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「自分の目の黒いうちに治したい」 斎藤加代子さん 東京女子医科大学付属遺伝子医療センター所長・教授

2015/8/9

「おっ、乳歯が抜けたね」。診察室に張りのある声が響く。緊張した親子の顔がふわっと緩む。小柄でお団子髪が定番。優しい母のような小児科医と、難しい遺伝病の新しい治療方法を探る研究者の顔を持つ。

東京女子医科大学附属遺伝子医療センター所長の斎藤加代子教授=写真 小川望

医師になって約40年、「目の黒いうちに何とか治せるようにしたい」と取り組むのが、小児の脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬開発だ。ある既存の薬を使う国内の臨床試験(治験)を率い、米ベンチャー企業が進める別の物質の国際共同治験で日本の窓口を務める。

SMAは特定の遺伝子が働かず、乳幼児期に筋力が十分に発達しない病気だ。国内には1000~2000人の患者を見込む。体が柔らかく、一人で座れなかったり、首がすわらなかったりするほか、重症になると自分で呼吸できない。ヒトの遺伝情報が完全解読されて12年、病気の診断は付くようにはなったが、「治せないことをもどかしく思い続けてきた」。

薬などで遺伝子の働きを変える技術が徐々に成果を上げ始めている。自らが率いる治療法は細胞での効果を確認後、既に昨年13人に導入した。「座れなかった子が、座れるまでに回復する例も出た」と目を輝かせる。

それでも「企業は乗ってくれない」。患者数が少なく、既存薬を使うので大きな利益が望めないからだ。国の研究費を得て、ようやく本格治験の参加者を近く募る。

医師になったのは産婦人科医院を開いていた父の影響だ。「昼、夜なくお産に明け暮れる姿に、医師になって手伝わなきゃと思った」。高校で遺伝や体が作られていく発生に関心を持ち、小児科を選ぶ。患者を診る臨床医と科学者の二足のわらじをはいた。大学院修了後は長男を連れて米国へ留学。その後長女が生まれ、海外で子育てしながら研究を続けた。

日本で初めてSMAの遺伝子診断技術を確立、欧米からは「日本ならサイトウ」と信頼される。患者家族会の設立を支え、病気の子を持つ親の強い味方だ。「この治療法は確実ではないが、少しでも治る芽がある。早ければ早いほど効果が出る可能性は高い。一緒に頑張りたい」と話す。

斎藤加代子(さいとう・かよこ) 東京女子医科大学付属遺伝子医療センター所長・教授。福島県生まれ、東京都育ち。同大学院を1980年に修了、医学博士。2004年から現職。

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