ネットに子どもの写真・動画、トラブルの火種に

ちょっと待って。何気なくブログに投稿したあなたの子どもの写真や動画から個人を特定され、ストーカーや誘拐が起きかねない――。インターネット投稿への危機意識が薄れ、トラブルが頻発している。楽しいはずの投稿が、一歩間違うと、その後何十年にもわたってマイナス情報を発し続ける「デジタルタトゥー(入れ墨)」になってしまうのだ。

国立情報学研究所は6月、プライバシー保護を啓発するワークショップを開いた

「私は我が子の顔と名前をインターネット上に出さないよう気を付けているのに、他のママがSNS(交流サイト)でうちの子の名前や顔を投稿するとイラっとしてしまう」。5歳の子を持つ都内の母親Aさん(38)は、承諾なく無配慮に書き込むママ友の危機意識のなさに怒る。例えば子どもの顔や名前が、別に書き込まれた住所や家族の個人情報と結びつくと、どこに住む誰か特定されストーカー行為や誘拐に巻き込まれる可能性だってあるのだ。

ネット教育アナリストの尾花紀子さんは「投稿したい写真があっても、許される範囲は自分の子どもまで。他人の子どもや第三者が写っていたら、相手から許可と確認をとるべきだ」と指摘する。特に運動会の写真は子どもの体操服に名前がついていることが多いため、個人を特定しやすい。細心の注意が必要だ。

情報処理推進機構(IPA)の小川貴之さんは「スマートフォン(スマホ)やデジタルカメラの多くには位置情報を記録する機能がある。確認せずに投稿すると、撮影場所が簡単に分かってしまう」と話す。例えば「自宅前で息子と」と説明をつけて、笑う親子の写真をネットの日記に投稿したとしよう。位置情報付きの写真を少し調べれば「撮影場所は○市△区×番地」まで特定できるのだ。

最悪の場合、「この子を誘拐してやれ。この場所に行けばいるんだな」などと考える犯罪者へと、簡単に情報を渡すことになる。

IPAが全国の男女5千人に意識調査したところ、「友人と一緒に写った写真を勝手に自分のブログに貼り付けて公開した」行為を問題だと答えた人は29.7%だった。約7割の人は他人の写った写真を投稿して公開することへの問題意識が薄いといえる。

なかでも10代は23.8%と最も低い。他人に限らず自分の写真や動画でも深く考えずに撮影しネット上に投稿する傾向がある。中高生に人気を集めているのが写真特化型SNSや10秒動画投稿サイト。いわゆる自撮りでポーズをつける写真や素顔をさらしてメークする動画などの投稿が目立つ。最近流行しているのがカップルでキスをする動画だ。2人の姿を公開することで、仲の良さを確認しているらしい。

子どもの人権110番に携わる三坂彰彦弁護士は「親から、キスをしている動画が将来に残ると心配し、どうしたらいいか相談がある」と話す。尾花さんによれば、元カレとつい撮影した恥ずかしい写真がネットに上げられないか気にする声も多いという。

自分の投稿を見てほしい、再生回数を伸ばしたいという思いが落とし穴になることもある。都内の高校1年生、Bさんは友人とコンビニ内を自転車で走った動画を撮り、ツイッターに投稿した。イタズラ動画は店や利用客に迷惑をかけ、威力業務妨害罪として摘発された例もある。自転車動画は学校側が依頼する東京都教育委員会のネットパトロールが発見し、Bさんは退学勧告されたという。

こうした不用意な投稿は一度でも写真や動画をアップロードすると、いくらでもコピーでき、消しても消しても残る。意図せぬ転載や加工をされて拡散、何に使われるか分からず、いつ誰に見られるか分からないまま永久に残る可能性があるため「デジタルタトゥー」と呼ばれる。

尾花さんは「例えば就職活動で会社が、結婚する相手の親が、見つけるかもしれない。部屋を借りるときの信用調査で、ひっかかることもある。受けると思ってやったイタズラ動画、彼氏に言われてつい撮ってしまった下着姿の写真を一度でも上げてしまうと、上げなかった過去には戻れない」と指摘する。

国立情報学研究所の越前功教授によると、自分の顔の写った写真1枚を、専門知識があれば簡単に手に入る「顔認識ソフト」にかけると、何枚ものネット上にある自分の画像が出てくるという。1枚でも自宅などの位置情報付きの写真があれば、自宅までたどり着ける。このため「かければ顔認証されないめがね」をつくるワークショップを親子向けに開いて、プライバシーが危機にさらされていることを訴える活動をする。

子どものネットやスマホとのつきあい方の理解を深めるため、文部科学省は「ネットモラルキャラバン隊」を結成し、親への啓発活動をする。親にスマホやネットの特徴とリスクを教え、子どもたちが無意識にした投稿がトラブルの元になりかねないと説く。

ネット教育に詳しいこどもコミュニティサイト協議会(東京・千代田)代表理事の大笹いづみさんは「小学生なら、投稿をする送信ボタンは親が一緒に押すと家族ルールをつくっている母親もいる」と話す。(小柳優太)

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