちっちは幼稚園の頃から、いろいろな人と話すのが好きな子でした。公園に行くと別の幼稚園の子どもたちがいることもあります。そういうとき子どもって、幼稚園ごとにグループを作ってその中で遊ぶんですね。でもちっちだけは、「ほかの幼稚園の子とも話してみたい」って、別の幼稚園のグループに交じって遊ぶんです。
思えば赤ちゃんの頃も社交的でした。僕がちっちを抱っこして近所を散歩していたら、ほかの人を指さしてその人の前に連れて行けって言うんです。好奇心の塊なんですね。
――どうして社交的になったのでしょうか。
意識して大人の群れにちっちを連れて行くようにしていたからでしょう。
大人は子どもに対して優しいです。優しく話しかけてくれるし、自分の話を聞いてくれる。同年代の子どものように、おもちゃを取ったりたたいたりもしません。ちっちは大人と接して、人って優しいんだ、触れ合うと面白いんだと感じたようです。
公園によく母子の集団がいますが、お母さん同士が気を使い合っているように見えます。その頃の子どもはまだしゃべれないから、おもちゃを取ったとかたたいたとかトラブルも多いですよね。子育てでは、親も子もニコニコしているのが一番。僕は同年代の子ども達が公園デビューする頃、ちっちを大人たちの中に連れ出していました。
そのおかげか、ちっちは言葉によるコミュニケーションが上達しました。言葉をしゃべるのが早く、また文章の組み立てがうまい子に育ちました。
今ではすっかり、ほかの子より余裕のある子どもに育ちました。子どもの世界ではおもちゃの取り合いでケンカになることがよくありますが、ちっちはほかの子におもちゃを貸してあげます。自分が面白かったからほかの子にもその面白さを伝えたいんです。自分が大人に優しくされたから、人にも優しくできるんでしょうね。
(ライター 福村美由紀)
[日経DUAL 2015年7月15日付記事を再構成]
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