今月のテーマは「会社員の投資」について誤解を解くことです。今回考えてみたいのは「投資は全額財産を失う」という誤解です。投資は怖いもの、と思う人ほど、投資の失敗が人生を狂わす、というイメージをもっているようです。
しかし、そんな投資はむしろ特殊な投資です。もっと堅実なやり方がいくらでもあり、投資を自分の資産形成の一部に組み入れることで、会社員も投資をしないことによる格差拡大に巻き込まれずにすみます。
よく投資で財産をすべてなくすというが…
投資未経験者の個人がもつ投資のイメージとして、「投資で全財産を失う」というネガティブなものがあります。株に大失敗をして借金がふくらみ、家を手放し、家族は離散、といったイメージを持つ人は多いと思います。
でも、「では、あなたの身近にそういう人はいますか?」と聞くと出会ったことのある人はほとんどいません。これはほとんど都市伝説のたぐいではないでしょうか。投資を失敗したらとんでもないことになる、という悪いイメージが形になったものなのです。
実は投資において全財産を失う、ということはむしろまれなことですし、またそのような投資を行わないことはとても簡単です。投資で失敗をしてもせいぜい数割程度の損失でとどめることができますし、そういう投資を行えばよいだけのことなのです。
誤解が解ければ、投資をスタートさせるためのハードルはひとつ下がると思います。整理してみましょう。
財産の全額を投資しなければすべてなくすことはない
会社員が財産の全額を投資するということはまずないでしょう。実は「投資を自分の財産の一部にとどめる」ということはとても大切な戦略です。
どのような損失であっても、基本的に投資した金額以上の損失を被らないのが投資の原則だからです。株式投資は有限責任であって、株式会社がどんな損失を抱えようとも、株主に投資金額以上の負担を求めることはありません。
これはつまり、「投資する割合や金額」の決定をしっかりしておけば、個人としての投資の最悪の損失額は自ずと制限できる、ということです。一番最初に、自分で自分の財産を全額ゼロにしない選択を行うことができるのです。
自分の財産のうち、一定割合は「減らないが利回りが低い安全資産」に振り向け、一定割合を投資に回す計画を考えます。
投資に慎重な人は、投資割合そのものを抑えることでリーマン・ショックのような急落であろうと、資産全体に占めるマイナスの影響を軽微にすることができます。当時、日本の株式市場は年率35%近いマイナスでしたが、自分の財産に占める株式投資割合が30%なら、全体としてはマイナス10.5%の影響にとどめることができました。なお、同じ3割について適切な分散投資を行っていれば、損失はマイナス18%、資産全体ではマイナス5.4%にとどまります。
会社員はまず、全財産を投資に回さない、ということが大切です。
投資で元本割れするといっても全損することはまずない
実際に投資をした金額においても、全額がゼロになってしまうことはまずありません。よく、投資で失敗すると株が紙くずになる、というような表現をしますが、これも現実にはまずありえません。
一般的な株式投資の対象は上場企業ですが、上場企業の場合ある日突然、株式の価値がゼロになってまったく売買できなくなるわけではないからです。
上場企業の場合、業績悪化や資金繰りが苦しくなった場合、ニュースで紹介されたり株価が下落し始めることで、手放したほうがいいよ、というサインが出ますし、相当の下落になるまで一定の時間があります。この段階で売却すれば数割程度の損ですむでしょう。