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定年楽園への扉

なぜ退職時、自信喪失に陥るのか 経済コラムニスト 大江英樹

2015/8/20

最近、定年が近づいた方々から、退職後の働き方について相談を受けることが増えてきました。私自身が退職後に自分で事務所をつくって仕事を始めたことから、参考にするために意見を聞きたいということなのでしょう。

そうした人たちに共通することがあります。多くのみなさんが、自分の能力に対して自信がないとおっしゃるのです。私にはこれがとても不思議に思えます。

先日も昔勤めていた会社に勤務していた後輩が私を訪ねてきました。彼は現役時代、役員にこそならなかったものの、とても立派な仕事ぶりで部長として第一線で大活躍していた人物です。

そこで私は「君はこれこれ、こういう能力があるのだからそれを生かしてやればいいじゃないか」といったところ、「いや、とてもそんな自信はありません。自分はずっとサラリーマンで一つの会社に定年までいたので特別な能力なんか何もないのです」というのです。

私から見れば、彼の現役時代は非常に優秀だったと思います。また現役時代に彼と酒を飲みに行った時など、しばしば彼は「自分にはこれだけの能力があるのに、上が正当に評価してくれていない」とぼやいていたのです。事実、彼の営業力や管理能力、そして業務知識は少なくとも社内でかなり平均を上回っていたことは確かです。

であるにも関わらず、いざ退職が近づいてきて独立したり、転職したりすることを考え始めると自信喪失に陥るのは一体どうしてなのでしょう。彼に限らず、大企業に勤めていて転職経験がないサラリーマンの多くは、「現役時代の自信過剰、退職時の自信喪失」に陥ることが多いように見えます。これは私自身も一つの会社で定年まで勤め、全く転職経験を持たないので、こういう人たちの気持ちはよくわかります。

現役時代はほとんどの人が、心理学でいう「自信過剰バイアス」に陥っています。これは客観的な評価よりも自分の能力を高く見積もる傾向のことです。このため多くの人は自分に対する評価に不満を持っています。実際の能力の高低とは関係なく、誰でも「自分の能力は正当に評価されていない」と思いがちで、自分に対しては実際の能力以上に自信を持っているのが普通なのです。ではその自信はどこから来るかといえば、多くの場合、それまでの勤務で得た業務知識、経験知、そして成功体験といったところです。

ところがいざ退職するという段になり、それまでいた会社とは違う環境で働くということを考えてみると、とたんに不安になります。なぜなら自分の力が今の会社以外でも通用するのかどうかわからないからです。私自身も会社を辞めて独立した時には同じような不安な気持ちになりました。

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