佐渡裕から五嶋龍へバトンタッチ「題名のない音楽会」司会者、7年半ぶりに交代

「世界一長寿のクラシック音楽番組」として、ギネスブックにも登録されたテレビ朝日系列の「題名のない音楽会」。2008年4月から7年半にわたって司会を務めてきた指揮者、佐渡裕(54)が今年9月で「卒業」し、ヴァイオリニストの五嶋龍(27)が10月に第5代の司会者に就く。長寿番組の51年目に訪れた転機である。

ウィーンの名門楽団の音楽監督就任で多忙に

「みなさんと一緒に新しいページをめくりましょう」の合言葉とともに現れた佐渡は、番組創設に深くかかわった初代司会者で作曲家の黛敏郎(1929~97年)への敬意をベースに、企画の路線をクラシック音楽入門の原点に回帰させた。日欧を往復する多忙な演奏日程の合間を縫い、「ヨーロッパにいる間の1~2カ月分を離日前に撮りためる」という離れ業を7年以上続けた。だが今年9月、オーストリアのニーダーエスターライヒ州立トーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督に就任すると、年間20~25週間をウィーンで過ごさなければならず、綱渡りの収録すら不可能に至った。

五嶋龍(左)が7歳の折、札幌で初めて共演した時の写真を見つつ、思い出を語る佐渡裕(2015年7月30日、東京オペラシティで)

昨年までに番組の50周年記念企画、ギネスブック登録などの大イベントを達成したこともあり「これを機に、卒業することにした」という。

「指揮だけでなく、司会でも声をかけられた驚きは大きかった」。だが「視聴者のみなさんの応援と番組開始以来の1社単独スポンサーである出光興産の支え、さらに毎回の収録後に意見を交換するスタッフ一丸の制作態勢」で長距離を走りきった。中でも11年4月、本来は出光創業100周年の華やかなガラコンサートを行うはずだったが、「東日本大震災の被災者支援、犠牲者追悼の演奏会への変更を快諾していただいたのは一番の思い出」だ。「音楽家として、自分たちのこれからやるべき道が見えた」と、佐渡は振り返った。

佐渡のちょうど半分の年齢の五嶋はニューヨーク生まれだが、両親は日本人。「天才少年」として7歳で札幌市のパシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)に招かれ、超絶技巧曲であるパガニーニの「ヴァイオリン協奏曲第1番」でデビューを飾った際の指揮者が佐渡だった。以来20年、ヴァイオリンの研さんだけでなくハーバード大学で物理学を修め、空手でも有段者となるなどで視野を広げてきた時点で「歴史ある番組の司会を、ほかならない佐渡大先輩から引き継ぐことになった」。 すでに収録は始まっている。松尾由美子アナウンサーとコンビの司会にはまだ、ぎこちなさもあるが、五嶋は率直な物言いの中にさりげなく「開放5度の音階」「真のヴィルトゥオージティー(名技性)とは」といった高度な話題を織り交ぜ、聴衆・視聴者を無意識のうちに音楽の世界へいざなっていく。客席には毎回、多彩な分野の著名人を招き、音楽への思いを語ってもらう。7月30日、東京オペラシティコンサートホールでの収録(2回分)には宇宙飛行士の毛利衛、プロフィギュアスケーターの村主章枝の両氏が参加した。

五嶋は久石譲が新たに書き下ろした主題曲を弾くだけにとどまらず、番組の中の様々な場面でヴァイオリンを手にとり、「貴重なライヴ感の魅力」を積極的に盛り上げる。「あまり複雑なことを言わず、家族全員が楽しめる番組――子どもは『ここが良かった』といい、クラシックに疎い人が『ああ、そうか』とうなずき、通が『そこは、こうだ』と議論してほしい。とにかく全員をターゲットに、先達への敬意は十分払いつつも、絶えず伝統から進化、変化を目指して取り組んでいきたい」と、五嶋は抱負を語る。

番組では初代司会者の黛の時代から、クラシック以外のジャンルの音楽家、著名人との「異業種交流」に熱心だった。佐渡は「自分も収録時、サインをしてもらったゲストが何人かいた」と打ち明け、記者たちを笑わせた。五嶋も「毎回、多い時は3~4人のゲストに会える。ふだんの演奏活動では絶対に交わらない人もいて、自分の音楽・芸術のネットワークを広げられそうだ」と、早くも司会のメリットを感じ始めている。

佐渡の時代は海外でのロケが何度かあったし、佐渡と五嶋の共演歴も長い。近い将来、「題名のない音楽会」の収録をウィーンで「佐渡指揮トーンキュンストラー管、五嶋の共演により実現できないものか?」と質問したところ、2人は「お金さえあれば、ぜひやりたい」と即答した。「もはやヨーロッパでも考えられなくなった長寿の音楽番組」(佐渡)が日本で半世紀以上も続いている事実を「音楽の都」でぜひ、アピールしてほしい。

五嶋が司会者として登場する初回の放映予定日は10月4日。「バッハをめぐる音楽会」をテーマに黒柳徹子、久石譲の両氏がゲスト出演する(7月15日に収録済み)。

(電子編集部 池田卓夫)

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」、他

演奏者:五嶋龍
販売元:ユニバーサル ミュージック