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日本の歩き方

宮崎はキャビア生産日本一 手探りで養殖、金の卵に

2015/8/8

世界三大珍味の一つ、キャビアはロシアが主産地で「欧州の高級食材」のイメージが強い。チョウザメの卵であるキャビアを国内で生産し、特産品に育てているのが宮崎県だ。同県はチョウザメの養殖に力を入れ、実は日本一のキャビアの産地でもある。宮崎キャビア誕生の舞台裏を探った。
県水産試験場の水槽を泳ぐチョウザメ(宮崎県小林市)

宮崎市の西約50キロ。緑の山々に囲まれた宮崎県水産試験場内水面支場(小林市)の水槽で体長2メートル前後のチョウザメの親魚約100匹が悠々と泳いでいる。ここはニジマスやヤマメ、アユなど淡水魚の研究拠点であると同時に、チョウザメ養殖の中核施設でもある。チョウザメの幼魚千匹、稚魚約3万匹を育てている。

「サメなのになぜ山の中で?」。そんな疑問を支場長の稲野俊直氏にぶつけると「チョウザメはサメではありません。チョウザメ科の魚で淡水で飼育します」と説明してくれた。

国内では茨城県や岐阜県、愛知県などでもチョウザメを養殖しているが、官民一体で本格的にキャビア生産に取り組んでいるのは宮崎県だけだ。宮崎県がチョウザメ養殖を始めたのは1983年。旧ソ連との漁業技術協力の一環でチョウザメの日本移入が決まり、水産試験場小林分場(現・内水面支場)で200匹を引き受けた。

だが国内では前例がないだけにエサや飼育環境といった基本的なことも分からない。海外の文献を読みあさるなど「すべてが手探りだった」(稲野氏)。群れで管理する他の魚と違い、個体によって産卵タイミングが違うチョウザメは1匹ずつタグを付けて管理する。徹夜で様子を観察することもあったという。

91年、ようやく人工授精に成功。だが、ふ化率は数%にすぎず、商業利用はほど遠い。試験場ではふ化率向上とキャビア製造技術の確立に向けて研究を続ける一方、職員らは手掛かりを求めて欧米の企業や大学、研究機関に出かけた。

「企業秘密」として詳細な情報を公開しない相手も多かった。それでもふ化率向上には水温、キャビア製造には熟成がカギになることが分かった。前内水面支場長で県水産政策課の毛良明夫氏は「試行錯誤の連続だったが、多くの方々の支援でキャビアの製造技術を開発できた」と振り返る。

2004年には「稚魚→親魚→稚魚」の完全養殖に成功。県はチョウザメ養殖とキャビア製造の普及に向けて参入事業者を募集し、技術やノウハウを無償で提供した。

11年に稚魚の大量生産に成功したのを機に参入が加速。淡水魚の養殖業者のほか、建設業や農業など異業種の事業者も多かった。稚魚から育ててキャビアが採れるまでに最短でも7年ほどかかるため、経営多角化の一環で取り組むケースが大半だ。

県の技術指導を受けた11業者は13年4月、宮崎キャビア事業協同組合(宮崎市)を設立。同年11月、初の商品「宮崎キャビア1983」を東京の百貨店で発売した。研究開始から30年かけて念願のデビューだ。

「宮崎キャビア1983」(福岡市・天神の岩田屋本店内・高橋商店)

日南市で約4千匹を育てる同組合の浜中章輔代表理事は建設業から参入した。最初は200匹でスタート。水槽の給水パイプに落ち葉が詰まり酸素不足で約千匹が死ぬといったトラブルにも見舞われた。「初めてキャビアがとれたときは本当にうれしかった」と笑う。

宮崎キャビアは現在、宮崎、東京、大阪、福岡の百貨店と、同組合のオンラインショップで販売している。価格は12グラム入り6500円(税別)から。輸入キャビアに多い、長期保存のための高塩分処理や防腐剤添加をせず、キャビア本来のうまみを出すために熟成させる。坂元基雄事務局長は「とろけるような食感と濃厚でクリーミーな味わいは宮崎産だけ。どこにも負けません」と胸を張る。

初年度の生産量はわずか15キロだったが、2年目に60キロ、3年目の今年は200キロと着実に増加。同組合は16業者に増えており、19年度には2トン程度を見込む。キャビアを使ったクッキーやチョコレート、せっけんなどの関連製品も開発・販売している。

宮崎県は今年、宮崎キャビアをふるさと納税の返礼品にした。河野俊嗣知事は宮崎キャビアの写真入り名刺を県内外で配りアピールに余念がない。宮崎牛や焼酎、マンゴーに並ぶ新たな特産品になりつつある。

(宮崎支局長 土居輝行)

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