宝塚歌劇団花組公演「ベルサイユのばら」アジア進出の布石、王道の恋物語

「これぞ、タカラヅカ」だろう。宝塚歌劇団花組が梅田芸術劇場(大阪市)で上演した「ベルサイユのばら~フェルゼンとマリー・アントワネット編~」は、アジア本格進出の布石と位置づける台湾公演(8月8~16日)を一足先に披露した。花組トップスターの明日海(あすみ)りおら主要キャストに適役を得て、花組の生徒(劇団員)ら40人の一糸乱れぬダンスなどを交え、観客を宝塚の王道である恋物語へといざなった。

秀逸な幕開けだ。客席最前列天井につられたミラーボールの回転が止まると、電飾で中国語表記のタイトル「凡爾賽●瑰(ベルサイユのばら、●はたまへんに攵)」を彩った幕が登場する。その幕が上がると、漫画「ベルばら」の原作者、池田理代子が描いたスウェーデン伯爵フェルゼンとフランス王妃マリー・アントワネット、男装の麗人オスカルの3枚の巨大肖像画が現れ、後ろから各役を務める明日海、花乃(かの)まりあ、柚香光(ゆずか・れい)が舞台にあらわれる。1974年の初演時のものに、台湾向けアレンジを加えた演出だ。

衣装と舞台セットは豪華で美しい。物語が進むにつれ花乃は薔薇(ばら)の舞台セットに乗って登場し、明日海は主題歌「愛あればこそ」を情感のこもった歌声で客席に届ける。娘役16人と男役16人が順に、明日海を囲む形でダンスを繰り広げ、プロローグの最後は男役と娘役計32人が一気に貴族と貴婦人に早変わりしてみせた。演出は74年の初演から、同作を手掛けてきた植田紳爾(しんじ)と谷正純。台湾では初めての観劇客が多いことを見越して「つかみ」を重視、冒頭の10分にトップの魅力、男役の格好良さと娘役の愛らしさなど宝塚の粋(すい)を全て凝縮した。

フランス革命を背景に、フェルゼンとアントワネットの道ならぬ恋、そして王妃付きの近衛隊隊長オスカルと幼なじみのアンドレの純真な恋が交錯する。王宮の運河に浮かぶ小舟でのフェルゼンとアントワネットの密会、オスカルの目前で銃弾を浴びるアンドレ、バスティーユ牢獄(ろうごく)の戦闘で倒れるオスカル、牢獄に収監されたアントワネットを救出しようと駆けつけるフェルゼン……。名場面を次々に繰り出し、周囲の人々の思いを交えながら2組の恋をつづっていく。

明日海の立ち姿は優雅。魅力的な声で「愛あればこそ」を聴かせる。アントワネットは初演を見た演劇評論家の戸板康二が「(重みや気品のある)位取(くらいど)りがいる」と評した役で、花乃は歯を見せずにほほ笑み、しぐさも滑らかに品格を持って演じる。自分なりの役作りなのだろう。

アンドレを演じる芹香斗亜(せりか・とあ)は名場面とされる橋上の場面で、何発もの銃弾を浴び、見事に倒れてみせる。対して、オスカル役の柚香は眼前での幼なじみの死に心情をほとばしらせるまで、クールな表情で通した。恐らく、自身の魅力は「クールさで一番発揮できる」と考えた演技だろう。男装の麗人オスカルの良さが匂い立っていた。

出演者は全員、役の思いを内に秘める「腹芸」を封じ、しぐさや表情などで感情を出す演技に徹した。海外では感情を前面に出す方が有効との判断だ。台湾では中国語の字幕付き上演になり、舞台進行は字幕とシーンが合致するように秒単位のプロットに基づくという。最終盤でアントワネットは自身が王妃であるとともに、母であることを強く訴えるが、母性愛が厚い台湾の土地柄を考えての演出なのだろう。

花組の生徒のほか、専科から汝鳥伶(なとり・れい)、美穂圭子(みほ・けいこ)が加わる。汝鳥は堅実な演技で明日海らをもり立て、美穂は美しい歌声で舞台を彩った。

所見したのは、7月10日の梅田芸術劇場初日。台湾公演のため日本から送る大道具や衣装、照明装置は40フィートコンテナで18本分にも及ぶ。歌劇団がアジア本格進出の布石として重視する公演だけに、フィナーレに用いる大階段を梅田芸術劇場より段数が多い20段にするなど、舞台セットも充実させるという。

(編集委員 小橋弘之)