外食でも介護食 「外出したい」意欲後押し

かむ力と飲み込む力が衰えたお年寄りや障がいを持った人向けに、介護食は食材を細かく刻んだり、やわらかくしたりする。手間はかかるが、対応するレストランや旅館が増えてきた。見た目が通常の料理と変わらないものもある。食欲がでて、お年寄りが外出しようとするなど生きがい創出に役立っている。

具材をすべて細かく刻んだ冷やし中華(横浜市の中華レストラン「風の音」)

8月中旬の昼時、横浜市瀬谷区にある中華レストラン「風の音」では、近くのグループホームからきた認知症高齢者16人が冷やし中華に舌鼓を打っていた。具材である中華麺、キュウリ、トマト、蒸した鶏肉は細かく刻んである。硬い物や大きい物を食べづらい人向けの介護食だ。

車いすの女性は「おいしい、おいしい」とすぐ完食。隣の71歳女性は「月に2回はみんなと来る。外に出て食べるごはんは格別。前日から楽しみにしている」と話す。同店はシューマイ、牛肉いためをはじめ、介護食にできるものは何でも対応する。

具材を刻むのは、ゴックンと飲みやすくするためと、食べたものが気管に誤って入ってむせる「誤嚥(ごえん)」を防ぐためだ。レストランの接客スタッフが食べる人のかむ力に応じて、刻み具合を細かくしたり一口サイズにしたりする。手間がかかるものの、予約しなくても当日申し出れば可能な限りOK。冷やし中華の代金は通常と同じ800円だった。

食べ物を刻み、ミキサーでやわらかいペースト状にするのは、自宅で親や夫、妻を介護する人が支度するのが日常だが、負担がかかる。介護する人だって、たまには息抜きにおいしいものを食べたい。浜松市にあるレストラン「食楽工房」は介護する人、される人ともに、見た目も鮮やかな洋食を提供する。

8月上旬、オーナーシェフの古橋義徳さん(64)に介護食のコース料理をお願いした。オードブルは野菜のテリーヌとタマネギのムース。メーンディッシュは豚ヒレ肉のソテーでジャガイモ、チンゲンサイ、ニンジンが付け合わせだ。皿に上品に盛った料理は美しく、普通の料理と変わらない。でも口に入れるとやわらかく、かまずに済む。

見た目は普通の洋食と変わらない、やわらかく加工した介護食(浜松市のレストラン「食楽工房」)

いずれの料理も普通に調理したうえで、ミキサーにかけてペースト状にし、粉末のトロミ剤を混ぜて見た目を通常食のように再現する。トロミを付けて、料理が喉を流れる速度を緩やかにし、むせるのを食い止める。

「例えば要介護となった夫と、夫を世話する妻が結婚記念日に来店する。身体能力に関係なく、だれもが楽しく食事をしてもらいたい」。古橋さんはこう話す。

街中のレストランだけではない。第三者の介助者が同行し高齢者を世話するバリアフリー旅行でも、受け入れ先の旅館やホテルで介護食を提供する所が増えてきた。

東京・新宿の障がい者支援施設で暮らす斎川美代子さん(65)は1カ月に1回、全国を車いすで旅行する。脳性マヒを患い会話も食事も思うようにならない斎川さんは、個人のバリアフリー旅行を手がけるSPIあ・える倶楽部(東京・渋谷)を利用する。同社が細かく刻んだ食事を出す施設を見つける。

篠塚恭一社長は「全国で100カ所ほどが介護食を出す」と話す。斎川さんは5月の鳥取、6月の北海道旅行で、刻んだ和食などを味わった。誤算は7月の富山旅行。どうしても見たかった黒部ダム近くのホテルが対応できないことが事前に分かった。「でも私を介助する人が、食事を切り分けてくれるというので、通常食にチャレンジする気持ちもあり旅行した」と振り返る。

てんぷらと鍋料理に挑戦した斎川さんは「食を通じて、外に出ても何とかなるという自信が出た」と話す。普段の施設での暮らしにも良い影響を与えているそうだ。

トロミ剤をはじめレトルト、ゼリーなど市販の介護食品が普及し、刻みやペースト状にする調理方法も広く知られるようになった。日本介護食品協議会(東京・千代田)の森川聡理事は「家や施設から外に出ようとするシニアが増えれば、介護食を出すレストランや宿泊施設はもっと広がるはず」と話す。(保田井建)

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