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フジロックフェスティバル'15 ロック以外も楽しめる懐の深さ

2015/8/14

 フジロックフェスティバル'15は英米ロック界の大物が顔をそろえて話題を呼んだが、今年はあえてロック以外のステージを中心に見て回った。そんなあまのじゃくでも楽しめるのがフジロックの懐の深さ。実際にワールドミュージックやジャズ、ブルースなどの分野で期待以上の名演に出合った。

観客を熱狂させたスウェーデンのレーヴェン(7月25日、ホワイトステージ)=写真 中嶌 英雄

 黒いズボンに黒い上着やベストを着込んだ男たちが、フジロックで2番目に大きなホワイトステージに登場した。スウェーデンの8人組、レーヴェンだ。2日目のトップバッター、午前11時という早い時間だというのに、開演前から押し寄せた観客から大歓声が上がる。

 ドラム、ウッドベース、バイオリン、トロンボーン、サックス、アコーディオン、フォークギター、そしてタンブラというマンドリンに似た民族楽器を駆使して、欧州各地の民族音楽の要素を取り入れたオリジナル曲を次々と繰り出す。最新アルバム「よみがえれ!キツネザウルス」(レーヴェンというバンド名はスウェーデン語でキツネの意)でもメンバー全員が作曲を手がけている。

 ズンチャ、ズンチャと古典的な2拍子のビートが次第に熱を帯び、テンポアップしていく。そこにアコーディオンやバイオリン、サックスなどが哀愁のメロディーで合いの手を入れる。これがレーヴェンの基本パターンだ。

バンド名の「レーヴェン」はスウェーデン語で「キツネ」を意味する(7月25日、ホワイトステージ)=写真 中嶌 英雄

 ビートがヒートアップし、メンバーは服を脱ぎ捨てて飛び跳ね始める。フラフープを腰で回しながらサックスを吹くというサーカス的な曲芸が飛び出すと、冷静に見ているタイプの観客もやむにやまれず引き込まれ、飛び跳ね、軽快にステップを踏み始めた。炎天下で気温は30度を軽く超えていただろう。周りの観客を見渡すと、笑顔、汗、笑顔、汗、また笑顔である。

 「観客の皆さん全員が1つのバンドです」。メンバーが英語で叫ぶ。その言葉通り、観客もバンドと一体となって踊り続ける。ズンチャ、ズンチャの高速ビートで疾走し、時おりスローダウンして湿り気を帯びたメロディーの曲を織り交ぜる。

 このビート、このメロディー、この熱気。ふと何世紀も前の欧州の街や村にタイムスリップしたような錯覚に陥る。素朴なビートに合わせて、村の男と女たちが歌い、踊り、笑い合う。そんな光景がこのステージとダブって見えた。

 終盤に日本の若い姉妹による無国籍音楽ユニット「チャラン・ポ・ランタン」を招き、何曲か共演したのだが、この趣向がまた良かった。印象的だったのはチャラン・ポ・ランタンの姉の小春がレーヴェンに交じってアコーディオンを弾き、妹のももがロシア民謡「カチューシャ」を日本語で歌った場面である。「りんごの花ほころび~」という有名な訳詞だ。哀感漂うメロディーと古風な日本語詞が「パンク」と形容されるレーヴェンの熱いビートに乗って弾け、観客を1つにしていった。

スペインのカタルーニャ地方からやってきたチャランゴ(7月26日、ホワイトステージ)=写真 中嶌 英雄

 すっかりレーヴェンが気に入ってしまった筆者は最終日の夜、フジロックのステージでも小さな部類に入る「ジプシー・アバロン」で開かれた彼らのライブに再び足を運んだ。やはり観客は熱狂し、新アルバムに収録された「ヘイ・ヘッレ」という曲の印象的なメロディーを「オー、オー」と大合唱した。

 レーヴェンは2008年に英グラストンベリーフェスに出演して話題を呼び、それがきっかけで09年のフジロックに出演した経緯がある。09年も熱いステージで話題を呼んだが、今回でさらにファンが増えたのではないか。レーヴェンのような存在を発見できるのもフェスの醍醐味といえるだろう。

 最終日のホワイトステージのトップバッターも素晴らしい演奏を聴かせてくれた。スペインの大所帯バンド、チャランゴだ。ドラム、ベース、サックス、トランペット、パーカッションといった編成にボーカルが加わる。レーヴェンにも通じる素朴ながら激しいリズムで観客をどんどん巻き込み、ホワイトステージはまさに熱狂のるつぼと化していった。

明るく激しい演奏を繰り広げたチャランゴ(7月26日、ホワイトステージ)=写真 中嶌 英雄

 独特の文化を持つカタルーニャ地方のバンドだが、彼らの音楽は広がりと多様性を持っている。キューバのサルサやジャマイカのレゲエ風のリズムも多用し、とにかく底抜けに明るい。レーヴェンが欧州の北や東の音楽を志向し、哀愁を帯びたムードなのに対して、チャランゴは欧州の南から大西洋に開けたイメージで、まさに陽性の音楽。エネルギッシュなステージを見せてくれた。

 ロックフェスでロック以外を見ようという計画を立てたのは、2日目の昼、最大のグリーンステージで開かれる「上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト」を中心に見ようという第一感が発端だった。ベースはアンソニー・ジャクソン、ドラムはサイモン・フィリップスという世界でもトップクラスの名手で、こんな2人とずっと一緒にやっている上原ひろみも当代のトップの一人であることは改めていうまでもないだろう。

 ピアノは打楽器だと言わんばかりの上原の力強い速弾きはおなじみだが、その演奏は瞬間のひらめきによって様々な方向へ駆け巡り、聴いたこともない旋律や複雑なリズムを間断なく打ち鳴らす。ジャクソンは次々と襲ってくる音の波を難なく受け止め、フィリップスは手数の多いドラミングで複雑怪奇なリズムを繰り出してピアノに対抗する。上原はにやりと笑い、それを上回る縦横無尽な音の嵐を浴びせ、バンと終わる。

創造的な即興演奏を繰り広げた上原ひろみ(7月25日、グリーンステージ)=写真 中嶌 英雄
上原ひろみの自在な即興をがっちり受け止めたアンソニー・ジャクソン(7月25日、グリーンステージ)=写真 中嶌 英雄

 あっけにとられない観客はいない。ためいき、どよめき、うめき……。鍛え抜かれた技、その場の即興の目くるめく創造力、しかも楽しい。こういう音楽の存在を若いロックファンに知らしめるには、とても良い機会だったと思う。

 全く違った方向性ながら、深い滋味を味わわせてくれたのが、ヘンリー・グレイとエディー・ショウだった。米シカゴ・ブルース界の生き字引ともいえる2人だ。最終日の夕方、決して大きくはないが、ほどよいサイズのステージ「フィールド・オブ・ヘブン」に登場した。

米シカゴ・ブルース界の大御所、ヘンリー・グレイ(7月26日、フィールド・オブ・ヘブン)=写真 中嶌 英雄

 グレイはブルースの巨人ハウリン・ウルフの専属ピアニストとして活躍し、ショウもウルフが亡くなる1976年までバンドのサックス奏者を務めたほか、シカゴ・ブルースの父といわれるマディ・ウォーターズのバンドにもいたことがあるという。

 この日は78歳のショウが基本的にリードしながら、しゃがれた強いボーカルと分厚いテナーサックスのサウンドを披露し、90歳のグレイもレイ・チャールズを思わせる張りのあるボーカルと渋いピアノを聴かせてくれた。熟成に熟成を重ねた末にようやく出てくる味わいだろう。各曲の終わりに必ず高くジャンプして見せるドラマー、デリック・マーティンも良い味を出していた。

 そのほか印象に残ったのは、米ニューオーリンズ・ファンクのグループ「ギャラクティック」に女性ボーカルのメイシー・グレイが加わった2日目夜のステージ(フィールド・オブ・ヘブン)や、日本のジャズ・ブルース・バンド「ブラッデスト・サキソフォン」にルイ・アームストロング楽団の専属歌手だったベテランのジュウェル・ブラウンが加わった最終日昼のステージ(フィールド・オブ・ヘブン)だ。

 ジャンルを問わずにいえば、兄弟姉妹3人で古いスタイルのロックンロールを聴かせた英国の「キティー・デイジー&ルイス」(初日、フィールド・オブ・ヘブン)、2日目昼のグリーンステージを沸かせた米シンガー・ソングライターのネイト・ルイスも良かった。最終日の夜、末期のすい臓がんから奇跡的に生還したウィルコ・ジョンソンがフィールド・オブ・ヘブンで圧巻の歌とギターを聴かせてくれたことも特筆しておきたい。7月24~26日、新潟県・苗場スキー場。

(編集委員 吉田俊宏)

米シカゴ・ブルース界を代表するサクソフォン奏者のエディ・ショウ(左)と曲が終わるたびにジャンプして観客を沸かせたドラマーのデリック・マーティン(7月26日、フィールド・オブ・ヘブン)=写真 中嶌 英雄
日本のブラッデスト・サキソフォンと共演したジュウェル・ブラウン(左)は、かつてルイ・アームストロング楽団の専属歌手だった(7月26日、フィールド・オブ・ヘブン)=写真 中嶌 英雄
末期がんの手術を受けて生還し、元気なギターとボーカルを聴かせたウィルコ・ジョンソン(左)と盟友のベーシスト、ノーマン・ワット・ロイ(7月26日、フィールド・オブ・ヘブン)=写真 中嶌 英雄

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