手軽で高栄養 オンナ心つかむ「スーパーフード」日経BPヒット総合研究所 黒住紗織

日経BPヒット総合研究所

エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を切るコラム「ヒットのひみつ」。今回のキーワードは「スーパーフード」です。今や一般スーパーにもコーナーができるほどすそ野が広がり、コーナーを作って1年9カ月で売り上げが6倍に拡大した専門店もあります。人気の背景と代表的な食品の概要、使い方を紹介します。

ココナツオイル、チアシード、ヘンプシード、ゴジベリー…。これらは今、女性に人気の「スーパーフード」と呼ばれる代表的な食材の名前。あなたはいくつ知っているだろうか。具体的な食材については後述するが、まずはスーパーフードとは何なのか、から見てみよう。

「スーパーフード」に明確な定義はないが、大まかにいうと「一般の食品よりビタミンやそれ以外の抗酸化成分、ミネラル類、体や脳にいいとされる油など、現代人に不足しがちな栄養素を補う働きが高いとされる天然の低(無)加工食品」となるだろうか。多くは木の実や種子、果実、またはそれらを乾燥させたり、非加熱で粉状にしたり、絞って油にした形で売られている。

高い栄養価を持つ木の実や種子などが「スーパーフード」と呼ばれる食材の代表。そのまま食べる、かけるだけ、といった手軽さが人気の秘密(写真:小林キユウ)

「美は内側から」の考え方が浸透

もともとは1980年代に、食事療法を研究する米国やカナダの医師や専門家の間で使われ始めた言葉だそうだが、約30年後の今のブームの牽引役は、米国のモデルやハリウッド女優など、“ビューティーアイコン”たち。彼女らが「インナービューティー(食べ物に気を付けて内側から美を磨くこと)」を合言葉に愛用していることが知れ渡り、日本のモデルや女優などの著名人、美容・ファッションに感度の高い一般人に飛び火。最近はより幅広い層にまで人気が広がっている。

2013年9月にいち早く「スーパーフード」コーナーを開設したのが、「美と健康」のテーマパークをコンセプトにした、伊勢丹新宿本店地下2階の「ビューティアポセカリー」。扱いアイテム数は開始当時の約30点から約100点に増え、開設から1年9カ月で売り上げは約6倍に拡大した。客層は圧倒的に女性が多いが、男性客のリピーターも目立つという。

伊勢丹新宿本店地下2階の「美と健康」をコンセプトとした「ビューティアポセカリー」フロアでは、スナックなども合わせ、常時約100点の「スーパーフード」を扱う。他に先駆けてコーナーを作った

同コーナー開設時に日本に上陸した、米国のスーパーフードのトップブランドの一つ、サンフードの製品を輸入販売するアリエルトレーディングの中村達也氏は、「2013年以来、扱い店舗は着々と増え、現在は約100店になった。売り上げは昨年同月比160%と好調でリピーターが多いのも特徴」と話す。

当初は百貨店、専門店など売り場が限られていたが、最近では大手スーパーでも特設コーナーを設けるところが出てきている。

日本でのヒットの引き金は、前述のように「ビューティーアイコンご用達」というストーリーへの憧れと好奇心。憧れの人をまねたい女心はいつの時代にも共通する消費の動機であり、ヒットが生まれる近道だ。しかし、広く浸透してきた背景には、スーパーフードが持つ、現代人の食への不安を解消する要素がある。

食への不安解消する「天然サプリ」

「当初は、インナービューティーに対して感度が高いお客様が多かったが、最近は一般の方にもその意識が浸透している印象がある」と「ビューティアポセカリー」アシスタントバイヤーの鳥谷悠見さん。美と健康の基本は食べものからという認識は、健康を気遣う人の常識となっている。

となると、重要になるのが「何を食べるか」だ。いまや、普通の食事だけでは必要な栄養素が十分取れていない場合が多いこと、また同じ食材でも昔に比べてその栄養価が下がっている場合もあるというのは、多くの人が知るところ。

だからといって、特定の成分だけを化学的な方法で抽出したサプリメント(以下サプリ)で不足分を補うより、一般食品から摂取したいという声は根強い。その要望に応えたのがスーパーフードだ。

不足しがちな栄養素を多様に含むうえ、非加熱や低加工でオーガニックにこだわった製品が多い。スーパーフードは、食事とサプリの間の「天然サプリ」の位置づけなのだ。

先住民族の元気のもとを“発掘”

スーパーフードには、チベットやアンデス山脈、熱帯雨林などの秘境の先住民が「力を与えてくれる食べ物」として長く食してきたものが多い。「メディカルハーブとして古くから使われ、その多くについて薬理効果が分かっている。実際、体調の変化を実感したという人の多くがリピーターになっている」と中村氏。

秘境の先住民の「元気の素」という神秘性と、長く食べ続けられてきた食への安心感。こうした物語も女心をくすぐる要素だ。

もう一つ、忘れてはならないのが手軽さだ。今、人気の商品はいつもの食事にトッピングするだけだったり、そのまま食べるものが多く、忙しい現代人のニーズに合っている。

たとえば、アルツハイマー病の症状改善が期待できるかもしれないとする米国医師の見解から話題になったココナツオイル。ほかの植物性油などに比べて太りにくい油だとの研究もあり[注1]、バターの代わりにパンに塗る、調理油に置き換えて使うなど、ダイエットの味方になる油としての使われ方も人気だ。

チアシードは、ゴマよりさらに小粒の南米原産のシソ科植物の種。カルシウム、鉄、亜鉛などのミネラルが豊富で、脳や血管にいい油として知られる魚油と同じ「n-3系脂肪酸」の含有率が高い。

チアシードはゴマより小さなシソ科植物の種。好みのジュースに大さじ2杯程度のチアシードをいれ、数時間から一晩置くと、ぷるんぷるんのスイーツのようになる(写真:小林キユウ、スタイリング:高橋ユキ)

水分を加えると種の周りがジェル化して約10倍に膨れ上がる性質がある。これはコンニャクの主成分でもあるグルコマンナンという水溶性食物繊維の働きによるものといわれ、チアシードを食べると満腹感が持続するとの研究もある[注2]

[注1]論文:Am J Clin Nutr;87,3,621-626,2008
[注2]論文:Eur J Clin Nutr;64,4,436-8,2010

ヨーグルトやジュースに入れるだけで腹持ちが良くなるうえ、最近は魚料理の苦手な人も多いとあって、植物性のn-3系脂肪酸源として魅力を感じる女性は多い。固い細胞壁に包まれているので、よく噛むことがポイントだ。

ヘンプシードは七味唐辛子に入っている麻の実といえば、「なーんだ」と思う人も多いだろう。必須脂肪酸や必須アミノ酸、20種類以上のミネラル、ビタミンそして食物繊維を含む優秀な実で、そのままナッツとして食したり、ゴマの代わりに使うといい。

写真4 ヘンプシード(麻の実)は癖がないので、ご飯にまぜておにぎりにしたり、青菜とあえるなど、ゴマのように使うといい(写真:小林キユウ、スタイリン:高橋ユキ)

ゴジベリーの日本名は「クコの実」。たんぱく質、多種類のミネラルのほか、強い抗酸化成分を含むことから、老化予防、長寿の食品として中国料理や漢方にも使われており、ドライフルーツとしてそのまま食べてもおいしい。

実は、ゴジベリーやヘンプシードに限らず、チアシードなども日本では新顔食材ではない。かつて単品でその健康成分の高さが注目されたが、今のようには広がらなかった。

今回のヒットは、手軽に食べられて高い栄養価がある植物性の食材を一つのカテゴリーとして「スーパーフード」と名付け、「スタイリッシュな新・健康美容食」として生活提案できている点が大きい。消費者はそれらの群の中から自分の生活スタイルや体調に合わせ、選ぶ楽しみがある。「既に市場にある『ノニ』(ポリネシア原産の果実)など、さまざまな食品が改めてスーパーフードとして見直されるのでは」と鳥谷さんは話す。

ただ気になるのは、話題になる食材の多くが海外発のスーパーフードである点。日本にも大豆や海藻など、世界に誇れるスーパーフードがある。自分たちの食文化に目を向けたスーパーフードにもっと光が当たるような研究や提案が今後多く出てくれば、市場はより活性化するだろう。

黒住紗織(くろずみ・さおり)
日経BPヒット総合研究所主任研究員。日経BP社ビズライフ局プロデューサー。サンケイリビング新聞社を経て、90年、日経BP社入社。『日経レストラン』『日経ベンチャー』などの記者を経て、2000年より『日経ヘルス』編集部。その後『日経ヘルスプルミエ』編集部 編集委員など。女性の健康、予防分野の中で、主に女性医療分野を中心に取材活動を行う。
[参考] 日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。