ライフコラム

子どもの学び

キッズサマーキャンプで国・性別・年齢の壁を越えろ

2015/8/29

「世界で通用する、生きる力を身につけてほしい」、教育分野でのグローバル化が求められるなか、子どもを対象にしたインターナショナル・サマーキャンプに注目が集まっている。今年、15年目を迎えたキッズサマーキャンプ「MSTERIO(ミステリオ)」は、これまでに国内外から多くの子どもたちを受け入れてきた。創業者の寺尾のぞみさんに話を聞いた。
群馬県にある廃校を再生させた宿泊施設「さる小」で遊ぶ子どもたち

■群馬県の廃校で、8日間のキャンプ

7月25日、気温30度を超える暑さのなか、新宿駅前に「ミステリオ」に参加する子どもたちとその親、スタッフら約100人が集まった。向かう先は群馬県利根郡、2008年に少子化で廃校となった小学校を宿泊施設に変えた「さる小」だ。8日間の共同生活が始まった。

ミステリオの特徴は、参加する子どもたちの多様性だ。年齢は6歳から18歳まで、日本だけでなく、アメリカやシンガポール、ヨーロッパなど海外から参加している。日本語をほとんど話せない子どもたちもいる。

キャンプの参加費は14万5000円から16万5000円。決して安くはないが、リピーターが多く、兄弟や姉妹で訪れる人たちも多い。なかにはキャンプに行くため、貯金を積み立てる子どももいる。バスの出発する新宿駅前は、「久しぶり!」と再会を喜びあう子どもたちであふれかえった。

ミステリオは2001年、ニューヨークの外資系投資銀行、モルガン・スタンレーで働いていた寺尾さんが立ち上げた。

「日本に帰るたびに子どもの遊び場がなくなっていると感じた。米国の友人たちにたずねると、サマーキャンプで子ども同士のつながりを深めると聞いて、日本でもやりたいと思った」と、構想を温めはじめた。

出発直前の様子。中央が寺尾さん

当時、すでに20年近くアメリカで暮らしていた寺尾さん。最初の5年間はアメリカで働きながら夏季休暇を利用して運営した。「日本でやりたい」という思いを支えたのは職場の同僚と故郷にいる両親と弟だった。

「また大変なことを思いついたな」というのが、幼稚園教諭でもあった母慈子さんの正直な感想だったという。年齢や言葉も異なる子どもたちを預かり、同じ場所で生活させる。もちろん、ノウハウもない。大変な取り組みであることは容易に想像がついた。広告代理店で働き、休みも満足に取れない生活を送っていた弟の聖一郎さんも、15年間毎年、会社とキャンプ場の往復を続けた。

■豊富なカリキュラム

クラスの準備をする音楽家の秦万里子さん(右)、女優の田野聖子さん

施設で過ごす間、子どもたちにはさまざまなカリキュラムが用意される。午前はテニス、水泳、サッカーなどのスポーツ。午後はアート、演劇、創作書道、ダンスなど幅広いコンテンツのなかから、自分の取りたいクラスを選んで参加する。最終日には迎えにきた親の前で発表する。

講師陣は俳優座に所属する女優の田野聖子さん、音楽家の秦万里子さん、バーニーズ・横浜でディスプレイデザインも担当していたアンソニー・シュミットさんらが参加。演劇の授業では、ミュージカル「アニー」の一幕に取り組んだ。「恥ずかしがりの娘がダンスを披露するなんて想像もできなかった」。小学生の娘を持つ母は驚きを隠せない様子だ。

サッカーの講師として、解説者のセルジオ越後さんも来校。下肢の切断障害を持った選手による競技「アンプティサッカー」の日本代表4名とともにおとずれ、子どもたちに杖を使いながら片足のみでプレーするサッカーを教えた。

キャンプに訪れた「アンプティサッカー」の日本代表選手とプレーする子どもたち

「今日ここにきている選手たちは、足をどこかに置き忘れてきた人たちです。僕は片足でサッカーはできない。彼らは諦めずに努力したらできる、ということを教えてくれる代表選手たちだ」と子どもたちに語った。

期間中、子どもたちは男女別に6人から8人の班に分かれて生活し、1人ずつ大学生の「カウンセラー」がつく。彼らのほとんどは海外経験があり日本語、英語も堪能だ。しかし、ミステリオでは「英語が得意なもの同士の班」「日本語だけの班」とあえて細かくわけない。年齢もあえて小学生と中学生、高校生をまぜる。子どもたちはまず、言葉も通じない相手と生活する壁を乗り越えなければいけない。親と離れた集団生活が初めて、という子どももいる。

今回、初めて参加した小学低学年の男の子は、2日目にホームシックで苦しみ、大人の手を離せなくなった。彼を変えたのは寺尾さんの父、睦男さんだ。キャンプ場にはようやく足を運んだものの、体調不良から思うように子どもたちとふれあえずもどかしい思いを抱えていた。夕方、睦男さんの手を引きながら今日の様子を伝える、という仕事を自分で見つけ変わっていく。気づくと自分の好きなテニスやアートのクラスに積極的に参加するようになっていた。「今年はクリスマスにテニスのラケットがほしいそうです」。寺尾さんのもとへお母さんから言葉が届いた。

ミステリオが掲げるスローガンは、「メーク・ア・ディファレンス 何かをよい方向へ変える」ということだ。言語が違い、はじめはうまくコミュニケーションのできなかった子どもたちがほとんどだったが、3日目には「おはよう」とあいさつの言葉をかわすようになる。

群馬県にある廃校を宿泊施設にかえた「さる小」

今回初めて参加した藤崎桃子さん(10)は、家族の誰一人海外で生活したことがなかった。「英語を学びたい」とキャンプに参加し、自分からすすんであまり日本語の話せないアメリカ人のカウンセラーの班に入ることを選んだ。カウンセラーはプリンストン大学からインターンシッププログラムで来日したマーガレット・ワンさん(20)。「将来、マーガレットと同じ大学に行きたい」という将来の夢ができた。

ミステリオを巣立った子どもたちは、国連で働いている人、医者になった人、女優になる夢をかなえた人などさまざまだ。異なる分野で活躍する人たちと一緒に生活することで、自分が将来、何ができるか、何が好きなのかを学ぶ。「グローバル化」は実際のところ厳しい道のりだ。「違いを知ることがまず第一歩。言葉じゃない」と寺尾さんはいう。可能性が生まれる現場を、これからも見届けたい。

(松本千恵)

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