女性のチカラ、深夜未明の職場で輝く企業で活躍の場広がる

経済活動は24時間止まらない。企業で女性の活躍の場が広がり、深夜にも重責を担って働く女性が目立ってきた。多くの人が寝静まった深夜未明の職場で女性たちの姿を追った。

「ハワイにハリケーンが発生しました。今は影響ありませんが、注視が必要です」。午前3時の羽田空港。全日本空輸(ANA)の黒沢清美さん(57)は部下の報告にうなずく。4月に女性初のオペレーションディレクター(OD)に就任した。国内外を飛び交うANA機の運航に何か支障がないか見守り、目的地に予定通り安全に届けるのが役割だ。目の前の画面は世界の空を飛ぶ全機の位置をリアルタイムで表示する。

世界中を飛ぶ全日空機を見守り、安全運航を支援するオペレーションディレクターの黒沢清美さん(羽田空港)

1977年に地上勤務職員として入社した。空港でのチェックインや案内・誘導が主な仕事だ。寿退社が当たり前で同期女性は次々と職場を去った。黒沢さんは28歳で結婚してからも仕事を続けた。ただ社歴を重ねても職務に大きな変化はない。「定年まで同じ仕事を続けるのだろうか」と感じていた。

転機は2001年。総合職に転換できる制度ができた。自分が指導した新人の総合職男性が追い越して上司になっていく。「同じキャリアを積んできたのになぜ」。自らの経験と実際の仕事とのギャップを感じていた。思い切って挑戦し、転換女性の1期生となった。運航業務や管理職などで経験を積んだ。

羽田空港に駐機する旅客機

ANAは毎日約1000便を国内外で飛ばしている。見守るODはわずか10人。昼夜を問わずローテーションで執務に当たる。不測の事態が起きたとき、欠航を決める権限は当番のODしか持っていない。飛行機が飛ばなければ、顧客に不便をかけるし、会社には予定した収入が入らない。「でも安全が最優先。フライトプラン(運航計画)設計や気象解析、ダイヤ調整などその道のプロが常時情報を届けてくれる。彼らの力を束ねて空の安全を支えている」

夜勤でビールの仕込み釜を点検する高村安咲美さん

女性の深夜業は母性保護などの観点から看護師や保育士など一部例外を除き99年まで禁止されていた。解禁以降も職場の慣習はなかなか変わらず、中枢を担う職域に女性はあまり就かなかった。ただ、昨今の女性活躍推進の流れを受け、女性の仕事は深夜にも急速に広がっている。

午前2時のキリンビール横浜工場(横浜市)で醸造エネルギー課の高村安咲美さん(24)は生産工程を監視するパソコン画面を凝視する。「今晩は熱帯夜。醸造釜が適温を超えないか心配です」。ビール造りに欠かせない酵母は生き物だ。製造ラインは24時間、ほぼ365日動く。夜間も制御室に技術者が詰めて、すべての工程をチェックする。高村さんは同工場で唯一夜勤もこなす女性技術者だ。

勤務は3交代で、夜勤は週2回、午後9時すぎから明け方まで。ちょっとした異変は制御室から操作して調整できる。ただ大きなトラブルがあれば現場に出向いて対処する。原材料の配管のバルブが開かず、早朝4時に修理したこともある。「昼間は20人近い先輩社員が近くにいるが、夜勤は3人体制。自分の判断で対応しなければならない場合に緊張感がある」

キリンビール横浜工場(横浜市鶴見区)

大学で化学を学んだ“リケジョ”だ。「お酒が大好き」でキリンビールに13年入社した。ビール醸造の現場は女性の少ない男の職場だ。当初は不安を感じたが、今は慣れた。「夜勤も苦にならない。おいしいビール造りに貢献できて、仕事にやりがいを持っている」

日本有数の繁華街、東京・銀座の一画で、東京海上日動火災保険のグループ会社、インターナショナルアシスタンス(東京・中央)医療サービス部の北沢麻衣さん(33)は働く。海外旅行保険の契約者からのコールセンター業務などを担う。

北沢麻衣さん(右)は海外旅行保険のコールセンターで夜勤をする(東京・銀座)

「パスポートの入ったバッグを盗まれた」「高熱が続き具合が悪い」。日本は静かな深夜帯でも電話の向こうは切羽詰まった異国の地だ。24時間オペレーターが控えて、提携病院を紹介したり、警察への被害届の出し方などを助言したりする。

北沢さんはオペレーターのまとめ役だ。対応に誤りがないかに目を配り、保険でまかなえるか否かの判断が難しい案件は自ら対処する。午後9時から翌朝9時半までの夜勤時間帯に1日約120本の電話が入る。「ツバルやボリビア、キューバなど私自身行ったこともない国からSOSコールがある」

深夜の海外旅行保険のコールセンター(東京・銀座)

大学卒業後にタイで3年半、日本語教師を務めた。帰国後に今の会社に入社。オペレーターの6割は女性だが、夜間コールセンターでまとめ役をこなす10人の社員中、女性は2人だけだ。どうすればより顧客のためになるか。約款を熟読し、過去の事例から学ぶ。「困った人を助けてあげられる。そこに仕事のやりがいを感じる」

(女性面編集長 石塚由紀夫、青木茂晴、井川遼)