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女性の心整える「おひとりランチ」 仕事の合間に一人、店探す

2015/8/15

仕事で訪れた街でふと店に立ち寄り、一人食事を楽しむ男性を描く人気漫画「孤独のグルメ」。その主人公を地で行く女性が増えている。仕事の合間に一人、店を探し、ランチを楽しむ女性たちの「おひとりグルメ」事情を追った。

「ふらっと入った店で、周りが食べている料理をチェックしたり、厨房の動きを観察したり。ドラマで見た『孤独のグルメ』の主人公の行動は、あるある、という共感の連続でした」

オリックスに勤める長森さやかさん(31)は横浜支店の法人営業として30社以上の顧客を担当する。外回りのためランチは週2~3回、一人で外食だ。「営業で訪れた先で店を開拓するのが楽しみ」。インターネット検索は利用せず、店構えや店頭のメニューを吟味して自分の目で選ぶ。中華に洋食、天丼にトンカツまでジャンルは広い。

「仕事柄、一人で知らない店に入ることに抵抗はない。人に気を使わず、気兼ねなくチャレンジできるのがいい」と話す。

1年ほど前に営業で近くを訪れた際、店頭のメニューに引かれて立ち寄ったのが横浜市中区のイタリア料理店「オイノス」だ。これまで5回以上足を運び、毎回、ペペロンチーノのランチを注文する。「野菜たっぷりなのがうれしい」

長森さんがおひとりグルメを楽しむようになった原点は、就職活動時の経験がある。「就活がうまくいかず落ち込んだとき、おいしそうな店を探した」。自力で見つけて飛び込んだ店が充実していると、うれしいだけでなく、ささやかな自信になる。「今もおいしいランチに、午後の仕事を頑張る力をもらっています」

「ひとりグルメは、おいしいものを食べながら仕事の整理をしたりプライベートのことを考えたりする大切な時間」と話すのは、ほぼ毎日一人でランチを楽しむ山本なつみさん(29)。東京都千代田区のコンサルティング会社で営業目標達成のための相談やセミナーを手掛ける。日中は訪問先近くで気に入った店を訪れ、取引先からお薦め店を聞いて月7~8軒を開拓する。新規開拓店は写真と感想をフェイスブックにアップして友人に紹介する。

夜も外食が多いため、昼は栄養バランスを考えてメニューを選ぶ。都内のレストラン「T's Grill 半蔵門店」で注文したのはハンバーグやカレーが並ぶボリューム感あるプレートだが、肉に大豆を混ぜており、約500キロカロリーに抑えている。

今はおひとりグルメを満喫する山本さんだが、以前は抵抗があった。学生時代に一人で食事をする女性を見て寂しそうだと思っていた。だが新卒で入社した別の会社でも日中はほぼ外回り。一人客が多い牛丼店などで挑戦し始めたが、人目が気になり、「3カ月くらいは店に入るのに勇気が必要だった」という。

フレンチのコース料理も一人で楽しむが、唯一、焼肉店には一人で入らない。「焼き肉はみんなでわいわい食べたい」。都内はもとより、出張先で土地のおいしい店を探す山本さんの、おひとりグルメは続く。

大手金融機関勤務の棚沢未来さん(34)は内勤の事務職だが、「週に1~2日は一人でお昼を食べたい」と話す。気になる店があれば、昼休みにタクシーで向かうこともある。

店探しの情報源は、もっぱら口コミだ。一人で快適に楽しむ工夫として、「開店直後や閉店間際の混み合わない時間を選ぶ。携帯電話をテーブルの上に出さない」。店の人が話しかけやすくなり、お薦めの料理や食材について教えてもらえるようになるという。

おひとりグルメをきっかけに店の人と親しくなり、常連になったのが東京・湯島の和食「くろぎ」だ。なかなか予約が取れない人気店で、ランチメニューは鯛茶漬けのみ。ごまだれの味がついた鯛の刺し身をごはんの上に載せ、そのまま食べる。お茶をかければ違う味が楽しめる。「昼食を適当に済ませると、午後の気持ちがささくれだってしまう。きちんとした昼食をとると、心の平穏が全然違います」

■漫画「孤独のグルメ」女性も共感

輸入雑貨商の主人公・井之頭五郎が、仕事で訪れた街で食事を楽しむ様子を描く漫画が「孤独のグルメ」(久住昌之原作、谷口ジロー作画、扶桑社刊)。1997年に1巻が出て以降、ネットの口コミやドラマ化でファンを広げ、シリーズで58万部を突破した。9月には18年ぶりとなる2巻が刊行予定という異例のヒットだ。

発売当初は30~40代の男性が読者の中心だったが、近年は女性や若者が増えた。原作者の久住さんは「女性が一人で外食するのが普通になり、時代が変わったと感じる。『一人で楽しい』という主人公にひかれる女性も多いのでは」と話す。

「女性一人=寂しい」という従来のイメージは変わりつつある。営業など外勤職種の女性が増える一方、ソーシャルネッワーキングサービス(SNS)が普及した。「一人でいても常に他者と緩くつながっているという実感は、女性の一人行動のハードルを下げた」とマーケティングライターの牛窪恵さんは指摘する。

半面、つながりや気遣いを常に求め合う風潮にストレスを感じる人も増えた。「仕事でも私生活でも気を使い続ける女性の多くは、一人になって自分を取り戻す時間がほしいと感じている」(牛窪さん)。そんな切実な思いが働く女性の「孤独のグルメ人気」を支えているようだ。

(女性面副編集長 佐藤珠希、関優子、横沢太郎)

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