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「ズッコケ三人組」最終巻、広島土砂災害に込めた思い 作家の那須正幹さんに聞く

2015/8/22

仲良し3人組が活躍する児童文学「ズッコケ三人組」シリーズで知られる作家、那須正幹さん(73)が、8月20日に発生から1年となった広島市の大規模土砂災害を題材にした最終巻の執筆に取り組んでいる。同市出身で家族とともに自らも被爆した那須さんに、作品に込める思いを聞いた。

――今年6月に、被害の大きかった広島市安佐南区八木地区を取材しましたね。

広島市の大規模土砂災害をテーマにした小説を執筆している那須正幹さん(10日、山口県防府市)

「1年近くが経つとはいえ、むき出しの土砂があちこちにあり、砂防ダムもまだ建設中でした。住民の方は不安に思う日々が続いているのでしょう。家が立っていたとみられる空き地の真ん中には、煙が上がる新しい線香と花が手向けられていました。日々お参りに来ている人がいるのだと思います。犠牲者への強い思いは続いていると感じました」

「昨年9月にも知人の見舞いのため、安佐南区を訪れていました。子供の頃にあったのどかな梅林はなく、多くの家屋が倒壊し、がれきが散乱している様子が今も目に焼き付いています」

――1978年から始まった「ズッコケ三人組」シリーズは、05年から「ズッコケ中年三人組」として40歳となった3人組の物語が始まりました。計60巻を発行したシリーズも、今年12月に50歳を迎えた3人組が活躍する「ズッコケ熟年三人組」で最終巻です。

「ズッコケ三人組の舞台、稲穂県ミドリ市花山町は私の出身地、広島市西区己斐地区がモデルです。主人公のひとりで中学校教師となった『ハカセ』が土砂災害に遭い、安否不明の生徒を捜して被災地を駆け回ります。友人や会社の元上司が被災した『ハチベエ』、『モーちゃん』もボランティアに尽力します」

――土砂災害を最終巻のテーマに設定したのは、ご自身と家族の被爆体験が一つのきっかけということですね。

「原爆投下後に教え子を懸命に捜した父の記憶が、土砂災害の被災地で安否不明者を捜す人の姿と重なりました。私の父、茂義は爆心地から2キロの広島電鉄家政女学校で教師を務めている際に被爆しました。構内にいて熱線を浴びずに済みましたが、割れたガラスの破片が頭や背中に突き刺さりけがをしました」

「家政女学校では、徴兵などで人手が不足するなか、女子生徒が授業を受けながら、広島市内を走る運転士や車掌を務めていました。投下当時も約60両が営業中で、市内のあちこちで被爆した教え子を捜すために、父はけがを押して、焦土と化した広島の街を駆けずり回り、家に2週間帰りませんでした」

「当時約300人いた生徒のうち、約30人が亡くなったと聞いています。父は教え子の生死に直面したときの思いをこう短歌に残しています。『わつと泣き 吾に寄り来る教へ子を 吾も抱きぬ生きし歓び』『死者名簿 名前のあればいまははや ほつと息づく哀しさ忘れ』。行方不明の教え子が死者名簿に名を連ねていることに、思わずほっとしてしまうなんて、戦災や災害の当事者にしかわかりにくい気持ちでしょう。そんな気持ちを最終巻で丁寧に書きたいと考えています」

――那須さんも3歳の時に自宅で被爆されました。

「爆心地から約3キロの地点でした。母におぶさる形でいた私は縁側の雨戸のかげにいたので、ことなきを得ました。しかし、たまたま庭にいた近所の女性は大やけどをしました。午後になると、全身が灰色で泥人形のような姿をした被爆者が、次々と家の前を通りすぎました。動けなくなった人を、母が毛布をかけて家で休ませていました。私はその様子を、じっと見ていました」

「父親は教え子を捜した後、放射線の影響でしょうが、仕事ができずに1年間寝込んでしまいました。しばらくたっても、被爆の時に浴びた細かいガラス破片が、頭や背中から浮かび上がってきてね。電球の下で私がピンセットを使って、よくつまみ出していました」

――那須さんは広島でお好み焼き店を営む親子3代の女性を通じて、原爆投下後のヒロシマや戦後日本の復興を描いた小説3部作「ヒロシマ」を2011年に刊行しました。そのほか被爆体験を色々な場所で講演されています。

「東日本大震災後の2011年6月、被災した生徒を励ますために、福島県矢吹町の小学校に向かいました。『苦しみや悲しみを乗り越えて広島は100万都市へ成長した。どうか希望を持って欲しい』と、私の被爆体験をもとにメッセージを伝えました。それを聞いた子供から『私は30歳になるまでに死ぬと思っていたけど、放射線を浴びた那須先生が70歳まで生きていることに勇気づけられました』と反応が返ってきました。普通の子供なら、自分が死ぬことを考えることはまずありません。災害は子供の心に深く傷をつけるということ。それを伝えるのも最終巻のテーマに選んだ一つの理由です」

――土砂災害の執筆にあたり、取材を進めた中で印象に残ったことは。

「被災の苦しみにあった中でも、子供たちは復興に向けて、自分たちの力で立ち上がりました。災害現場や避難所で中学生らが自主的にボランティア活動に参加し、めげずに協力してスコップを片手に土砂のかき出しなどに汗を流していたそうです。スマートフォンや交流サイト(SNS)を使って連絡がとれない被災者の安否確認を進めたりしていた子供もいると聞きます」

「大人も痛みを乗り越えています。『モーちゃん』の退職した元上司は、自宅の1階で寝ていた妻が押し寄せる土砂に流されて亡くしてしまいます。苦しみの中でもがきながら、元の仕事に復帰することで、生きがいを見つけ出すという設定にしようと考えています。災害はどこで再び起きるかわかりません。子供は子供で、大人は大人で、災害を乗り越えて復興に向かう希望の物語を書きたいと考えています」

(聞き手は大阪社会部、大西康平)

ズッコケ三人組 いたずら好きな「ハチベエ(八谷良平)」、学究肌の「ハカセ(山中正太郎)」、のんびりやの「モーちゃん(奥田三吉)」という小学6年生の同級生3人が活躍する物語。舞台となる稲穂県ミドリ市花山町は、作者の那須正幹さんの出身地、広島市西区己斐地区がモデルとなっている。
1978年から2004年までに50巻が出版され、累計発行部数は2500万部を超える。05年からは「ズッコケ中年三人組」として一般書の形で、40歳となった三人組の物語が始まった。年1冊の刊行で1歳ずつ年を取る設定で、今年12月刊行の「ズッコケ熟年三人組」で50歳となり、シリーズが完結予定だ。

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