N
ライフコラム
法廷ものがたり

小学生女児、いじめとケンカの境界は

2015/9/16

法廷ものがたり

裁判記録をとじた厚いファイルを開き、埋もれた事案に目を向けてみれば、当事者たちの人生や複雑な現代社会の断片が浮かび上がってくる。裁判担当記者の心のアンテナに触れた無名の物語を伝える。

小学生の娘が同い年の幼なじみから嫌がらせを受けているらしい。母親は「いじめだ」と学校に訴え出たが、学校側に否定され、学校を管理する自治体と相手の両親に対して慰謝料などを求める裁判を起こした。いじめか、ただのケンカか。人間関係の摩擦を経験しながら成長する子供にとって、その境目はどこにあるのだろう。

その女児には1歳のころから同じマンションに住む幼なじみの女の子がいた。幼稚園でも常に一緒。互いの家を行き来したり、家族ぐるみで出かけたりする仲だった。だが、小学校に進み、別のクラスになると、それぞれに新しい友達ができ、次第に疎遠になっていった。

3年生で同じクラスになったとき、2人の関係は疎遠どころか、険悪ともいえるものになっていた。女児は担任教諭に提出する日記帳に、幼なじみから「弱虫」と言ってボールをぶつけられたことなどを書き込み、「本当に昔から意地が悪い」となじった。担任はすぐに相手に謝らせるなどし、女児は「先生のおかげで仲直りできた」と感謝した。だが、その後もランドセルを引っ張られるなどのトラブルはなくならなかった。

幼なじみからいじめ? 学校は対策委設置

4年生の2学期、経緯を耳にした女児の母親は担任に「いじめを受けている。5年生は別のクラスにしてほしい」と要望。学校側は聞き入れて2人のクラスを別にしたが、母親は「無視されるなどのいじめが続いている」とし、校長を訪ねてさらに対応を求めた。

校長は両クラスの担任や養護教諭、生活指導主任で「いじめ問題対策委員会」を立ち上げ、スクールカウンセラーにも協力を求めた。そして本人たちや周りの児童に聞き取り調査をした。2人が不仲なことは誰もが認識していたものの、具体的にいじめがあったという証言は当人である女児以外からは得られなかった。

学校側の結論を伝えられた女児の両親は「隠蔽するのか」と反発。公立小学校を管理する自治体と相手の両親に対して、慰謝料など総額440万円の損害賠償を求めて提訴した。

訴えられた側は「入念な調査でいじめは存在しなかったと結論付けられている」と反論。幼なじみの母親は証人尋問で「娘はいじめていないと泣きながら言っていた。親なので娘の言うことを信じます」と述べた。

続いて証言した女児の母親は「(いじめられたという)ウソの作り話をしたとして、被害者のはずの娘が加害者にされている」と反発。「学校側がもっときちんと調べ、双方が納得いくようにまとめてくれたら良かった」と不満をあらわにした。

裁判長は判決理由でまず、「小学校は人格的に未成熟な児童が集団生活を通じて人格を形成する場であり、不愉快な経験をすることも想定される」と指摘。法律上の賠償責任が認められるのは「行為の具体的な性質、前後の状況などを総合的に判断し、社会通念上許される限度を超えている場合」とする基準を示した。

「不愉快にはしたが、賠償責任はなし」、一審で確定

そのうえで問題とされた行為を1つずつ点検し、「(いじめとされる)行為は(いじめられたとされる)児童にとって不愉快だったといえるが、継続的、計画的、組織的ではない」として法律上の賠償責任は無いと判断した。学校側の対応も合理的だったとし、女児の両親側の請求を全て退けた。判決はそのまま一審で確定した。

付き合いが長く家も近い相手との裁判は、訴えた側の家庭にも葛藤をもたらした。女児の2歳上の姉は法廷に提出した陳述書に「家に帰れば裁判の話、私が寝た後も父と母で裁判の話、妹と楽しく話をしていても『裁判の仕事をしているから静かにして』と言われる。四六時中、裁判、裁判…。どんな結果で終わろうと、笑えなかった時間は元に戻りません」と、やり場の無い思いをつづった。

「いじめをお母様が一緒に解決なさろうとし、こじれてしまったということでしょうか。(女児本人の)気持ちという本質から少々離れてしまったような気がします」。女児の母親から相談の手紙を受け取った1、2年生時の担任は、返信にこう記した。

「小学校の中学年から高学年にかけて、特に女子の人間関係は非常にデリケートなものです。学習より人間関係で疲れ切ってしまうことも珍しくありません。今回の件は長い目で見て(女児が)対峙した険しい通過点だとも思えます」

(社会部 山田薫)

注目記事