ライフコラム

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被災地の廃校で学び遊ぶ夏 宮城・石巻市雄勝地区

2015/8/13

東日本大震災で壊滅的被害を受けた宮城県石巻市の雄勝地区。穏やかに輝く雄勝湾を背に坂道を上ると、森に囲まれた高台に木造校舎がぽっかりと姿を現す。築93年の旧桑浜小学校だ。7月、この過疎地の廃校が子供たちの複合体験施設「モリウミアス」に生まれ変わった。1泊から7泊の農林漁業体験プログラムを通じて自然の恵みや循環を学びながら、地元の人たちと交流する。東京、仙台、福岡からやってきた子供たちの2日間を追った。
夕暮れ時、明かりがともった「モリウミアス」。食卓に集まる子供たちのにぎやかな声が聞こえてきた(7月、宮城県石巻市の雄勝地区)

<1日目>

■変わり果てた光景に立ち尽くす

震災前の写真を手に、家々がなくなった地域を歩いた

午後1時。「震災前、この近くには小学校がありました」。参加した13人の小学生が、スタッフの説明に耳を傾ける。まず向かったのは真新しい鳥居が立つ神社の境内。かつて町の中心だった沿岸部に軒を連ねていた家々は津波で姿を消し、一面雑草だけが覆い茂る。震災以前に撮影された写真を手に、どこで撮られたものかをたどる探索が始まった。

「この写真の横断歩道はここかな?」。手掛かりが乏しく、行ったり来たり。「山のかたちはここから見たものだよ!」。ようやく見つけ出した撮影場所。変わり果てた姿に、津波被害の大きさを実感し立ち尽くす。それでも、参加した5年生の女子児童は「緑がいっぱいで、海がとってもきれいな町」と屈託のない目を輝かせた。

小学校時代の面影を残す木の廊下(写真右上)、海釣りに挑戦(同下)、敷地内のせせらぎで見つけたサンショウウオ(写真左下)、釜で炊いたごはんから湯気が上がる(同上)

■足かけ2年 廃校に新たな息吹

午後3時。モリウミアスに戻ってしばし休憩。セミや野鳥の鳴き声が木造校舎を包み込む。年季の入った廊下や広い校庭を元気に走り回る子供たち。桑浜小が閉校になったのは2002年。その後、民間所有になったものの放置されていた。震災の難は逃れたが傷みが進んでいた校舎と敷地を公益社団法人sweet treat 311(宮城県石巻市)が買い取り、再生プロジェクトが始まったのが13年4月。まず取りかかったのは、裏山から廊下になだれ込んでいた大量の土砂をかき出す作業だ。さらに地元特産の雄勝石のスレートが使われていた屋根の補修。一枚一枚丁寧に磨き直した。

修復に携わったのは、のべ約5千人のボランティアと地元住民。約2年がかりの作業だ。この夏までに教室を改装し、44床の宿泊施設や食堂を備えた体験学習拠点が完成。夜には満天の星空を望める露天風呂もある。また校庭には水田を整備、春に植えた古代米の稲穂が風に揺れ始めた。ここは子供たちにとって辺り一面が遊び場。「サンショウウオ!」。敷地内を流れるせせらぎでは生き物探しに夢中だ。

まきに使うため、間伐した木を担いで山を下りる

■森を育み、海の幸を味わう

午後4時半。長靴を履いた子どもたちが水源地がある裏山に向かう。スタッフの指示で急な斜面に足を踏み入れていく。「光が地面まで差し込むような、元気な森を広げていきます」。小さなのこぎりで高さ数メートルの杉の木と格闘。初めての間伐作業にヘルメットの下から汗がしたたり落ちる。「木を倒すぞ」。大きな声が森の中で響いた。切り取った木も自然の恵み。夕飯の煮炊きのまきとして使うため、大切に抱え慎重に山を下りる。

午後6時。夕闇迫る森に白い煙が立ち上る。校庭の片隅に作った大きなかまどで、20人分のごはんと味噌汁を作る。大鍋で米をとぎ、具の野菜を切る。悪戦苦闘の末ようやくまきに火がつくと、歓声と拍手が湧き起こった。あしたは自分たちで収穫するホタテも食卓に並ぶ予定。虫の音を聞きながらテラスで「いただきます!」。窓からはオレンジ色の明かりが漏れ、過疎の山あいにぬくもりが広がった。

ホタテ漁で漁船で海へ。被災した漁師から海の話を聞く

<2日目>

■先生はホタテ漁師

午前10時。ライフジャケットに身を包み、ホタテの養殖場に向かう。初めての漁船に緊張していた表情も、海風に吹かれ気持ちよさそうだ。「雄勝は山と海が近いので、山の栄養分が直接湾に注ぎ、ホタテの育ちがいい」。説明するのは地元の漁師、永沼清徳さん(55)。今回水揚げするのは昨年11月に海に入れたもの。次々に引き上げられるホタテを食い入るように見つめ、「手のひらより大きい」、「カニがついてる」と目を丸くする子どもたち。港に戻ると永沼さんを囲み貝殻を磨く作業に取りかかる。さっそく試食した仙台市の6年生、尾形樹君(11)は「ちょっとしょっぱいけれど、大きくておいしい」と顔をほころばせた。永沼さんは旧桑浜小の卒業生。津波で養殖いかだは全滅したが、漁船は陸に打ち上げられたものの幸いにも助かった。「豊かな雄勝の海で育つホタテを見せていきたい」。今後も子どもたちの体験学習には協力するつもりだ。

雄勝はホタテやカキ、ホヤなどの養殖が盛んな地区。「漁業はようやく震災前の状態に戻った」とある漁師は話すが、震災前約4300人だった地区の人口は現在、約2千人に半減し今も減少している。モリウミアスのフィールドディレクター、油井元太郎さん(40)は「地元住民やボランティア、海外まで、多くの人がこのプロジェクトに関わっている。施設ができたことで地域の活性化につながれば」と期待する。桑浜地区の自治会長、永沼信良さん(68)は、「生き生きとした顔の子どもたちが集落にいるのを見ると、昔を思い出して元気になります」と目を細める。本格的な復興にはほど遠い雄勝だが、一筋の光が差し込んだようだ。

(写真部 井上昭義)

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